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毒親転生 〜娘に嫌われたまま死んだので、異世界で学びなおします〜  作者: ちょこだいふく


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8/10

8.幸せが、胸に刺さって痛い

季節がまた巡り、村には春の風が優しく吹き抜けていた。


太陽の光は柔らかく、青葉のいい匂いがしていた。

広場では子どもたちが楽しそうに走り回っている。


私は前よりもずっと、馴染めるようになっていた。


「ニアちゃん!これあげる!」


友達の子が、花冠をそっと頭に乗せてくれる。


「きれい…!」


「ニアちゃんに似合うと思ったんだ!」


胸がふわっと温かくなる。


(……嬉しい…こんな気持ち…前の世界では感じたことなかったな…)


エリナとライルは少し離れた場所で笑って見守っていた。


エリナが手を振ると、私は走って駆け寄る。


「ただいま、エリナ!これね、ニアにつくってくれたの!」


「まあ!とっても素敵ね。本当に似合ってるわ、ニア」


「んふふっ」


自然に笑えている。


エリナに褒められて、胸がぽかぽかして、

友達と遊んで楽しくて。

思い切り走るとライルが「よく走れたな!」って頭を撫でてくれて。


(……ニアの世界は…あったかい……)


そう思える時間が、確かに増えていた。


⸻


その日の帰り道

ライルが私を抱き上げ、肩車をしてくれた。


「高いだろう!どうだ、ニア?」


「わぁぁ……!たかいっ…たかいよ、ライル!!」


笑い声が風に乗る。


エリナも笑いながら手を伸ばしてくれる。


「ニア、気をつけてね?落ちたら大変だもの」


「ライルが、ニアを、まもるからだいじょーぶー!」


ライルが豪快に笑う。


「任せとけ!」


エリナも笑う。


その笑顔に、胸がまた温かくなる。


(……しあわせ…)


ふいに、心の奥から言葉が溢れた。


「…ニアね、いま…しあわせ…」


エリナが目を丸くし、すぐに微笑んだ。


「まあ……そんなふうに言ってくれるなんて。わたしも嬉しいわ」


ライルも優しく頷いた。


「そうか。そう言ってくれると俺も幸せだ」


風が気持ちよくて。

光があたたかくて。

二人の声が安心で。

友達の笑顔がキラキラしていて。


(……あぁ、こんな世界があったなんて…)


胸の奥に広がっていく。


あたたかい。

やわらかい。


幸せ。


⸻


その瞬間だった。


胸の奥を、鋭い痛みがえぐった。



目に涙を溜めた娘の顔が、脳裏に浮かんだ。



『…もう…関わりたくないの…。もう勘弁して……ママと話すの、もう無理…』


『私のためじゃない…ママのためでしょう…?』


心臓がきゅうっと縮む。


(…あの子は…私の娘は……今……どうしてるの…??)


喉に何かがつかえたように声が出ない。


エリナが不思議そうに首を傾げる。


「ニア?どうしたの?急に黙っちゃって」


「……っ……」


言えない。

言いたくない。

でも胸が痛い。


あんなふうに私を拒絶して、泣きながら去っていった娘。


私はあの子の心を壊したまま…死んだ。


(ニアは…いま……しあわせなのに……あの子は……ずっと…痛いまま…?)


身体が震えた。


エリナは気づかぬまま、優しく微笑む。


「帰りましょうね、ニア」


「……うん……」



⸻


夜。


眠る前、私はひとりで窓を見ていた。


月明かりが木の葉を照らしている。


胸がチクチクして気持ちが沈み込む。


(…私だけ、しあわせで…いいの……?)


エリナは優しい。

ライルも優しい。

私の周りはあたたかい。


でも……


(……あの子は……?)


娘は今も、私のせいで苦しんでいるかもしれない。


私の“愛だと思い込んだ呪い”を抱えたまま。


私は、娘に何も返さないまま死んでしまった。

いや、それどころか、娘にとっては呪いを残して消えた母かもしれない。


「…………」


ズキズキと胸が痛む。


涙がぽたりと落ちた。


私は小さな両手をそっと胸の前で合わせた。


「……かみさま……」


誰に向けた祈りかさえ、わからないまま。


「かみさま……どうか…お願いです…あの子が……しあわせで……ありますように……」


涙がとめどなく溢れ落ちる。


「…私のことなんて忘れて良いから…お願い…しあわせでいて……」


声が震えていた。


「……どうか……あの子が……自由で……ありますように……」


祈りは月明かりに吸いこまれていく。


そして、涙の跡が頬で光ったまま、私はすとんと、眠りに落ちた。


⸻


真っ暗な世界。


遠くで、誰かの泣き声がする。


ひとりぼっちの子どものような、胸の奥がざわざわする泣き声。


私はふらふらと声のする方へ歩く。


靄の向こうに、光がひとつ灯った。


光の中心に、泣いている 小さな影 が見えた。


(…え…?)


次の瞬間、私は息を呑んだ。


その子は…

あの泣いている子は…


間違いなく私の“娘”だった。


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