表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女様、それ“回復魔法”じゃなくて“時間逆行”ですよ!?  作者: 朝陽 澄
第一部:名前を忘れた聖女と、記憶を繋ぐ少年編
4/15

第4話:“無能”だったはずの少年、王国に睨まれる

──王都・魔法通信塔 第六塔室──


「……また黒鋼狼の群れが、辺境で殲滅された?」


 魔導水晶に映し出された報告に、魔法研究所長セディア=ルーベルは目を細めた。


「しかも、“聖女エリス”と“カイン=アレスト”の名が現地で確認されたとのことです」


「……ふむ。あの二人は確か、処分済みのはずだが?」


「“処分”ではなく、“追放”です。まだ正式な令状も出ていません」


 報告者が頭を下げる。


 


 セディアは魔導水晶の映像を拡大し、村に残された魔力痕跡を読み取る。


 回復魔法の余波──だが、尋常じゃないほど“深く巻き戻った”痕跡がそこにあった。


「……時間操作。まさか、聖女がそんな……」


 彼女は小さく舌打ちし、机を叩いた。


「放置しておけば、王の逆鱗に触れる。……すぐに追跡班を送れ」


「では、討伐命令を?」


「……否。連れ戻す。“使い方”さえ間違えなければ、あの力は神にも匹敵する」


 


 ──一方その頃、辺境の村。


 


 僕とエリスは、森の小屋に一晩泊めてもらっていた。


 村人たちは、黒鋼狼を追い払った僕に対して、多少は感謝の色を見せてくれている。


 でも、本当に感謝されるべきは彼女の方だ。

 僕は軽傷だったとはいえ、一度“死んでいた”のだから。


 


「エリス。……昨日のこと、覚えてる?」


「昨日?」


 彼女は首を傾げた。


「うーん……確か、カインが戦って、狼を撃退して……でも、その後が……ちょっと、ぼんやりしてるかも」


「僕が、どんな傷を負っていたかは?」


「……あれ? ……え? カインって、怪我したっけ……?」


 ――やはり。


 彼女の中から、“僕が傷を負った事実”が消えている。


 つまりそれは、「その瞬間に戻った」ということ。


 彼女の回復魔法が、僕の時間を巻き戻した証拠だ。


 


(このままだと……エリスの中の“現実”は、すり減っていく)


 


 彼女の記憶の“地盤”が崩れはじめている。

 このまま使い続ければ、きっと、自分の名前すら忘れてしまう。


 その時、村の外から慌ただしい足音が響いた。


「か、カインさん、エリスさん! 王都からの騎士団が……! “あなた方を保護する”と……!」


「保護、だと?」


 


 やっぱり来たか。


 王都は、彼女の“力の正体”に気づき始めた。

 そして今度は、前のように追放などしない。今度は……“利用”するつもりだ。


 


 エリスは少し不安げに僕の方を見る。


「カイン、どうしよう……私、また何かしちゃった……?」


「君は悪くない。全部、王都の勝手な都合だ」


 


 だからこそ、ここで捕まるわけにはいかない。


 彼女を、再び“道具”にされる前に。


 僕は手を握り、彼女に告げた。


「逃げるよ、エリス。今度は、僕が“全部の時間”から君を守る」


「……うん、わかった」


 


 僕らは走り出した。

 彼女の力を、本当に“癒し”として守るために。


 ──今度こそ、世界が間違っているなら、世界の方を変えてやる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ