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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

灰色のラナンキュラス

作者: ひらぞー

とりあえず、思いつきで書いてみた。

続きが気になると思っていただけたら、感想と評価をよろしくお願いします!


神様、何故あなたはこんな残酷をなさるのですか?


少年はそう思わずにはいられなかった。





曇天の元に人々は集う。

掘り起こされた土の中には板張りの棺が置かれていた。

男達がスコップを持ち、棺に土が被せられていく。

人々は周りで祈りを捧げる。

目元に涙を溜めて、口元を抑える婦人。

瞳を閉じて、沈鬱な表情を浮かべる壮年。

憐憫の眼差しを浮かべる老人。


鬱屈とした雰囲気があたりに漂い、満ちていた。

そんな中に赤子を抱いた少年がいた。


「ぁぁあああ、んぁぁぁぁああ」


腕に抱いた赤子がぐずりだす。

少年は赤子を抱きしめ、頭を撫でる。

参列する人々と同じ様に痛みと悲しみに満ちた表情を浮かべ、しかし、それだけでなく、前を向こうという悲壮を滲ませた年不相応の大人びた顔。


「大丈夫、兄ちゃんがついてるから」


少年は優しく、力強く囁いた。



朝露に濡れた葉が日差しにさらされ、キラキラと光る。

小さな村のはずれでカーンコーンと木が当たり合う音が聞こえた。


音の正体は2人の男の木剣を用いた戦い。

15歳の少年、ノアは木剣を脇に構える。

それに対して、ノアの兄であるバトーは中段に木剣を構え、迎え撃つ体勢をとった。


「ハァ!」


ノアはバトーの腹めがけて突きを放つ。

バトーはそれを身体の捻りと重心移動で躱す。

そして、ノアの頭を狙って木剣を斜めに振った。

ノアは頭を下げて回避すると、体を回転させ右の水平斬りを放った。

バトーはすかさず木剣を間に挟み、ノアの一撃を防ぐ。


「だぁぁぁ!!」


ノアは気合いと共に前に出た。

右袈裟、左袈裟、右逆袈裟、左逆袈裟、右薙、左薙に突きに斬り上げ、斬り下ろし。

次々に連撃をたたみかける。

しかし…


「…クソッ!?」


それらは全てバトーに防がれる。

焦ったノアは大振りの一撃を放った。

力で防御を突破しようとしたのだ。

だが、それは悪手だった。

大きく勢いをつけたその攻撃は簡単に避けられ、体勢を崩す。

すかさず飛んできた足払いに当たり、前のめりに倒れ込んだ。


「しまっ…!」


急いで起きあがろうと顔を上げる。

顔を上げたと同じタイミングで頭頂部に衝撃と鈍痛が走り、硬い木が当たる乾いた音が鳴った。


「痛ってぇぇぇぇ!!」

「はい、俺の勝ち〜」


ノアは頭を抱えてゴロゴロと転げ回る。

それを見てバトーはコロコロと笑った。


「ハハハ、ノ〜ア〜。

相手に隙がない状態での大振りはやめろって、前に言っただろ?」

「ッ〜…わ、分かってるよ。

でも…兄貴があんまりにも攻撃防ぎまくるもんだから…つい」

「焦って出ちゃったと…感情的になりやすいのは兄ちゃん感心せんぞ?

戦いにおいて最も重要なのは冷静さだ。

それを失う事は敗北に等しいんだぞ?

さっ、もう一回だ」

「分かったよ、いつつつ…」


頭を摩りながら、ノアは立ち上がり木剣を構えた。

深く深呼吸をし、瞳を閉じる。

数秒後、目を開くとバトーに向かって剣を打ち込んだ。



「んぐっ、んぐっ…ぷはぁ…あーあ、結局10回やって、勝ったの2回だけかぁ」

「ハハハ、そう落ち込むなって。

まだ剣を握って1年のお前が10年やってる俺に5分の1は勝てるんだぞ?

凄いことなんだぞコレは」

「でも兄貴の本来の獲物って槍じゃん。

得意の武器でも無いヤツでボコボコにされたら自信無くすよ。

才能無いんじゃ無いかって」

「そんな事はない。

俺がお前と同じ歳の頃は、お前ほどの腕はなかった。

剣の才は俺よりもずっと上だよ、ノアは」

「そうかなぁ?」

「そうだよ」

「……わかった。

兄貴が言うなら、ひとまず信じてみる」

「…ふふふ」

「な、何だよ。何で撫でるんだよ?」

「別に〜、何となくな?」


時刻はちょうどお昼時。

ノアとバトーは村の広場にある井戸に来ていた。

水を汲み、飲みながら先ほどの模擬戦の事について話し合う。

ゴフェル村。

王都から離れた小規模の村。

2人はここの自警団の一員として暮らしていた。

今日は2人とも非番であったが、自主訓練として村の外れで模擬戦を行ったのだった。

しばらく会話していると、遠くの方にこちらに向かって進んでくる荷馬車とその周りを囲うように歩く自警団の姿が見えた。


「おーい」

「あ、帰ってきた!」


馬車から手を振る人の声に、広場にいた人々が反応する。

3週間前に王都に行商をしに行っていた人達が帰って来たのだ。

馬車は広場の中心に止まり、周りにいた自警団と荷台に乗っていた面々は積んだ荷物をおろし始め、周りには人集りが出来ていく。


「はー、もう帰って来たのか。もっと遅くなると思ってたのに」

「だね。普段なら1か月くらいかかるし」

「そりゃ今回は売りと仕入れが上手いこといったからねぇ、滞りが何にもなかったよぉ」

「うむ、重畳と言ったところだなぁ」

「あ、トムさん、じいちゃんお帰り」

「ただいまぁ、ノア。バトー、これ。頼まれてた本だぁ」

「おお、ありがとうトムさん」


2人して馬車の様子を眺めていると、商人のトムと村長のダズに声をかけられた。

立派な髭を蓄えた、いかにも商人といった感じの中年男性であるトムは、髭をモフモフと触りながら、ニコニコとした笑顔でとても機嫌良さそうにしていた。


「♪〜」

「偉く上機嫌だねトムさん、何かいい事でもあったの?」

「ふ、ふ、ふ。よくぞ聞いてくれたねぇ。ノア。

実はぁ…こんな素敵な品があったんだぁ!」


ノアの問いかけにトムは懐からある物を取り出した。

それはーーー金色に輝く木の実だった。


「何これ?」

「ふふ、聞いて驚くんだぁ。これは…生命樹の実だぁ!」

「生命…あー、あれか。御伽噺の」

「そう伝説に伝えられし幻の実!食べた者に摩訶不思議な力を与え、たとえ不治の病であってもたちまち治してしまい、ある者は未来を読み、ある者は巨岩を持ち上げ、ある者は空を駆けたとさえ言われ、しかもしかも!常人とは比較にならない程の、それこそ神秘の生物であるかの妖精達のような長命と美貌を食した者に与える事からこの実を巡って人々は熾烈な戦いを繰り広げ、その様は地獄のようであったといわれて…」

「いっただきまーす」

「ああああああああああ!!!」


凄まじい早口で語りだしたトムを尻目に、ノアは木の実に齧り付いた。

果実特有の甘い味が口の中に広がる。

それと同時にノアは口当たりに違和感を感じた。


「ノ、ノア、君はなんてことを…」

「トムさん、コレ。ただのリンゴだよ。塗装しただけの」

「…へ?」

「ほら、見て」


ノアの突然の奇行に慌てふためいていたトムだったが、ノアの言葉に齧られた部分を確認する。

そこには齧られた縁からピラピラと剥がれかけた塗装とその下に隠れたリンゴの赤色が見え隠れしていた。

その様にトムは愕然とする。


「そ、そんなぁ…確かに本物だって言ってぇ…」

「この前は黒龍の鱗、その前は紅玉髄の盃、さらに前は第4英雄の剣に星屑の首飾り、それ以外にも天翔る獅子の羽に大海蛇の牙、神酒の木の梢、獣鬼の毛皮、白夜を告げる鐘、聖母の涙石、大妖精の絹衣…本物だった事なんて一度もなかったじゃん。いい加減にしなよ」

「でも、それでも…今回こそは当たりかもしれないって…つい」

「買っちゃったと?」

「うん…」

「はぁ…普段は目利きはしっかりしてるのに趣味のことになると途端に曇るんだから…ていうか、じいちゃん。一緒に行ってたんでしょ?なんで止めないの?」

「ワシかて反対はしたさ。だが、ちょっと目を離したら買ってたんだよ」


ダズはバツが悪そうに頭をかいた。


「油断も隙もない…で?いくらで買ったのコレ?」

「金貨5枚…」

「マジで?王都で1年は暮らしていける金じゃん?本当に?」

「うん、本当…」


項垂れるトムにノアとバトーは呆れた。

トムは目に涙を浮かべて、2人に縋り付く。


「お、お願いだよノア、バトー!

どうか、どうかこの事は内密に、ここだけの話にしておいてくれないかぁ!?

じゃないと、じゃないと僕ぁ…僕ぁ「へぇ、何を内緒にしておくってんだい?」ひぃぃぃい!!」

「あ、ココさん」


トムの後ろからヌッと姿を現したのはトムの奥さんのココだった。

眉間に思いっきり皺を寄せたココは指をパキパキと鳴らしながらトムに詰め寄る。


「あんた、またガラクタを買って来たのかい。もうやめる、もう買わないってアタシとこの前し〜〜〜〜っかり約束した筈なのに買って来たのかい?ん?ん?」

「あ、あは、あははは」

「…あんた」

「はい…」

「何か言う事は?」


ココはトムの目と鼻の先に顔を近づけるとにっこりと笑う。

トムはそれに対して、懐に手を入れ、幻の木の実(偽)を取り出してぎこちなく笑いながら言った。


「た、食べるぅ?」

「…こんの大馬鹿者がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぎゃああああああ!!!」


トムはココに体を持ち上げられ、肩に担がれ、背中を弓なりに反らさせられた。

トムの身体からバキバキとした音が鳴る。

トムはしばらくバタバタをもがいた後、グッタリとして動かなくなった。


「何だ何だ。騒がしいな」

「全くよ…ってトムさんどうしたの?」


騒ぎを聞きつけて、ノアの幼馴染で3歳年上のガーダとセパの夫婦がこちらにやって来た。

2人は今年結婚したばかりの新婚であった。

ノアにとっては友人である2人の結婚はとても嬉しいものであり、祝福するに相応しい出来事だと思っていた。

そんな幼馴染夫婦の質問にノアが答える。


「いつものアレだよ、アレ」

「ああ…まだ懲りてなかったのね…」

「パチモン掴まされて酷い目に遭うって毎度の事なのに、何でするかなぁ」

「学習能力がないんでしょ単純に」

「いや、違うね。俺にはトムさんの気持ちがよく分かる」

「何よガーダ」

「決まってる。ロマン…さ」

「ノア、こんな駄目人間になっちゃダメよ?」

「なるわけないじゃん」

「おい?2人とも?」

「あんた、もしトムさんみたいに碌でもないお金の使い方したらただじゃ置かないね」

「碌でもないとはなんだぁ。趣味を持って夢を追うのは人生にハリを持たせる為に必要不可欠だろうが」

「大人は現実を見るものよ」

「いつまでも夢追い人だとプー太郎になっちゃうよガーダ?」

「誰がプー太郎だコラ、ちゃんと働いてるの知ってるやろがい」

「もし無職になったら速攻別れてやるから。その時はノア、あんたが旦那ね?」

「いいよー」

「おい!?」

「はは、相変わらず仲良いな君達」

「全くだのぉ」

「笑い事じゃないですよぉ〜」


笑い声が辺りに響く。

ガーダは情けなく肩を落とした。

そこに荷運びをしていた自警団団長のガンスから声がかかる。


「おーう、若人諸君。盛り上がってるとこ悪いけどよ。何人か手伝ってくれねぇか?」

「はーい。あ、兄貴はいいよ。俺が行くから先帰ってご飯お願い。ガーダ、行くよ」

「おう、了解」

「えー、俺やるの?」

「いいじゃない。行ってきなさいよプー太郎」

「だからプー太郎じゃねぇ!」


ノアとガーダはガンスの所に向かうと荷物を受けとる。

それらをトムの家の倉庫まで運んでいく。

何回も馬車と倉庫を往復し、最後の荷物を持ってき終えるとノアは一息つき、汗を拭った。


「よーし。コレでラストっと」

「あー、つっかれた」

「い、いやーありがとう2人共、助かったよぉ」

「これくらい何ともないよ…ってトムさん大丈夫?」


ノアがトムを見ると、背中を弓みたいに曲げられた影響か、体をプルプルと震わせていた。


「へ、平気さぁ。これくらい。いつもの事だからねぇ」

「いつものことにしちゃいけない事だと思うんだけどねソレ。その内、死んじゃうよ?」

「ふふ、それでもやめられない止まらないのが僕という男なのさぁ…」

「すげぇ、全然懲りてねぇ」

「絵に描いたような反面教師ぶりだね」


まだまだ反省して無さそうなところが見えるトムに、コレはまたやらかすんだろうなとノアは思った。


「…はぁ。荷物の整頓はやっといてあげるから休んどきなよ」

「い、いいのかい?」

「その状態じゃ、どーせ仕事出来ないでしょ。ほら、行った行った」

「うう、ありがとうノア〜」

「感謝はいいから、反省して。ココさんに迷惑かけないように」


トムは倉庫からフラフラとした足取りで出て行った。


「全く、しょうがない人だねぇ」

「母親みたいだなお前」

「あんな子育てた覚えはありません」


トムの後ろ姿を見送った後、荷物の整頓をしていく中で、ガーダはノアに話しかける。


「…なぁ、ノア。1ついいか?」

「ん?」

「なんで商売人になるの諦めたんだ?」


ガーダの質問にノアは呆れた様な表情を浮かべる。


「…何〜、またその話?前にも話したし、もういいでしょそれ」

「だってお前、本当はトムさんとこで働くつもりだったんじゃねぇのか?

前までちょくちょく勉強に行ってたじゃねぇか」

「…」

「だけど、お前が選んだのは商人じゃなく自警団だった」


ガーダの言う通り、14歳まではノアは商人を目指し、トムの元で勉強をしていた。

だが15歳になってから急に方向転換。

自警団に入り、訓練を始めたのである。


「お前とは長い付き合いだよ。だから分かる。

お前は優しい。ただ強くなりたいからだとか、凄そうだからとかそんな単純な理由で武器を持つ様な奴じゃない。でも剣を使う仕事を選んだ。ならなんかあると思うのが普通だろ?」

「…前に言ったでしょ。何となくだよ、何となく。なんかかっこいいなぁ〜って思ったからで」

「そんな理由ではぐらかせると思ったか?」

「…」

「ノア」


ガーダが真っ直ぐにノアをみつめる。

ノアは勘弁した様に鼻から息を吐いた。


「去年さ…じいちゃんに用事があって家に行った時にさ。偶然、じいちゃんが兄貴と話してるのを聞いちゃったんだ」

「話?何の?」

「僕の両親の事」

「!」

「父さんと母さんさ…」

「………」

「2人は…殺されたんだってさ」

「…」

「自警団は昔、村にはなかったんだよね?」

「ああ、15年前までは…な」

「うん…父さん、母さんが死んだのも15年前…」


ノアはガーダの方を向き尋ねた。


「襲われたんだよね?この村は…盗賊に」

「…ああ」

「その時、僕の両親は殺された」

「…」


ガーダは押し黙る。

村は15年前に盗賊の襲撃を受けた。

何人もの村人が犠牲となったこの事件をきっかけに村は自警団を発足。

王都にて近衛兵もこなした経験のあるガンスが団長となった。

この悲劇をガーダはまだ小さかった時であったが覚えており、自警団の始まりの理由も知っていた。

だが、当時、生後数ヶ月の赤ん坊だったノアには現在に至るまでこの真実は伝えられてはいなかった。



「びっくりしたよ。僕は病気で死んだって聞いてたのに…さ」

「それは…」

「わかってる。そんな事言うわけないよ。たとえ真実だったとしても教えるわけない」


ふたりして黙りこむ。

ノアも分かっていた。

いくら真実とはいえど、幼い子供が知るにはあまりにも重過ぎる。

故に周りの人々は本当のことを言わなかったのだろうと理解していた。


ガーダの背中に冷たい物が走る。

もしかしてノアが自警団に志願した理由は…

嫌な予感がして、少しの間を空け、ガーダが口を開いた。


「敵討ち…の、つもりなのか?自警団に入ったのは」

「…いや、違うよ」


ヨナは首を振り、否定する。

その表情に憎しみといった胡乱な物は感じ取れない。

どちらかといえば、自嘲を匂わせる口元であった。


「……こんなこと言うと薄情な人間と思われるかもしれないけど…僕ね。腹立たしいとか悲しいとか感じなかったんだ。父さん母さんが殺されたって聞いても…」

「…」

「僕にとって、父さん母さんは顔も声も知らない、何も覚えてない人達だったから…だから…許せないとかそういった感情は全然湧いてこなかった」

「じゃあ…」

「でもね」


食い気味にノアはガーダの言葉を遮る。


「僕のよく知っている…みんなが死ぬのは、嫌なんだ」

「…」

「父さん母さんの事を聞いて…僕の頭の中に浮かんだのは…みんなのことだった」


「団長、ココさん、じいちゃん、トムさんに兄貴にセパ…ガーダも…他の人達も」


ノアは顔を上げる。

遠くを見る様な目をして。

色彩には故郷への並々ならぬ感慨が含まれ、斑模様に光の粒を反射している。


「僕、この村が好きなんだ。ここにいる人達には…長生きして…幸せになって欲しいんだ。誰かに殺されてなんてほしくない。ずっと一緒にいたい。だから守りたいって…そう思ったんだ」

「…そっか」


ガーダは納得して顔をそらし、目を閉じた。

ノアは悪戯っぽく笑ってガーダに語りかける。


「…ふふ。まぁ、言い出した時は兄貴に猛反対されたけどね?」

「おいおい」

「何度も必死に頼み込んだんだ。そしたら最後は溜息つきながら了承してくれたよ」


ノアは最後の荷物を所定の位置まで持っていくと、置き、手についたホコリはパンパンと払った。


「よし、終わりっと…まぁ、コレが僕が自警団に入った理由。ご理解頂けました?」

「ああ、分かったよ。よく分かった」

「そりゃあ、良かった」


仕事を終え、2人は倉庫から出て扉を閉める。

仕事が完了したことをトムに伝えた帰り道、日は傾き、そろそろ茜色を帯び始める時間となっていた。

緩やかな傾斜を歩きながら、ガーダは前を歩くノアに話しかける。


「ノア」


ガーダの声にノアは振り返る。

穏やかな顔で振り返る幼なじみに、確信を持って言った。


「やっぱり、お前。優しいな」


ガーダの言葉にノアは悠然と笑うのだった。



家に帰る。

村の端、川の側、こじんまりとした堤防の元にある小さな家に。

中に入ると料理のいい香りが部屋を満たしていた。

ノアはバトーが作った料理を食べる。

時々、他愛ない会話を挟み、温かい食事で腹を満たした。


夕食を食べ終わり、食器を洗いに外に出る。

川から水を汲み、灰と混ぜた洗浄液で一つ一つ洗っていく。

全ての食器を洗い終えると持ち上げる。

空は暗くなり始めていて、家の方を見ると窓からランプの灯りをつけるのが見えた。

家に入りると食器を置き、居間に向かう。


テーブルの上にはランプとワインの入ったカップが置かれていた。

バトーはそのすぐ横で椅子に腰掛け、本を読んでいる。

ノアは棚から日記と羽ペンを取り出し、その前の椅子に座った。


日記はトムに勧められてつける様になった物ですっかり、ノアの習慣と化していた。

ページをめくる音と羽ペンを走らせる音が室内に小さく響く。

ノアは日記を書き終えるとフゥと息を吐き、バトーの方を見ると、丁度、本に栞を挟み、本を閉じようとしているところだった。


すっかり日は暮れ、外からはフクロウの鳴く声が聞こえてくる。

頭の中には靄がかかり始め、緩やかに睡魔が忍び寄ってきていた。


藁のマットに亜麻のシーツをかけた簡素なベッドに仰向けに寝転ぶ。

毛皮の掛け布団を被って、ノアは今日を振り返る。

穏やかな1日だった。

和やかな1日だった。

探せばいくらでもありそうな平凡な1日だった。

だが、ノアにとってはそれこそが何よりも変え難い代物なのだ。


ノアは昼間のガーダとの会話を思い出す。


うん…そうだ。

みんなと一緒にいられればいい。

それだけでいい。

それだけでいいんだ。


離れた場所で寝るバトーをみる。

バトーは静かな寝息をたてていた。

ノアは目を閉じる。

意識がゆっくりと真っ暗闇に落ちていく。


大切な人達を思いながら、ノアは眠りについたのだった。



松明灯りから火の粉が散る。

パチパチと音を立てながら、赤い火の粉が煤へと変わり、緑の原に落ちていく。


天辺にスパイクのついた木の外柵。

その側で自警団のブライアンとチャーリーは警備にあたっていた。

ブライアンがぶるりと体を震わせる。


「う〜、昼間はまだあったけえが夜になると冷えるな」

「秋だしなぁ、もうちょっとたちゃすぐに冬よ」

「まぁーた雪掻きしなきゃいけねぇ季節になんのかよ。クッソダリィなぁ」

「なーに。その分、終わった後の酒と飯は美味いってもんよ」

「ちげぇねぇ。後は人肌の温もりがありゃ完璧だがなぁ」

「お前には縁のねぇ話だな」

「テメェもそうだろうが」


2人して笑い合う。

気の置けない友人の、明るい空気がそこにあった。


ふとチャーリーがある事に気づき、鼻をひくひくと動かした。


「おい?なんか匂わねぇか?」

「あん?匂い?」


チャーリーの言葉にブライアンも周囲の匂いを嗅ぐ。

しかし、感じ取れなかったらしく、眉を顰めて、首をかしげる。


「いや?特に何も匂わねぇぞ?」

「そうかぁ?何か焦げクセェ匂いがするような…」

「松明じゃねぇか?」

「いや、そういったのとは違う…もっと別の…燃やしちゃいけねぇものを燃やした時みたいな…」


そこまで言ったところでチャーリーはある事に気づく。

暗闇の中、少し離れた視線の先に小さな火が灯っている。

火はゆっくりとこちら側に近づいて来ているのが分かった。


「誰だ!」


一瞬で戦闘体勢に入る。

チャーリーは剣を抜き、構える。

ブライアンもそれに続いた。

小さな灯りの主は何も答えず、揺れながら距離を詰める。


「止まれ!」


チャーリーは静止の言葉をかけた。

だが、灯りはやってくる。

近づくにつれ、足跡も聞こえ始めた。


「止まれ!聞こえないのか!止ま………!?」


再度、止まるよう注告したチャーリーが言葉に詰まった。

何故、言葉に詰まったのか?


それは、目に見える灯りの数が急激に増え始めたからである。

2…3…5…10…20…30…50…100…200…灯りは次々増えていく。

自分達を囲うように、村全体を覆うように。

周囲からは笑い声とも鳴き声とも叫び声ともつかぬ不気味な声が聞こえ始める。


「何だよ…これ!?」


ブライアンは首を、視線を右往左往させ、冷や汗をかいて動揺する。

チャーリーも目の前の光景が信じられず、思考が停止していく。


慌てふためく2人の前に、先頭の灯りの主がズシャリと足音をたてながら、姿を見せるのだった。



「…」


暗闇の中で声が聞こえてくる。


「…ア」


こちらを呼ぶ声がする。


「…ノア」


その声はだんだんと大きく、強く、はっきりと聞こえてくる。

そして、音だけではなく体を揺さぶられる感覚がやってくる。


「起きろ、ノア!」

「兄貴…?」

「起きたか、ノア。急ぐぞ、早くこれに着替えろ」


ノアは目を覚ます。

こちらを呼んでいた声の主はバトーだった。

バトーは真剣な面持ちでノアに武装一式を渡してくる。

外からは騒がしい声と鐘の音が聞こえてくる。


「兄貴…一体?」

「敵襲だ、急げ!」


バトーはそう言って革鎧と着込み、帯刀し槍を持った。

寝ぼけた頭が目覚めるにつれ、鐘の音が緊急事態の合図だったとノアは思い出した。

ノアは急いで着替え、バトーともに外に出た。


「…うっ!」

「………!」


走って堤防を登り切り、眼下に広がる村を見たバトーは呻き声をあげ、顔を腕で覆い、ノアは目の前の光景に絶句した。


村の家々からは火が立ち上り、人々が悲鳴を上げ一目散に逃げ惑っている。


「みんなぁ!教会へ!教会へ避難しろぉ!」


燃え盛る村の中で自警団団長ガンスが声を張り上げ、人々を誘導する。


堤防を駆け降りて、村の中央付近までやって来たノアとバトーはガンスの側に近寄り、指示を仰ごうとした。


「団長!」

「おお!バトー!ノア!お前たち無事か!よかっ………た?」

「……ッッ団長ぉぉ!!」


だがそこで、ガンスの体が崩れ落ちた。

咄嗟にバトーは体を支える。

ガンスの背中には黒い棒のような物が深く突き刺さっていた。

胸まで貫通してあるそれは、もはや助かりようがないのは明白だった。


「団長!しっかりしてくれ!団長!!!!」


バドーは必死で声をかけるが、ガンスは浅く、連続する呼吸を繰り返したのち、ボソボソと何かを呟いていた。


「………ッ!、兄貴!!」


ガンスが射抜かれたことに放心していたノアだったが、ある事に気がつき、剣を抜き放つとバトーの前で構えた。

バトーは棒の飛んできた方向に目を向ける。


そこには_人ならざる者が立っていた。


「■■■■■■■■、■■■■■」

「なん…だ、コイツ?!」


泥と植物と昆虫を混ぜ合わせてできた様な漆黒の歪な肉体。

所々から微かに煙が立ち上り、手には真っ黒な棒状の…ガンスの背中を貫いた武器と同じ物が握られており、口からは悍ましい声と呼気と小さな火を吐き出していた。


「■■■■」

「グッ…!?」


怪物はノアに向かって、黒棒を振り下ろす。

ノアは剣を横向きに頭上に上げ、これを防ぐ。

怪物の力は想像以上に強く、ノアの口からは苦悶の声が漏れた。


「フッ!」


数秒の拮抗状態の後、ノアが動いた。

相手の武器に対し、真正面から受け止めていた力を抜くと剣の角度を変え、怪物の黒棒を刃に沿って滑らせる。

黒棒が地面に叩きつけられ、ノアを潰そうと力を入れていた怪物の体が衝撃により、前屈みに固まる。

ノアはその隙を狙い、怪物の首を跳ね飛ばした。


「フッ〜…」

「ノア、油断するな!まだいるぞ!」

「!」


バトーの声に、ノアが周りを見るといつの間にかノアとバトーの周りには10体ほどの怪物達が集まっていた。


「■■■■■■」

「■■■■」

「■■■」

「…コイツら!?」

「…やるぞ。この化け物どもを倒す」

「兄貴!…団長は?」

「……………」

「………ッッックソ!!」


ノアの隣に立ったバトーの表情は固く、唇を噛み締めていた。

その顔から、ノアはガンスが帰らぬ人となった事を理解した。

ノアは剣を構え直す。

バトーも槍を構えた。


「ダァァ!!」


剣を振るう。

怪物を斬り裂いていく。

槍が怪物を刺し穿つ。

怪物を倒していく中でノアはある事に気づいた。 

怪物達は戦いの立ち回りは素人も同然である事に。

力任せに黒棒を振るい、その度にその勢いで体をぐらつかせており、連続してこちらを攻撃することなど、ましてや仲間同士の連携でこちらを倒そうなどという行動は無く、ただ機械的に近づいてきたノアやバトーを攻撃しているような状態であった。

次々に怪物達は倒されていく。

ノアが最後の1体を斬り倒す。


「ハァ…ハァ…」

「…終わったか」


バトーはそう言って、ノアとこの場から動こうとした。

だが…その時、背後からズシャリと物音がした。

バトーとノアは振り返ると、最初にノアに首を刎ねられた怪物が立っていた。


「なっ…!」


ノアが動揺して声を上げる。

バトーも困惑の表情を浮かべた。

怪物はノアとバトーに歩み寄ってくる。

怪物の首から肉芽が芽吹き、肉体を再生していく。

その他の倒れた怪物達も同じように回復し始め、立ちあがろうとしていた。


「ハァ!」


ノアはもう一度、首を刎ねる。

だが…やはり怪物はその傷を治していく。


「不死身なのか…!?」


ノアはその事実に後ずさった。

バトーは動揺するノアの側に寄り添い、話しかける。


「ノア、教会へ行くぞ」

「!…コイツらはどうするんだよ!ほっておくの!?」

「この化け物達は殺せない。相手にしても無駄だ。なら、優先すべきは確実に生き残っている人達の救出だ。今、教会に集まっている人達を村の外に脱出させる」


そう言ってバドーは怪物の群れに向かって、槍を構える。


「最短距離で突っ走るぞ」

「…分かった」


バトーとノアは群れに向かって突っ込んだ。



村の西部、小さな丘の上に教会はある。

怪物達の群れを切り抜けたノアとバトーは道中の森の中の道を走り抜ける。

道端には村の人達の死体がいくつも転がっていた。

ノアは道中の死者達に視線を移す。

すると、ある事に気づいた…気づいてしまった。


「…あっ」

「どうした!」


急に立ち止まったノアに、バトーは声をかける。

ノアの視線の先にはある一つの死体があった。

それは…


「…ココさん?」


商人トムの妻、ココだった。

ココは血まみれで、生気の無い顔で背中を何本も黒棒が刺さった状態で死んでいた。


「ココさ…!」

「待て、ノア」

「あ、兄貴!?ココさ…ココさんが!」

「……」

「……〜ッッ」


思わず、駆け寄ろうとしたノアの肩をバトーが抑える。

ノアが振り返る。

バトーは黙って首を左右に振った。

ノアはワナワナと表情を震わせ、歯を食いしばった。


「急ぐぞ」


バトーが走り出し、ノアは一瞬、ココを見た後、バトーを追いかけだした。

ガンスに続く、親しい人の死。

その事実がノアの胸を締め付ける。

目から感情が溢れ出しそうになるのを必死に堪え、バトーと共に教会を目指す。

みんな、どうか無事でいてくれ。

そんな願いをもって登り坂をかけていく。

坂を登りきり、教会まで辿り着いた2人は中に入ろうと近づく。

だが、次の瞬間…炎が弾けた。

2人は咄嗟に身を屈める。

轟音と共に扉やステンドガラスが吹き飛ばされ、宙に舞い、地面に散らばる。

燃え盛る炎が壊れた扉や窓から這うように出てきた。


「そん…な、教会が…」


ノアは呆然と立ち尽くす。

そんなノアを狙い、蠢く影がある事をバトーは見逃さなかった。


「ノア!!」


バトーがノアを突き飛ばした。

地面に尻餅をついたノアが、顔を上げる。

そこには…背中と腰を黒棒に突き刺されたバトーがいた。


「…かっ……!」

「…あ……兄貴ぃぃぃ!?」


バトーが膝をつく。

ノアはバトーを支えようと手を回す。 


「…あぁあ、兄貴!…兄貴!」

「かっ…グボぁ…」

「……っ」


バトーの口から、咳と共に血がこぼれ落ちる。

ノアはその光景に血の気が引く。

黒棒が飛んできた方向に目を向けると、炎渦巻く教会の中で怪物が口端を釣り上げていた。

怪物が教会の隙間から這い出てくる。

その数は1体では無く、先程斬り抜けた村の中にいた数、その倍以上がいた。


「(数が…多すぎる!?)」


剣で対応しようとしたノアだったが、多勢に無勢。

無理だと判断し、バトーの腕を自分の首に回し、背に担ぐ。


「兄貴、逃げるよ!」

「…お、置いていけ…この傷じゃ…俺は」

「何言ってんだよ!逃げるんだよ!…ツァ!」


怪物達が投げてくる黒棒を必死に躱し、森の中に逃げ込んだ。


「ハァ…ハァ…」


息を荒げ、玉粒の様な汗をかきながらノアは森の中を進む。

ノアの胸中は感情が入り乱れ、今にも噴火してしまいそうになっていた。


「クソ…クソ…クソ!クソ!」


恨み言が口から漏れる。

なんでこうなったのかと。

いつも通りの平和な一日を過ごしていた筈なのにどうしてこうなったかと。

怪物に村は焼かれ、村人は死に、ガンス、ココも帰らぬ人となった。

そして…バトーも死がすぐそこまで近づいてきている。

ノアの足元にはバトーの傷口から漏れた血が垂れ落ちていた。


「ノア…俺は…」

「兄貴…大丈夫だ。必ず…必ず助かる!今は耐えて。大丈夫。大丈夫だ!」

「ノア…」


ノアは背中にいるバトーに必死に声をかける。

バトーはそんなノアの姿を見ながら、昔の事を思い出していた。

親を埋めたあの日、自らの腕の中で泣いていた赤子が今は自分を背負っている。


(…大きく…なったなぁ)


バトーは危機的状況にも関わらず、何処か安堵していた。


「あっ…!がっはぁ!?」


ノアが木の根に足を引っ掛ける。

思いっきり倒れ込み、体は倒れた場所が水平では無く、不安定な道だった為に何回も転がり、幾度も段差から落ちた。

呻き声をあげながら、体を押さえて起き上がったノアはすぐにハッとして、落としてしまったバトーの元に駆け寄る。

落とした勢いで黒棒は抜けたバトーは、うつ伏せになっていた。


「ごめん、兄貴!すぐに…」

「…ノア、待て」

「兄貴?」


バトーの体を仰向けに治し、担ぎ直そうとしたノアをバトーは止める。

バトーは腰につけた小袋の中から、ペンダントを取り出しノアに渡した。

それはガンスが普段から胸につけている品物であり、バトーはガンスの死に際に遺品として回収したのだった。


「コレを…王家の紋章が刻まれてる。…団長が近衛をやっていた時に王から賜った物だそうだ…ゲ走ってァ!?」

「兄貴!?」

「ハァハァ…いいかノア。あれは尋常の者じゃない。放っておけば必ずこの国に災いをもたらす。

この事を王にお伝えするんだ。このペンダントがあれば、謁見を許される…はずだ」

「な、何言って…」

「いいな?」

「兄貴…」


血が地面に広がっていく。

顔が青ざめていく。

バトーが手遅れであるという事実をまざまざとノアに見せつける様に。

ノアの目からは涙が溢れていた。


「…ノア」

「嫌だ…」

「…戦いの基本、覚えてるよな?」

「嫌だ…嫌だ…」

「どんな時でも、冷静に…感情に飲み込まれず…だ。…怒りや憎しみに囚われちゃダメだ」

「だって…こんな…」

「憎悪は人を…怪物に変える。怪物にはなるな。人でいろ」

「…ダメだよ!こんなの!」

「ノア」


泣きじゃくるノアにバトーは微笑む。


「生きろ…俺の分まで」

「兄貴!ダメだよ!兄貴!」

「幸せ…になって…くれ」

「兄貴ぃ!」

「ノ…ア……。お前と……兄弟で……よかっ…た」


バトーの目から光が消える。

地面に手が力無く落ちた。

ノアの胸の中で、バトーは命を失った。


「あ、あぁ、あ…うあああああああぁああぁああああああ!!!!」


ノアは絶叫する。

今まで必死に抑えていた感情が堰を切った。

濁流のようなそれは目から、口から溢れ出る。

闇の中に悲しみの咆哮が響き渡る。

何度も、何度も。

掠れて、声が出なくなるまで叫び続けた。


「うぐぅ…ひっ…うっ…兄…ちゃん……」


ノアはバトーを抱きしめる。

2度と目を覚さないとは分かっていてもなお、離れ難い肉親の体を強く、強く。

枯れ果てた喉で、すすり泣きながら。


「■■■■■」


ノアの周りに、怪物達が周りを囲むように集まってきた。

後を追いかけてきたのか。

絶叫を聞きつけたのか。

じりじりとノアとの距離を詰めて、近づいてくる。

ノアはバトーの目をそっと閉じ、ゆっくりと地面に置くと、立ち上がり剣を抜いた。


「お前らが…」


ノアの前にいた怪物が黒棒を振り上げる。


「お前らが…!」


ノアは怪物が黒棒を振り下ろすより先に怪物の胴を真っ二つに切り裂いた。

怪物の上半身がどちゃりと音を立てて落ちる。


「お前らがぁぁぁぁ!!!」


ノアは怪物達の群れに突っ込んで行く。

腕を、肩を、足を、首を、頭を、斬って斬って斬り倒してゆく。


「ああああああああああ!!!」


嵐のような剣撃で怪物達を蹴散らすノア。

だが、不死の怪物はそれを嘲笑うかのように、傷を治し、立ち上がってくる。

それでも、ノアは戦い続け…。

そして、その時は訪れた。

ノアの横腹に衝撃が走る。

横腹を見ると黒棒が深々と突き刺さっていた。


「が…はぁ!」


ノアは膝をつきそうになるのを歯を食いしばって耐え、刺してきた怪物の頭を斬る。

今度は背中に衝撃が走った。


「がぐぁ…ああ!!」


背後に振り向き、怪物を袈裟斬りにする。

次は太腿に黒棒が突き刺さった。

ついにノアは膝をついた。


「ぐぁが…ハァハァ…!」


動きを止めたノアの周りにはワラワラと怪物達が群がってきた。


「■■■、■■」

「■■■」

「■■■■■■■■」

「■■■■■」


怪物達は黒棒を掲げる。

ノアはその様を見ていることしかできない。


「…………ちくしょう」


ノアの無念の一言。

それから少し遅れて、黒棒はノアの体に突き刺さった。

背中に、肩に、脚に、腕に、腹に、激痛が走る。

ノアはその場に倒れ込んだ。

血溜まりが広がっていく。

体から力が抜けていく。

そんな状態の中で、ノアは思い出していた。

友人達との日々を。

陽だまりのような毎日を。


「…してやる」


怪物達はノアに背を向け、森の中に消えていく。

ノアはその背中を忌々しげに睨みつける。


「…殺…してやる」


地面を指で抉り、握りしめる。

怒りで心の中は赤く染まっていた。


「絶対、殺して…や…る…!」


地面を這いずり、怪物達を追いかけようとする。

だが、僅かな距離を移動しただけでノアは力尽きた。

意識が遠ざかっていく。

視界が黒く、落ちていく。

その怒りは晴らされる事無く…ノアの意識は途絶えた。



『許せないか?』


暗闇の中で声が聞こえてくる。

こちらに問いかけるように。

ノアは答える。


『ああ、許せない』


あんな事した奴らを許す理由は無い。


『奴らを殺したいか?』

『殺してやりたい』


また、問いかけられた。

ノアはすぐに答える。


『この惨状を引き起こした者、それを倒す力があるとしたら…お前は手に取るか?』

『当たり前だ!』


声を荒げる。

怒りを込めた叫びを上げる。


『そうか…そうか……うん、わかった』


納得した問いの主はノアの体に触れる。

体に暖かい何かが流れ込んでくるのをノアは感じた。


『…なんだ?』

『ならば…やろう。その力を。そして、行こう。奴らを倒しに』


熱が広がると同時にまたもや意識が薄れていく。


『暖かい…』


そして、意識を失い、眠りについた。

ノアは眠りに落ちる瞬間…





















『○○○○○』















何かを聞いた気がした。



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