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聖女様、それ“回復魔法”じゃなくて“時間逆行”ですよ!?  作者: 朝陽 澄
第二部 聖女と時の残響編
11/15

第1話:癒しの奥に響くもの

※この物語は『聖女エリス=ルーナ』第2部です。

※第1部を未読でも楽しめる構成になっていますが、読了済みの方は「彼女の残響」をより深く味わえるかもしれません。


第2部のあらすじ

これは、“世界を巻き戻す聖女”が姿を消した後。

彼女が残した“癒しの力”を受け継いだ、もう一人の少女の物語。


過去を知らぬまま癒すたびに、“何かを思い出しそうになる”。

やがて少女は、自らが「存在してはいけない記憶」に触れていく。


――これは、記録にない未来を、もう一度取り戻す旅のはじまり。

──癒したのに、痛みが残った。

それどころか、私は――“知らない誰かの記憶”を、見た。


 


傷は塞がっていた。

出血も止まり、術式の光も正常に収束していた。


それなのに。


「……この人、確かに“死んだ”はずだったのに」


私は、手のひらを見つめる。

白い光を帯びた回復魔法の痕跡が、まだ指先に残っていた。


その男の胸を貫いた大穴は塞がり、彼はゆっくりと目を開けていた。


意識もある。脈もある。身体に残る外傷もない。

だというのに、私は――その瞬間、**“灰色の世界”**を見ていた。


 


崩れ落ちた大地。

泣き叫ぶ子供たち。

誰かの名前を呼ぶ少女の声。

そして、光の中で、涙をこぼす“白い外套の女性”。


 


「……誰?」


 


患者の声ではなかった。

それは、私の口から、無意識にこぼれた疑問だった。


だが、私の周囲にいた同僚たちは、何も気づいていないようだった。

ただ「いつも通りの治癒が終わった」とでも思っているのだろう。


だとすれば……あれは、私の“見るべきでない記憶”だったのか?


 


 


──研究都市オルデリア 第三治癒研究棟──


 


「リュミエル先生、先ほどの件ですが、患者側には問題ないようです」


「……ありがとう。あの人の術式反応に変化は?」


「いえ、安定しています。ただ、回復速度が異常で――まるで“死亡状態から巻き戻された”ような……」


その言葉に、私の指先がぴくりと動く。


「……そう、まるで“巻き戻された”ような、ね」


 


自分でも、それが冗談で済む言葉ではないことはわかっていた。

だが、そうとしか言いようがなかった。


私が癒したのは、“傷”ではない。


“死んだ未来”そのものを、なかったことにしてしまったような――そんな感覚だった。


 


「……リュミエル先生?」


「ごめんなさい、少し疲れてるのかも。休憩、取ってくるね」


 


私は研究棟を出て、夜の空気に身をさらした。

都市の灯りが、静かに瞬いている。


そして、その時だった。


 


「やはり、君は“例外”だったか」


 


静かな声が、すぐ後ろから聞こえた。


驚いて振り返る。

だが、そこにあったのは敵意ではなかった。

一人の青年――黒衣をまとい、銀の紋章を胸元に飾った、見知らぬ男。


彼は、私の前に立ち、ゆっくりと名乗った。


 


「僕は《時の残響》の観測者、“ヴァル”。

君が“癒しの中で他人の過去を見た”とすれば、それは偶然ではない」


「……《時の残響》?」


「君の力は、回復魔法ではない。“時間干渉”だ。

君は、かつて存在した――ある“聖女”の、残響を受け継いでいる」


 


私は息を呑んだ。


それは、今の世界に存在しない言葉。

記録にも、教本にも、一切登場しないはずの単語。


 


「……“聖女”?」


 


その瞬間、脳裏にまたあの光景がよみがえる。


灰色の空。

微笑む女性。

そして、彼女の隣にいた、黒髪の少年――


 


「誰……なの? 私……知ってる気がするのに……」


「君が“知ってはいけない記憶”を見始めたということは、世界が揺れ始めた証拠だ」


 


ヴァルは静かに告げる。


 

「リュミエル。君は、この世界の“巻き戻された未来”に触れ始めている。

そしてそれは、“君の力の正体”に直結している」


 

私は何も答えられなかった。

ただ、心臓の奥がざわつくのを感じた。


これは偶然ではない。

私は、本当に――誰かの“記憶”を継いでいるのか?


 

いや、それとも――“私自身”が、何かを忘れているのか?


──世界が巻き戻されたなら、

私は、その前の未来を――取り戻すべきなのかもしれない。


 


(第2部 第1話 了)

癒すたびに“誰か”を思い出す少女・リュミエル。

彼女の力の正体とは? 《時の残響》とは何者なのか?

次回、第2話「消された未来の名」。

その名を知るとき、彼女の運命は大きく動き出す。

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