出会い ~1~
「おまえが、俺のパートナーになるんやな」
お人形のように綺麗な顔立ちのぷっくりと愛らしい口元からは、およそ似合わない関西弁が飛び出した。
まっ、確かに、此処は神戸やけど、俺は生まれも育ちも芦屋やから関西弁の方が好きやけど、なんてハルトは思う。思うけれど、女の子だとばかり思っていたハルトは、ユウリのハスキーで案外男らしい声に、ちょっとだけ……、いや、かなりがっかりしていた。
「俺、ユウリ言うねん」
そのうえ、ぶっきらぼうな自己紹介はなんだか偉そうだ。
「おまえは? なんて言うん?」
なのに、ひょこんと小首を傾げて問う姿はなんとも幼いものだから、ハルトはすぐに応えられなかった。これが本当に機械なのかと、つくづくと見入ってしまう。
そんなハルトにユウリは「にこぉ」と、マシュマロみたいに甘く微笑んで見せた。
「なんでおかんまで行くんよ」
「だって、行ってみたいんだもん」
「もんやないわ! 俺はどうすんねん」
「だってハルトは、高校に入ったら神戸に行っちゃうんでしょ?」
「それは……、そうやけど……」
「パパは出張ばっかりだし、お姉ちゃんもいなくなっちゃったら、ママひとりっきりよ」
母の寂しそうな言葉に、ハルトは黙り込むしかなかった。
それは、ほんの数ヶ月前の母とハルトの会話。きっかけは、姉のカナダ転勤だった。
ハルトの年の離れた姉は、大学時代に留学したカナダにすっかり魅了されて、ゆくゆくはカナダで生活してみたいといつも言っていた。だから、就職試験でカナダに支社を持つ企業に合格できた時は、家族みんなで喜んだ。
そして、新卒採用されてから三年。必死の勉強が実って、姉はこの夏の社内試験で、念願のカナダ支社の駐在員に選ばれていた。
それはもちろん、ハルトにとっても誇らしいことだった。けれど「良かったね」ですむはずだった栄転が、なぜかとんでもない方向に転がっていった。
「いいなぁ。私もプリンスエドワード島に行ってみたいなぁ」
「赤毛のアン」が大好きな母の、ひとりごとみたいな呟きを素早くキャッチした姉が、駐在先に母も連れて行くと言いだしたのだ。
もともと、姉妹みたいに仲が良いと言われていた母と姉だった。希望の転勤も、母のことだけが気がかりだったと姉は言う。
「ママも来ればいいじゃない。嫌になったらいつでも帰ってこれるんだから」
お気軽な誘いは、高校入試を間近に控えたハルトの前で意気揚々と進められた。
「タマはどうすんねん」
するりと足に絡みついてきたタマをひょいと持ち上げて、拗ねたようにハルトが言う。
まだ一歳になったばかりのやんちゃざかりのタマが、ハルトの腕の中で暴れる。それでも、耳の後ろを撫でてやればごろごろと喉を鳴らして、ハルトの胸元に頭をこすりつけてくる。
「もちろん連れていくわよ。パパはあてに出来ないし、初めて一人暮らしするハルトに負担はかけられないもの」
「タマを負担になんて、思うわけないやろ!」なんて、強く言ってみたいけれど、ただ餌をあげるだけじゃダメなことは知っていた。
今のタマは二代目でまだ元気だけれど、初代のタマが病気になった時は大変だった。そのすべての面倒を診てきた母が、「ね?」とタマに問いかける。頭を撫でられて「にゃーん」とごきげんそうに鳴くタマは、自分がこれから飛行機なんぞに乗せられることを理解しているんだろうか。




