キスって、なぁに? ~3~
ああ、これが父曰く「自立心」とかゆうやつかと、ハルトは小さくため息する。「なんでそんな面倒くさいもんいれるん?」と問うハルトに、父は「だって、そのほうが面白いでしょう?」なんて無責任に笑った。
パートナーはハルト。それは変わらない。だからユウリの思うことはすべて、やがては「ハルトのため」になるんだと父は言っていた。ということは、「ひとり暮らしがしたい」というユウリの望みも、ゆくゆくは自分のためなのかもしれないと、ハルトは複雑な気持ちになる。
「そうやな。おまえ一人でも大丈夫かもしれへんな」
「せやろ!」
目に見えて嬉しそうに言うユウリに、力なく笑って見せる。
「おまえは、ひとりになりたいんか?」
「へっ?」
「俺と離れて、ひとりになりたいんか?」
涼やかな瞳が、大きく瞠られる。改めて何かに気づいてしまったというように、ハタと俯いて、ぱちぱちと何度も瞬いている。
「せやったら、おまえの部屋、探してやらんとあかんなぁ」
くりんと勢いよく、ユウリがハルトのほうを向く。
「俺、おまえに嫌われてしまったんやなぁ」
ユウリの動揺を見越して、追い打ちのように言えば、
「ちゃ、ちゃう。ちゃうっ!」
「やって、離れたいんやろ?」
「ちゃうって! そういう意味やないんよ!」
明らかに慌てたユウリがベンチに乗り上がって、ハルトの顔をぐいっと自分に向かせる。ハルトの首が、グギッと鈍い音をたてる。
「イッテェ!」
「あっ、ごめん!」
パッと離れるユウリの掌。
「いったいがな! なにすんねん!」
「……ごめん……」
痛めた首をさすりさすりユウリのほうを向けば、これ以上丸まらないというほど背中を丸めて、ベンチの上で小さくなっている。
こういう姿は猫そっくりだとハルトは思う。そう言えば、性格も猫に似ている。我儘で気分屋で、いたずらには抜け目なく、その上甘えん坊。手がかかることこの上ないけれど、きゅるんとした目で見つめられると、ついつい色んなことを許してしまう。
ふと、タマのことを思い出す。
ちっちゃな三毛猫は、ハルトに一番なついていた。まだ離れて半年もたっていないけれど「元気にしているかな?」なんて思いながら、ユウリの髪に手を伸ばす。妙にさわり心地のいい猫っ毛を撫でながら、やんわりと問いかける。
「どないしたん? なにをそんなに慌てたんや?」
ハルトの優しい声にユウリはちょこんと小首を傾げて、上目づかいで見上げてくる。薄い碧の瞳がまんまるに瞠られて「ほんと、まんまタマやな」なんて思うと、自然笑みが浮かんでしまう。
「……俺、ハルトのこと、嫌いやないよ」
「うん。わかっとる」
「やったら、なんで、そんなこと言うん?」
「やって、ユウリが、出て行きたい言うからやないか」
「俺、そんなん、言うとらんやん!」
「やったら、ひとりで暮らしたいって、どういう意味なん?」
ハッとしたように、口元に手を持っていく。
「ごめん。俺、言葉ようまだ覚えきれとらんから……」
言いかけて、迷うように瞳を泳がせる。そしてその瞳が、じっとハルトに向けられる。
「俺な、はよう、一人前になりたいんよ」
「うん」
「俺がひとりでなんでも出来るようになったら、ハルトかて楽できるやろ?」
「楽するために、おまえとおるわけやないよ」
「やけど、今のままやと、俺、ハルトの邪魔にしかならんやん」
クスンと小さく鼻をすするユウリに、ハルトの身体が「えっ?」と前のめりになる。
「俺、このまんまやと、ハルトに、嫌われてしまいそうなんやもん……」
クスン、クスン。
えっ! えっ? えーっ!




