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聖女様、それ“回復魔法”じゃなくて“時間逆行”ですよ!?  作者: 朝陽 澄
第一部:名前を忘れた聖女と、記憶を繋ぐ少年編
2/15

第2話:回復魔法で蘇った命──王都郊外・辺境街道沿いの森──

「……もう、大丈夫。動いても平気だよ」


 エリスの優しい声と共に、老婆の体が淡く光に包まれた。


 村の老婆――マリ婆さんは、毒蛇に噛まれて瀕死だった。

 普通なら助かるはずのない傷。だがその体は、まるで最初から怪我などなかったかのように、完全に治っていた。


「う、嘘だろ……さっきまで痙攣してたのに……」


「毒も、傷も全部……消えてる?」


 集まった村人たちは、驚愕の目で聖女エリスを見つめている。


 けれど、当の本人は、ひどく申し訳なさそうに頭を下げていた。


「……すみません。私の“癒し”は……他の人より、少し強いだけなんです」


 そう言って微笑む彼女の顔は、どこか影を落としていた。


 


 だが、僕は見逃さなかった。


 回復魔法が発動した瞬間、マリ婆さんの腕の傷が閉じたのではない。

 **傷を負う前の状態に“戻っていた”**のだ。


 皮膚の裂け目、血管の切断、血液の毒――それらが「治った」のではない。


 **“なかったことになった”**ように、痕跡すら消えていた。


 


 その異常さに、村人たちはまだ気づいていない。


 彼らは「聖女の力はすごいな」と言うだけで、それが世界の理から逸脱していることを理解していない。


 だが、僕だけは確信した。


 これは“回復”なんかじゃない。時間操作……いや、もっと恐ろしい力だ。


 


 その証拠に、エリスは回復を使うたびに──


「……うぅ……ごめん、カイン……ちょっと、頭が……」


 彼女は、苦しそうにこめかみを押さえ、座り込む。


「また……記憶が飛びそうな感覚……何か、大事なことを……忘れてる気がするの……」


 これだ。


 この力は使うたびに、“誰かを救うたびに”、エリス自身を削っていく。


 


「無理に魔法を使わなくていい。これ以上、君が壊れていくのを見たくない」


 僕はそう言って、彼女の手を握る。


 それは、彼女にとって何の意味もない言葉かもしれない。


 次に回復魔法を使えば、今の会話すら、彼女の中から消えてしまうかもしれない。


 でも、それでも僕は言いたかった。


 


「君の力は、誰よりも優しくて、誰よりも危険なんだ」


 


 ──この世界がその意味に気づく前に。


 僕が先に、彼女を守らなきゃいけない。


 


 そう決意した瞬間だった。


 村の外れから、魔物の悲鳴と絶叫が聞こえた。


「た、た、大変だ! 黒鋼狼くろがねおおかみだ! しかも群れで……!」


 村人の叫びに、僕は立ち上がった。


 聖女の力を、“回復”として使わせてはならない。


 彼女に頼らず、まずは僕自身が、この村を救ってみせる。


(そうでなければ……また、彼女が自分を削ってしまう)


 


 彼女の命を救うために。


 僕は、ただの見習い魔法学者だけど、戦うことを選んだ。


 


 ──物語はまだ、始まったばかりだ。

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