第7小路 端女赤染
「マーニ様、今宵のお相手は…」
(よくもまぁ次々と刺客を送ってくるな。
刺客というよりは刺される客か…」
ありとあらゆるプレイを体験したというか教わった
あんなことやこんなことまで…
流石に4P以上は分身の術でも使わない限りは
接待に近い苦痛を感じた
排出物系も食わず嫌いだと思い込ませてみたが
やはり無理だった
「マーニ様、マーニ様!」
バッ
そのメイドはカーテンを開けた
(眩しい…なんだ?)
霞がかった視界が徐々にはっきりしていく
緑の髪、ツインテール、メガネ…
ダークエルフ?いや悪魔族?
ただ耳はとんがってないな
そのかわいらしい女の子がふくれっ面で覗き込んでいる
「もう!知りませんよ!今日は午前中D6の定例会議ですよ!」
「あぁ、そうだったな」
(昨日の夜は淫魔族に空っからに吸いつくされて起きられなかったんだな)
「さぁ、もう起きて下さ…」
掛け布団を引き剥がそうとした瞬間
彼女を抱き寄せた
「すまん、あまりにも可愛すぎて…」
「えっ…マーニ様」
顔と耳が赤く染まった
「いや、なんだ…そういうのとは違って…
かわいい子犬をみて抱きしめたくなるような
そんな気分なんだ…」
「なんで否定するんですか!いい雰囲気だと思ったのに!」
「すまぬ…」
「謝らないで下さい!余計私が惨めになるじゃないですか!
多分獣犬族のフェロモンがそうさせるのでしょうね!」
「お前、獣犬族なのか?でも耳も尻尾もないではないか」
「ハーフです。ダークエルフと獣犬族の」
「そうなのか」
「私、こう見えても結構優秀なんですよ!学業も魔法も戦闘も。ただ人族に姿が似ているってことで…」
マーニはさらに強くメイドを抱きしめる
「苦労したんだな…」
男は涙を見せた
メイドは男から離れて背中を向ける
顔だけ振り返り
「チョ…チャロいですよ、マーニ様」
その姿がまた愛おしい
ベッドから飛び出して後ろから抱きしめる
「お前、名前は?」
「えっ…イロハ…イロハニールです」
「朝食の時間だ、イロハ。何が食べたい?」
顔を赤らめながら歯に噛んだ笑顔でこう答えた
「肉!」
獣犬族の血が入っているからね、男は納得した
マーニとイロハニールは食事を終えた後
「私は業務に戻ります。ご馳走様でした」
「そうか、引き留めて悪かったな」
「いえいえ、美味しい肉が食べられたので問題ないです」
会議を終え、書類の整理で事務所にこもった後寝室に戻った
イロハニールがベッドメイクをしているようだった
声をかけようかとした時
彼女の肩が震えていた
「どうした?」
びっくりしていたがすぐに振り返らず
自分の袖で顔を拭ったあと
「なんでもありませんよ!」
マーニに作った一生懸命の笑顔
頬にできた水路の跡
たまらなく愛おしくなって抱きしめた
「イロハ、申し訳なかった…」
イロハはハッとした
「マーニ様、お謝りにならないでください…なんでもありませんから」
男は確認するように女の顔をみた
潤んだ瞳にどうしようない哀情と愛情が複雑に絡み合い
唇を求めた
彼女は驚きと喜びの中、見開いた目を
全て受け入れるように静かに閉じた
まさか自分がメイクしたベッドで
愛を求め合うなど考えもしなかった
男の運指、唇、言葉…全てが柔らかくしなやかに優しい
このままいつまでも抱かれていたい
包み込まれる快感にいつしか応えたいと思うようになっていた
「マーニさま…」
イロハは男の顎と耳の間を見つめながら
溢れ出す想いを言葉に乗せようとした
「なんだ?」
彼はその言葉の主を見つめた
男の腕に包まれながら恥ずかしそうに
目を逸らして呟く
「幸せ…幸せでございます…」
男は何も言わずにキスをして
「もう何も心配ない…俺がお前を守る」
堰き止めていた感情が溢れ出す
(何もいらない、何も求めない…ただマーニ様の側に居られたら…)
謁見の間にいたマーニは
サティスディーナとドラキュラを呼び寄せた
「いかがなさいました?マーニ様」
「急に我々をお呼びになるとは、火急の事態でございますか?」
「火急と言えば火急だな。イロハニール、ここへ」
2人いるうちの1人のメイドがマーニの前に跪いた
手を胸に当て
「お呼びでしょうか?マーニ様。何なりとお申し付けください」
「面を上げて2人に自己紹介するのだ」
サティスとドラキュラは意図が掴めず
様子を見守っていた
メイドは面を上げ
「イロハニールと申します」
「というわけだ」
キョトンとする2人
「マーニ様、申し訳ございません、仰っている意味がわかりません」
「彼女を幹部に迎え入れる」
「えーーーーっ」
イロハニール含めマーニ以外のそこにいた4人が声を揃えて驚いた
イロハニールのいいところは物怖じせず
マーニに思ったことを言うところだった
他の連中は怖くて言えないようなことも平気で言う
つい先日も
「マーニ様って潔癖症なんでしょ?」
イロハは問いかけた
「まぁそうだ。外に出て戻ると、手袋、マントから何から着ているものは全て洗濯に出さないと気が済まなかったりするな」
「でもさー毎晩外から来る女の子を脱がす時も下着や体を触る時も手袋はしないんでしょ?微妙だよね」
シュルシュルシュル……カッ
何かが床に突き刺さった…扇子だ
「イロハ!マーニ様はお優しいのだ!女性に対して手袋をしたまま触れては失礼だというお心遣いがわからんのか!」
「マーニ様、そうなの?」
「あ、いや、まぁそのーー(咳払い)サティスの言う通りだ」
「はい、うそー」
「イロハ、きさまーー」
「うわーーやめてーーサティスお姉様ーー」
扇子が次々と飛んでくる
スパーンッ
ドスッ…ゴロッ
流れ弾ならぬ流れ扇子の犠牲となったのは…
ドラキュラ伯爵
首が床に転がっている
慌てず騒がすゆっくりと首を拾い
くっつけたが前後ろ逆だ
「申し訳ない、伯爵」
サティスが謝罪した
「構わんよ。しかし、仲がいいなお前たち2人は」
「ぎゃーははは、伯爵様、首が前後ろ逆になってるよ!」
「これはこれは…」
顔を残して体を回した
「ぎゃーははは、伯爵様、両手で顔を持ってクルッと回すほうが普通でしょ?ぎゃはっぎゃはっ」
「あはははっ
すまぬ、伯爵。気を悪くせんでくれ。あはははっ
イロハの笑いにつられ笑いしてしまって」
フフと笑ったサティスは笑いを殺して後ろを向いた