宰相のある悩み
大きくも小さくもない大陸の北西にある国。その国の宰相を務める赤毛の男には、ある悩みがあった。
「またか・・・・・・」
彼は、己の不運を呪う。
王城には、美しい中庭がいくつもある。今は、薔薇が季節だ。雄大な花弁と豊かな香りが人々を楽しませてくれる。
薔薇に囲まれた東屋に、宰相の主人である男がいた。
この国の宰相である彼の主人、もちろん、国王陛下である。
国王は、精悍さがありながら、どこか愛嬌のある雰囲気のある二十代後半の男だ。
その黒曜石のように黒々と艶のある髪は、肩近くまで流されていた。
国王は東屋に座る誰かに、半ばのしかかるようにして、顔を伏せている。相手は、国王が数年前に迎え入れた伴侶で、神々しいまでの美貌を持つ元傭兵だ。
何をしているのか、言うまでもない。
(どうして、私はこの人がイチャつくところにばかり、遭遇するんだ)
別に、国王が悪いわけではない。ここは、許された者しか立ち入れられない中庭だ。そこで、少しくらい伴侶に口づけしようが、国王の勝手である。おっ始めているわけでもない。
(陛下は悪くない。たまたま間の悪い私が悪いのだ。だが、これであの二人が口づけしているのを見るのは、今月だけで十回目だぞ? 先月も、先々月も、そうだし、そもそも二人が婚姻して以来ほとんどそうだ。もしや、人目さえなければずっと、チュッチュしているのじゃないか?)
仲睦まじいことはよいことだが、心配になってくる。特に国王は、国政を担う者として激務だ。あの調子では、夜のほうもかなりの頻度ではないか、と他人が聞けば下世話としか見なされない心配を宰相は本気でする。
これには理由があって、国王がまだ新婚の頃、寝不足で国の会議前に倒れたことがあったのだ。
あのとき、宰相は心臓が止まる思いだった。だが、国王本人が実に申し訳なさそうに、倒れた原因を申告してきたため、宰相は危うく国王を殴りそうになった。
宰相は臣下として国王の面子を守るため、己が体調不良になったことにして、その日の会議を無理矢理翌日にした。
我ながら臣下の鑑だと思っている。
あれから、数年が経とうというのに、国王と伴侶の仲睦まじさは変わっていないのである。
(やれやれ)
あきれていると、背後で足音がした。
「シェル」
愛称を呼ばれて振り返ると、年下の同僚が立っている。まだ二十歳そこそこのあどけなさすら感じる顔立ちの男は、この国の将軍だ。
赤毛の宰相は、己の唇に立てた人差し指を当てた。
「静かに」
同僚にともに中庭を出るようにうながす。
たとえどれほど悩まされようと、国王が幸せであるのなら、宰相はできる限りのことをするのであった。
誤字報告ありがとうございました!
本作「神様、次の人生も、ハードモード過ぎやしませんか?」の閑話となります。




