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毒親転生 〜娘に嫌われたまま死んだので、異世界で学びなおします〜  作者: ちょこだいふく


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3/10

3.これしか、知らなかった

どれくらいの時が流れたのだろう。

まだ小さな身体は頼りなく、思うように動かせない。

それでもエリナ——この世界の母の腕は、いつもあたたかかった。


木の家の中は静かで、陽だまりの匂いが漂う。

窓から差し込む光が、ゆらゆらと揺れている。


「ニア、今日もかわいいわね」


エリナは私の頬に触れ、そっと微笑んだ。

その笑みは、刺すような緊張感を一切持たない、ただの温もりだった。


(……かわいい……?どうしよう…何かしなきゃ…もっと笑った方がいい…?)


胸の奥がざわつく。

褒められたなら、次はもっと頑張らなきゃいけない。

…そんな考えが条件反射のように湧き上がる。


気づけば、小さな手をぎゅっと握っていた。


「ニア……そんなに緊張しなくていいのよ」


エリナはそのこわばった手を、両手でそっと包んだ。まるで壊れ物を扱うみたいにやさしく。


「大丈夫。怖くないわ。ママはここにいるからね」


(……怖く、ない…)


エリナは、頬に落ちた涙をゆっくりと指で拭った。


「あら……泣いているの?いいのよ、泣きなさい。泣きたいときは、泣いていいの」


(……泣いて……いい……?)


その言葉に、胸の奥がふるえた。


——突然、過去の声がよみがえった。


『泣かないで!恥ずかしいでしょう!』


『いつまで泣いてるの、みっともない子ね』


『ちゃんとしなさい。人前でそんな顔をしないの』


前の世界の母の声は、怒りに満ちていた。

けれど私は、その怒りを、私のためだと信じて疑わなかった。


確かにあれも愛だったんだと思う。

だから、愛の形は、そういうものだと思っていた。


私は…愛情表現はその形しか知らなかった……。


だからこそ、娘にも同じように接してしまった。

同じ言葉で縛ってしまった。

けれど、もしかしたら何か違ったのかもしれない…。


胸が詰まり、呼吸が浅くなる。


そんな私を見て、エリナはそっと抱き寄せた。


「怖い夢を見たの?ニア…怖かったわね、でももう、大丈夫よ。泣いたっていいの。泣いたってだぁれも怒らないわ」


(……泣いても……怒られない……)


完全には理解できない。

けれど、エリナの手はただあたたかかった。


「いい子でなくてもいいのよ。泣く子は元気な証拠だもの」


(……いい子で、なくても……?)


前の世界では、良い子の顔をしていなければ、愛されなかった。


泣くのは悪いこと。

怒られること。

恥ずかしいこと。

そう叩き込まれて生きてきた。


私は……

私は娘の愛し方をまちがえて…


エリナは私の背を撫でながら、ゆっくりと揺らし続けてくれた。


「ニア。泣いたら、泣いた分だけ抱きしめてあげるわ。大丈夫よ。怖くないわ……ここにいるからね」


その言葉は、赤ちゃんにかけるごく普通のあやし言葉だろう。

だけど、私にとっては——

初めて与えられた恐怖を伴わない純粋な愛情だった。


怖くない……?

期待に応えなくても良い…?


まだ信じられない。

理解はできない。

でも——


胸の奥の固い氷が、少しだけ、きしり、と音を立てた気がした。


愛って、もしかしたらこういうもの……なの……?


小さな手がふるりと動くと、エリナは嬉しそうに微笑んだ。


「あぁ…何か掴もうとしているの?ニア、本当にかわいいわ…」


泣いても怒られない…

大人しくしなくても嫌われない…


エリナの胸に顔を埋めたまま、私は小さく震えた。


涙は止まらない。

だけど、その涙は前の世界で流し続けた涙とはまるで違うものだった。


冷たくて凍える涙ではなく、あたたかい腕の中で溶けていく涙。


私はこの世界で…愛の形を、やさしさの形を学びなおすのかもしれない。


間違ったまま終わってしまった、自分の一生分を。


エリナは揺らしながら囁いた。


「泣きたいときは泣いていいのよ、ニア。ママはずっとそばにいるからね」


私はその声に包まれながら、初めて泣くことを許された子どもとして、静かに眠りに落ちていった。


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