キスって、なぁに? ~6~
「別に、怒っとらんし」
「……ハルトとしか、しちゃ、あかんの?」
「そうや」
「せやったら、「キス」は、ハルト専用なんやな」
そんなことをユウリが納得したように言うものだから、トクンと鼓動が波打ってハルトは「うん」と言いそびれてしまう。すると、
「なら、ちゃんとしたの、教えてや」
「はぁ?」
これまた想像の斜め上を行く回答で、ハルトは素っ頓狂な声を出してしまう。
「やって、さっきのは間違いなんやろ? ほんまはどうやるんか教えてや?」
間違いだ、もちろん。あんな事故みたいなもん、ファーストキスにされては敵わない。でも、
「ハルトとは、これからもせなあかんのやろ? やったら、俺が上手いこと出来へんかったら、ハルト、俺のこと嫌いになってまうやろ?」
なんでそうなる!
とんでもないことを言い出すユウリに軽いめまいを感じながら、ハルトが問い返す。
「なんで、そんなふうに思うん?」
「やって、ハルト、俺が下手やったから怒ったんやろ」
「いや、怒っとらんし。それに、嫌いになんかならへんよ。下手でも」
なんだか本当に手におえないと、ハルトは思う。
純粋無垢って、こういうことを言うんだろうか。恋愛ドラマをまだ見せてなかったことを悔いるべきか喜ぶべきか、頭の中がぐるぐるしだす。
「でも、一回だけ。ちゃんとしたの教えてや。俺、ちゃんとしたの覚えたい! なぁ、ほんまはどうするん? なぁ、ハルトぉ」
好奇心に火がついてしまったユウリは、ハルトの腕をぐいぐい引っ張ってせがみだす。
いっぽうハルトはというと、もう、頭を抱えて黙り込むしかなかった。
「なぁ、教えてやぁ!」
そんなハルトに焦れたユウリが、ベンチに膝立ちになって無理矢理ハルトの顔に唇を押し当てようとする。
「ちょ、ちょう待て」
「なんでやねん。教えてくれたってええやないか! やらせろやぁ!」
おいおい……。「やらせろ」なんて、そんなん言うなやぁ……。
なんだか、哀しくなってしまう。
「わかった。教える。教えるから、ちょう、離れてくれ」
ベンチからずり落ちそうになりながら、ユウリを自分から引き剥がす。事の次第をちっとも理解していないユウリはきときとと瞳を輝かせて、わくわくといった感じで見上げてくる。
「じゃ、目瞑って」
素直に目を瞑るユウリを見つめて、深いため息がひとつ。
自業自得とはいえなんでこんなことにと、ちょっとだけ……、いや、かなりの後悔を抱えつつ、そーっと唇を重ねた。
とくん、とくん。
ハルトの鼓動が優しく逸る。ふんわりとやわらかいユウリの唇はほのかに甘く、もっとちゃんとふれたくなって首をずらそうと薄眼を開いた。そのとき、間近にあるユウリの眦が淡く染まっていて、ドクンと心臓が跳ねた。
慌てて離れると、ユウリは幼い指先で自分の唇を撫でながら、ぽやんと呟く。
「なんか、ふわってなる」
「……ふわっ?」
「うん。んでな、ここが、ぽって、暖こうなる」
瞳を閉じたまま胸もとに手を置いて、何処か嬉しそうに続ける。
「優しく、優しく、ふれるんやな」
わかったと言うように小さく頷いてきょろんと瞳を開くと、ぺろっと唇を舐めて、
「ハルトの唇、やわらかい」
なんて、無邪気に笑う。
その口調はまるで、甘いお菓子を口にした子供そのもので、ハルトはよからぬことばかり考えている自分が恥ずかしくなる。
それでも、逸ってしまった鼓動は簡単に大人しくはなりそうにない。それに、こんどは自分からしてみたいなんて言い出しかねないユウリの気を逸らしたくて、さっきまで頭で計画していた花火大会のことを口早に告げる。
「そや、ユウリ、花火、観に行かんか?」
「花火?」
「うん、なんかな、隣町で花火大会あるらしいんよ。おまえ、花火、観たことないやろ? 観たぁない?」
「あっ、うん。うん! 観たい。観たい!」
「ほなら、準備して、行こか」
「うん!」
ぴょんと立ち上がって、とてとてと部屋の中に入っていくユウリを眺め、ほっと息を吐き出すハルトだった。




