トオルの受難 ~2~
「トオル、ちょう、話しておきたいことあるんやけど、今、急いどる?」
ハルトの引っ越し祝いに駆けつけたその日、珍しく気を使うハルトを不思議に思いながら、トオルは「平気だよ」と応えてハルトが手招くリビングに足を踏み入れた。
すると、綺麗に片されて様変わりしたリビングのソファに、見慣れない子供がちょこんと座っていた。ストンとまっすぐな髪が幼い印象を持たせるその後頭部に向かって、ハルトが呼びかける。
「ユウリ」
「なん?」
呼ばれて振り向いた子供の、さらさらな亜麻色の髪が後追いするように揺れて、ほんのりと薔薇色の頬にかかる。
「さっき話したトオルや。挨拶しとき」
素直に立ち上がって、小首をかしげながら近づいてくるその人から、トオルはちょっと目が離せなかった。
座っていた時は幼く見えたのに、立ってみると背丈はハルトやトオルとほとんど一緒で、同い年くらいに見えた。そして、目にも眩しい乳白色の肌や淡い桜桃色の唇にドキドキして、碧の瞳があんまり綺麗で……。
「初めまして」
ぺこりと下げられた頭がぴょんと上げられて、にーっこりとユウリが笑う。
「トオルはハルトの一番の友達なんやろ? 俺とも仲良うしてな」
「お、おう……」
ハルトに兄弟はいない。従弟も、聞いたことはない。はて? これはいったい……?
首を傾げるトオルに、ハルトが言う。
「あんな、これ、うちの親父が持って来た試作品なん」
「えっ!」
ビックリしてしまう。ユウリと呼ばれたその人はとんでもなく綺麗ではあるけれど、喋り方も動きもなめらかで、確実に人間に見える。これが「試作品」だなんて、にこにこと懐っこそうに笑う彼がロボットだなんて、俄かには信じられなかった。
「……嘘、やろ……」
「嘘やないで」
「だって、こんな、人間そっくりになんて、出来る技術ないやろ」
一応まがりなりにもその道についてはいろいろ勉強しているトオルにとって、ユウリが機械だなんてとても信じられなかった。
「ほんまやよ。俺、パパさんに創ってもらったもん」
ハルトの父を「パパさん」なんて可愛く呼んで、自らを「創ってもらった」と言って胸を張るユウリに、トオルは唖然としてしまう。
「一応な、基本的なことはインプットされてるらしいんやけど、これからいろいろ覚えていかなあかんのやて」
ハルトはそう言って、あたりまえのように笑っていた。




