トオルの受難 ~3~
それから五カ月。
時々かる~い喧嘩をかますふたりにとって、トオルはちょうどいい緩衝材だった。
そんな面倒な役割を与えられて「迷惑千万」なんて思わないのは、ちっちゃいころからの友達であるハルトはもちろん、ユウリの事も好ましく思っているからだった。
なので、今日もいつもどおり、ユウリをなだめにかかるトオルだった。
「なに? ハルトに何されたん?」
「俺はなんもしとらんわ!」
遠くで文句を言うハルトを無視して、ユウリに話しかける。
「あんなぁ、あんなぁ。俺、ハルトの大事にしとるスニーカーにな、漂白剤かけてもうたんよ」
出不精のくせに、スニーカーには妙なこだわりがあるハルトは、履きもしないスニーカーをいくつも買い込んでいた。その中でもお気に入りらしい一足が、ベランダでまだら色に染まっている。
あぁ、これは怒られただろうなと思いつつ、ふんふんと訊き続ける。
「俺、ほんまに悪いことしてしまったって、反省しとるんに、ハルト笑うんやで。失礼やと思わん?」
どういうこと? と言葉にはしないでハルトを振り返れば、ハルトが口元に手をやってくつくつと笑いだす。
「ほらぁーっ! また笑った!」
なんだかよくわからなくてハルトに訊いてみたら、最初は本当に腹が立って、ちゃんと説明書みてから洗えと言い聞かせていたんだと言う。
でもその時、ハルトがユウリの目の前に人差し指を立てて叱っていたら、ユウリの目がその指先を追いかけて、きゅーっと真ん中によったんだと笑う。そして、それがとんでもなく可愛かったんだと、面白そうにつけたす。
「なんだよ。ただの惚気かよ」なんて、男の子同士にはあるまじきことを思いながらも、ふとその顔を思い浮かべてしまったトオルが「ぷっ」と吹いてしまう。
「あーっ! なんでトオルまで笑うんよ!」
「いや、ごめん。うん、でも……」
言い訳しながらも、トオルの肩がくっくっと震える。
「なんやねん、ふたりして俺のことバカにして! もう、おまえらなんか知らん!」
とうとう本気で怒ってしまったユウリが、リビングを飛び出して行く。
「外に行ってしまったら、危ないなぁ」と心配しながら耳を澄ませていると、その後聞こえてきたバタンと閉まるドアの音が、玄関ではなく寝室のものだったから、ハルトとトオルは目を見合わせて笑ってしまう。
黙っていれば近寄りがたいほど整っているユウリのこういう幼い行動やしぐさが、トオルもハルトも大好きだった。ふたりとも、大切に大切にユウリのことを思っていた。




