表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女様、それ“回復魔法”じゃなくて“時間逆行”ですよ!?  作者: 朝陽 澄
第一部:名前を忘れた聖女と、記憶を繋ぐ少年編
5/15

第5話:“聖女狩り”開始──選択を迫られる二人

 ──辺境の森・山道の入口──


 


 僕たちは夜明け前に村を出た。

 王都の騎士団が来ると知った瞬間、時間はもう残されていないと悟ったからだ。


 逃げ道は二つ。北に抜けて交易都市を目指すか、東の山を越えて無人地帯に出るか。

 ……どちらにせよ、王都の騎士団に見つかれば、ただでは済まない。


 


 僕たちが選んだのは、東の山道だった。


 危険だが、そのぶん追っ手も少ないはずだ。

 そう、思っていた。


 


 ──だが。


 


「聖女エリス・ルーナ、およびカイン=アレスト。王都騎士団第七隊より、確保命令に基づき、拘束させていただく」


 その声が響いたとき、霧の中から現れたのは──完全武装の騎士団七名。


 道の両側を固められ、退路は完全に断たれていた。


 


「確保、って……私、何か悪いことした……?」


 エリスが怯えたように僕の袖を掴む。


「……してない。君は何もしてないよ」


 


 僕がそう答えた時だった。

 騎士の一人が、荷車を引いて前に進み出た。


「では、力を見せていただきましょう。これが“貴女の力”と呼ぶに値するかどうか」


 


 荷車には、布をかけられた何かが載っていた。


 騎士が布をめくる。

 そこにあったのは──瀕死の少年だった。


 


 血に染まった服。呼吸は浅く、意識は朦朧。

 明らかに、今すぐ治療しなければ死んでしまう。


 


「彼は、魔物討伐に失敗して重傷を負った。治癒魔術師たちも匙を投げた」


「なっ……!」


「しかし、聖女エリス様であれば。噂通りなら、死にかけた命すら“回復”できるはずです」


 


 これは──罠だ。


 彼らは彼女の力の正体を見極めようとしている。

 いや、もはや「公に認めさせようとしている」。


 そうなれば……王国は、彼女を“聖女”ではなく、“神具”として扱うだろう。


 


 エリスは震える指で少年に手を伸ばしかける。


「私……助けたい……でも……でも……」


 


 だめだ。このまま使えば、また記憶が削られる。

 いや、それだけじゃない。この場で力を証明したら、もう逃げられない。


 


「やめろ、エリス!」


 僕は彼女の手を掴み、振り払った。


 


「でも……死んじゃう、よ……!」


「この人を救ったら、君は“モノ”として使われる! それでもいいのか!?」


「私は、命を見捨てるなんてできない……聖女だから……!」


 


 彼女の目には、迷いがなかった。

 ただ一人の命を救うために、自分の全てを差し出す。

 それが、彼女の在り方だった。


 


「……なら、僕が代わりに背負う」


 


 僕は騎士の前に出て、堂々と言い放った。


「エリスの力は“回復”なんかじゃない。“時間”を巻き戻す力だ。彼女は世界の理すらねじ伏せる、ただ一人の存在だ」


 


 騎士たちがどよめく。


「それを使わせたいなら、まずは僕を殺してからにしろ! 彼女に力を使わせるたびに、彼女の記憶が削れてるってのに……」


 


 沈黙が流れた。


 だが次の瞬間──


 


「……止めて、カイン」


 エリスが、優しく、でもしっかりと僕の手を握った。


 


「私は……それでも、救いたいんだ。カインの心が、誰より優しいって知ってるから。……だから私も、ちゃんと選びたいの」


 


 彼女はゆっくりと少年に手を伸ばした。


 光が、世界を包み込む。


 


 そして次の瞬間──少年は目を見開き、傷も血も、まるで最初からなかったかのように、立ち上がった。


 


 騎士団は全員、声を失った。


「……完全治癒、以上の……いや、これは……“因果そのものの改変”……?」


 


 でも、僕はエリスの方を見ていた。


 彼女の目が、一瞬揺れた。


「……えっと、ごめん。さっき、私……なんで泣いてたんだっけ……?」


 


 まただ。


 彼女の中から、ほんの少し、“さっきまでの感情”が削れている。


 


 ……もう限界は近い。


 次に使えば、もしかしたら、僕の名前も忘れるかもしれない。


 このままではダメだ。

 僕はもう、彼女を“回復魔法の聖女”として見せておくわけにはいかない。


 


 決めた。


 次に王国が動く前に──僕はこの世界の“常識”をぶっ壊す。


 


 その始まりが、この瞬間だった。


 


 僕が、彼女を“聖女”ではなく、“人間”として守ると決めた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ