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キスって、なぁに? ~2~

 やっと最後の洗濯が終わって、ベランダがシャボンの香りでいっぱいになる。

 大好きな匂いをすーっと胸いっぱいに吸い込んで、ハルトはハタハタと風になびく真っ白いシーツを満足げに眺める。


 やっと全部終わった。これでユウリを遊びに連れていける。確か隣町で花火大会があったような気がする。ちゃんと調べて、ユウリを驚かしてやろう。

 そんなことを思いながらユウリを振りかえると、もう一時間ぐらいたつのに、まだ部屋の隅っこでいじけている。


「ユウリ」

 ベランダからハルトが呼ぶとぷくーっと頬をふくらませて、明らかにご機嫌斜めの表情でハルトを見る。

「こっちおいで。風が、気持ええで」

 それでもハルトが呼ぶと、むーっと唇を突き出しながらもハルトに向かって歩いてくる。


 可愛さのあまり、ちょっと……、というか、かなり甘やかしてしまったものだから、ユウリは最近我儘になってきていた。けれど、ヒューマノイドに法律で義務付けられている「パートナーの言うことには絶対服従」の精神はユウリにもあるらしく、ハルトの言うことにはちゃんと従う。それがたとえ、素直からはほど遠い、不満たらたらな表情だとしても。


 ユウリが窓際まで出てきたところで、ハルトはちょっと広めのベランダのはしっこ、パラソルの下に置いてある二人掛けの白いベンチに腰かける。

「ほら、そこは暑いやろ? こっちおいで」

 手招きをすれば、唇を尖らせたまま、それでもユウリはとことこと歩いてくる。さらっと流れる風に長めの前髪が揺れて、利発そうな額が見える。


「さっきはキツク言って悪かったな。怒っとるんか?」

 むすっとした表情を崩さないユウリを覗きこんで、優しい声音でハルトが問うと、

「怒っとるわけやない」

 なんて、むくれたように言う。


 怒ってはいなくても機嫌が悪いのはあからさまで、損ねてしまった機嫌を取り戻すべく、ハルトは穏やかな物言いを変えないで問いを重ねる。

「じゃ、何が不満なん?」

 むーっと考え込んだユウリがおもむろに、意を決したような表情でハルトを見つめる。

「あんなぁ、ハルト。俺、」

「ん?」

「俺な、おまえが勉強してる間に、いーっぱい本、読んだんやで」


 所狭しと積まれていた父の蔵書は大きめなひと部屋にまとめられて、トオルが綺麗に整理してくれた。化学関連の本はもちろん、実用書や広辞苑、果ては漫画まであった雑多な本はカテゴリ毎に区分けされ、今ではちっちゃな図書館みたいな感じになっていた。

 トオルの趣味で運び込まれたカウチや学習机が置かれた私設図書館は、ユウリにとって居心地が良いらしく、ハルトと過ごす時間以外はその部屋に入り浸っている。


「それに、俺、ご飯と風呂の準備は完璧やし、掃除やって、ちょっとはできるようになった。ハルトが忙しいときは、洗濯だってやれたやん?」

「そやなぁ」

「もうな、ひとりでも大丈夫やと思わん? 俺、まだなんか足りないんか?」

 ぶぅとふくれて、ユウリはまた俯いてしまう。


 ふくれてるのに、なぜかどことなく哀しそうな雰囲気があって、ハルトはユウリの顔を覗きこむ。

「なんでそんなこと聞くん?」

 ハルトの問いに視線を合わせて、ユウリが弾かれたように口を開く。

「やって! ハルト俺のこと、ひとりで外、出してくんないやん! 俺、ひとりで外、出てみたい。って言うか、ひとりで暮らしてみたい。もう出来ると思わん?」

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