キスって、なぁに? ~4~
鼻をすすり続けるユウリに、ハルトはおもいっきり驚いていた。まさか、涙を流す機能なんて、見たことはもちろん聞いたこともない。びっくり眼のままユウリの頤に手を伸ばし、そろっと自分を向かせた。
涙に潤んだ、なんとも色っぽい瞳が、じっとハルトを見上げてくる。
「ハルトぉ……」
あっかん! あかん! なんやねんこのヒューマノイドは! こんなん、機械やなんて思えへんわ!
心で叫ぶ。
もちろんユウリはそんなこと知る由もなく、本気で大泣きしそうに、くしゃりと表情をゆがめる。
「あーっ! 泣くな、泣くな! 嫌いになんかならへんって!」
誰しも泣かれるのは辛い。まして、こんな稚い姿で泣かれたら、たまったもんじゃない!
「ほんまに?」
涙はとまった。らしい。でも、翠玉の瞳は、うるうると潤んだままだ。
「あぁ、ほんまや。いらんこと、心配すんなや」
「ほんまに?」
「あぁ」
ハルトの投げやりな返事に、ユウリの両手がハルトへと伸ばされる。
にゅっと自分に向かって伸びてくる手に、一時前の首筋の痛さがよみがえって、ハルトは思わず両眼をつぶってしまう。けれど、思いのほか優しく添えられた掌に、そろっと瞼をひらく。
「ほんまに、ほんまやね!」
ハルトの両頬を小ぶりな両手で包み込んで「じーっ」と見つめるユウリの、そのあまりの近さに、ハルトの心臓がトカトカと脈打ち始める。何の動揺かわからないまま、その真剣な眼差しに目を瞑って、優しく応える。
「ほんまやって」
その瞬間、
「せやったら俺、ずっと、ずーっとハルトの傍におったるよ!」
なんとも嬉しそうに言って、そのままぎゅっと、ハルトを真正面から見つめたまま、その首の角度を変えずに、そのままぎゅっと、ユウリがハルトの首に抱きついてくる。
その時……、
ユウリの、ぷっくりとやわらかそうな桜桃色の唇が、ハルトの唇に、トンと、ふれた。
とっくん
「あっ、ごめん。ぶつかってもうた」
ぶっ、ぶつかっただとぉ! おっ、俺の、俺のファーストキスがぁーっ!
頭の中が真っ白になってしまったハルトの心の叫びは、もちろんユウリには届かない。
「ハルト。どないしたん? あっ、痛かったんか? ごめん!」
そう言って丸っこい指先で、ハルトの唇を撫で始める。
「ばっ、馬鹿、やめいや」
「やって、痛かったんやろ? ハルト、変な顔しとるもん」
変な顔で、悪うございました! と心で悪態をつくけれど、本気で申し訳なさそうにしているユウリにこれ以上きついことは言えない。
それにしても、「自立心」なんてクソ生意気なインプットがあるのなら「キス」ぐらいインプットしとけよ、親父! と傍にいない父を心で責める。
俺が「キス」なんてめんどうなもん、教えなあかんの? 何をどう説明せい言うんよ。どう言ったらいいんよ。
なんだか、泣けてくる。
「ほんま、堪忍な。口なんて、ばっちいもんなぁ。ハルト、嫌やったんやろ?」
頭の中でぐちゃぐちゃと泣きごとを連ねるハルトの横で、ユウリはいよいよ泣きそうになって必死に謝っている。
そんなユウリはとんでもなく可愛いけれど、でもやっぱり可哀想が先に立つ。不覚にもときめいてしまった自分の心臓に手をやれば、とかとかと今も鼓動が脈打っている。それを鎮めるようにぎゅっと胸元の布をつかんで、ユウリを見つめる。




