08 親友
「さて、これからどこに身を潜めるかだけど」
どちらからともなく抱擁を解くと、右隣に座る少女へと優しく声を掛けた。労るように右手で華奢な肩に手を回し、気遣う素振りも忘れない。
「今日の昼頃に友達と電話して、もし本当に通信障害が起きたら泊まりに行くって約束してたんだ。だから、しばらくはその友達の家に一緒に泊まらせてもらおうと思うんだけど、いいかな?」
そう問い掛ける自分の声はやけに大きく響いたように聞こえた。テレビは消しているし、葵ちゃんの様子も落ち着いてきたから、広々としたリビングは静まり返っている。
「あの、その友達の方というのは……?」
小さく呟くような声で尋ねる少女の顔には暗い陰が差していて、元が美少女なだけに何とも痛ましく見えた。普段の朗らかな様子を知っている身としては少なからず同情するけど、家族を失うなんてそう大した不幸でもないと思う自分もいる。
「あ、そいつ女だから大丈夫だよ」
俺は本心が顔に出ないように気を付けつつ、話を続ける。
「桐本古都音っていうんだけど、そいつの家って母子家庭でさ、この状況で若い女と母親の二人暮らしは何かと不安だろう? 実際、こんなことがあったわけだしね。だから、今後どうなるにせよ、とりあえず用心棒みたいな男がいた方が安心だろうってことで、泊まりに行くって約束したんだ」
「その桐本さんは……友達、なんですか?」
今の葵ちゃんの精神状態で、その点を確認するという意味。
それを瞬間的に理解しつつ、俺は気負いなく頷いた。
「ああ、子供の頃からの友達だよ。いわゆる幼馴染だね」
現状、葵ちゃんが安心して頼れるのは俺だけのはずだ。
このマンションの他の住人に助けを求めようにも、隣家のおっさんに襲われた直後では二の足を踏むだろうし、俺という頼りになる存在が既にいる以上、リスクを冒すのはナンセンスだ。警察に駆け込むとしても、その道中で危険な目に遭わないとは限らないし、そもそも人類バトロワ展開など絶対にあり得ないと確信できない限りは、警官だからと安易に信じるのも危険だ。
そう考えたとき、最もローリスクハイリターンを見込める俺という庇護者には、その力の多くを自分に割いてほしいと思うはずだ。もしこれから行くのが恋人の家だった場合、葵ちゃんはいざというときには自分より恋人を優先されると思い、不安になるだろう。だからこそ、友達なのかどうかをわざわざ確認してきた。
どこまで自覚した上での言動かは分からないけど、少なくともこの少女が馬鹿ではないことは確かだと思う。合田のおっさんに襲われたことで警戒心が強くなっているはずだし、今後しばらくの間は多少お荷物になることはあっても、足を引っ張るような浅慮な真似はしないだろう。そう思いたい。
「……分かりました」
葵ちゃんが微かに顎を引くようにして頷いたので、俺は「ありがとう」と丁寧に言ってから立ち上がった。すべき会話を終えた以上はすぐに行動だ。
下手にのんびりすると、また葵ちゃんが泣き出して、だらだら慰めるはめになりかねないし、今はこれ以上の感傷に浸る余裕を与えない方が彼女のためにもなるだろう。
「それじゃあ早速行こうか。まだ色々辛いだろうけど、古都音の家に着くまでは頑張ってくれるかな」
「……はい」
少女の面持ちはこの世の終わりとでも言うような暗澹としたもので、ソファから腰を上げるときには少しふらついてもいた。
ひとまずは葵ちゃんの荷物を纏めてもらうため、瀬良家に行くことにして、一緒に廊下に出る。床にはおっさんの死体が転がっていて、ゴミ袋を被せてあるとはいえ、半透明なのでその様子は隠れきっていない。
「…………」
葵ちゃんは仄暗い眼差しで死体を一瞥しただけで、特に取り乱すようなことはなかった。その一方で、瀬良家に上がり込むと、ふらふらと父親の遺体に歩み寄り、その傍らに跪いて再び泣き出した。実際に死んでいる姿を見ると、込み上げてくるものがあったのだろう。
俺はその隙に夫婦の寝室と思しき部屋に入り、シーツと薄手の掛け布団を持って来た。そして葵ちゃん自身に、シーツで父親の遺体を覆わせた。その後、リビングに移動して、母親の遺体に掛け布団をかけさせた。少女は終始泣いていたけど、両親の姿が隠れたことで一応の踏ん切りは付いたのか、その後は荷物を纏める作業に移ってくれた。
葵ちゃんはリビングや洗面所などを何度か行き来した後、彼女の部屋から荷物と共に出てきた。ラフな部屋着から、夏にしては少し着込んだ装いに着替えており、スーツケースと小洒落たバッグを持っている。髪は普段通りのポニーテールに結われていた。
「準備はいいかい?」
「……はい」
「もし忘れ物があったら、後で一緒に取りに来よう」
頷きを返す少女と共に瀬良家をあとにした。
自宅から自分の荷物を持ち出し、しっかりと玄関を施錠して出発する。
「階段で行こう」
この状況でエレベーターを使うのはリスキーすぎるので、徒歩で地上を目指す。黙々と外部階段を下りていく最中、耳を澄ませてみても、マンション内は静かなものだ。手摺壁から見える地上の夜景も普段と変わらないように見えた。
一階まで来たところで、エントランスの自動ドアの向こうに人がいた。何となく見覚えがあるような気がするおばさんだ。たぶんマンションの住人だろうそのおばさんは、ガラス越しに俺たちの存在に気付くと、困惑した様子で手招きしている。
特に危険はなさそうだったので近付いてみた。
「あれ、開かないな」
普段なら自動でスライドするはずのドアはぴくりとも動かない。
おばさんが扉越しに「開きませんかー?」と尋ねてきたので、「開きません」と首肯しておいた。インターホンが鳴らなかったことといい、通電はしていてもマンションのシステムがバグっているのかもしれない。これも通信障害の影響だろうか。
俺たちは踵を返し、駐車場に直結する通用口から外に出た。するとおばさんも回り込んできて、溜息を吐きながら「例の通信の妨害とやらのせいかしらねぇ?」と話し掛けてきたので、適当に応じておいた。
おばさんは俺たちが閉めた扉に鍵を差し込んで解錠し、そこからマンションの中に入っていった。あの扉はこのマンションの住人なら自宅の鍵で開けられるようになっている。
「この分だと色んなところで影響出てそうだな」
思わず零した呟きに、葵ちゃんは特に何の反応も返さなかった。
その後は何事もなく、駐車場で愛車に荷物を積み込んで、乗車した。後部座席の方に人が乗り込める余裕はほぼないので、葵ちゃんは助手席に収まり、しっかりとシートベルトをしている。
エンジンを始動させ、さて出発だと思ったところで、カーナビの表示がおかしいことに気付いた。現在位置がマンションの駐車場ではなく、よく分からん場所にいることになっている。
「位置情報までダメなのか」
古都音の家はさほど遠くないし、道のりも覚えているから問題はないとはいえ、今後桐本家から別の場所に避難することになった場合は少し不便になりそうだ。
何はともあれ発進する。
美少女と夜のドライブというのは普段なら悪くないと思えるシチュエーションだけど、両親を殺されたばかりの悲劇の少女と車内で二人きりというのはかなり気まずいものがある。今は葵ちゃんもそっとしておいてほしいだろうし、不必要な会話はせず、俺は運転に集中することにした。
出発して間もなく、信号のある交差点に差し掛かった。赤信号だったので止まる。正常に稼働しているのか不安になりかけたところで、青信号に変わった。交差道路の方の信号は赤になっており、車両もちゃんと停止していた。
「信号は普通に動いてるな」
しかし、そこから少し進んだところにある大通りとの交差点では、信号が灯っていなかった。警官が交差点の中央付近に立って、旗を振って交通整理をしている。
「……動いてる信号と動いてない信号があるのか」
交差点付近には事故が起きた形跡などは見当たらず、何事もなく通行することができた。
現在時刻は二十二時三十分ほどだから、あの信号は停止して一時間半ほどになるはずだ。あそこは交通量が多いから、それまでの間に事故があってもおかしくはない。しかし、警察も馬鹿ではないはずなので、きっと信号が停止する事態に備えていただろうから、あらかじめ交差点付近で待機していて、即応できたのかもしれない。
そうなると、機能停止していない信号があることに疑問が残る。一応、その答えを想像することはできるけど……後で古都音に聞いてみればいいか。
「うわ、コンビニ凄いことになってんな」
通りがかったコンビニの駐車場には車がいっぱいで、ガラス越しに見える店内はかなりの人混みだった。外にまで人が溢れているのか、入口付近にも人だかりができている。通信障害が本当に起きたことで、危機感を煽られた人たちが殺到しているのだろう。まるで砂糖に群がる蟻のようだ。
あの光景を見ると、買い溜めしておいて正解だったと思えた。
「コンビニと信号以外は特に変わりないか……?」
コンビニの様子こそ異様だったけど、街全体としてはそこまで大きな変化はないように見えた。やけにタクシーを見掛けるような気はするけど、その程度だ。きっと電車が止まったか遅延でもしてるんだろうな。
結局、道中は特にトラブルも何もなく、無事に桐本家に到着することができた。普段なら十五分ほど掛かるところが、およそ二十分ほど掛かったけど、警察による交通整理の影響を考えれば誤差の範囲内だろう。
桐本家は一軒家で、周囲には似たような家々が建ち並んでいる。良くも悪くも一般的な二階建て住宅だ。駐車場は二台分のスペースがあるけど、軽自動車が一台駐まっているだけなので、いつも通り空いている方に駐めさせてもらった。
「葵ちゃん、着いたよ」
終始無言だった少女は軽く首肯すると車を降りた。そして自分で後部座席のドアを開けると、荷物を取り出していく。その様子を見る限り、何も手につかないほど憔悴しているわけではなさそうだけど、淡々とした動きからは普段の溢れんばかりの瑞々しい生気など全く感じられない。
それでも、葵ちゃんは俺の分の荷物まで降ろしてくれた。
「ありがとう」
「……いえ」
おそらく人生で最も精神的に弱っている状態だろうに、何もかも俺に頼り切りになろうとしないところに瀬良葵の性根が窺い知れるようで興味深かった。意外にも芯の強い少女なのかもしれない。
二人で荷物を持って玄関に向かうと、インターホンを押した。マンションと違ってちゃんと鳴り、「はぁーい」とスピーカーから声がした。
「夜分遅くにすみません、結城です」
「あ、はいはぁーい、ちょっと待っててねぇ」
それから十秒もしないうちに、ドアが開いた。
「あっくぅん、いらっしゃぁい」
柔らかな雰囲気の女性がおっとりとした口調で言いながら出迎えてくれた。緊張感などまるでなく、いつも通りの様子で、何だか無性に安心してしまう。
「突然すみません、茉百合さん。古都音から話は聞いていますか?」
「ええ、聞いてるわぁ。あっくんが泊まりに来てくれるってぇ。でも、来るのは明日の朝方ってことだったと思うのだけれど……」
「少し事情が変わりまして、今からでも大丈夫でしょうか?」
「ええ、それは全然。むしろ大歓迎よぉ」
茉百合さんは嬉しそうに微笑んでいる。
相変わらず四十代半ばとは思えない綺麗な女性で、昔から実年齢より若く見えていた。心結ほどではないにしても女性的な身体付きをしていて、顔立ちからも柔和で温厚な性格なのが窺い知れる。実際に優しく、母性に溢れた人だから、幼い頃から何かと世話を焼いてくれた。この人なら葵ちゃんのことも放ってはおかないだろう。
「ところで、そちらはどなたかしらぁ?」
「この子はマンションで隣に住んでる瀬良葵ちゃんです。事情があって連れて来ました」
「そうなの……まぁとりあえず、中に入ってぇ。葵ちゃんも遠慮しないでねぇ」
茉百合さんは少女の暗い面持ちをじっと見つめてから、俺たちを桐本家に招き入れた。葵ちゃんが「……お邪魔します」と言って靴を脱ぐ様子を、茉百合さんは気遣わしげな眼差しで見守っていたので、ただならぬ精神状態であることは察していそうだ。
「おー、アッキーもう来たのぎゃああああああああ!?」
小柄な金髪女が階段を降りてきたかと思ったら、途中で奇声を発しながら慌てた様子で回れ右して、四つん這いで階段を駆け上がっていった。ちらっと見えた限り、いつも通りぶかぶかのTシャツをワンピースのように着ている感じの格好だったので、最後の方はパンツ丸見えだった。
葵ちゃんが呆然としたように階段の上を見遣ってるけど、既に古都音の姿はない。
「だだだだだ誰だぁ!?」
「ことちゃーん、大丈夫よぉー。この子はあっくんのお隣さんだってぇー。もう夜遅いんだから、あんまり騒がないようにねぇー」
「なぜお隣さんを連れて来た!? 女かっ、女だからか!? なんかちょっと未亡人感ある美少女が好みだったのか貴様っ!?」
「古都音、事情は今から説明するから降りてきてくれ。廊下から聞いてるだけでもいいから」
俺たちは一旦荷物を廊下に置かせてもらうと、茉百合さんに案内されてリビングに通され、四人掛けのダイニングテーブルに座るよう促された。俺と葵ちゃんが隣り合って着席すると、茉百合さんはキッチンから麦茶の入ったグラスを持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
俺はそれを一口飲んでから、対面に座った茉百合さんに事情を話していった。ちらりと横目に確認すると、リビングと廊下を隔てるドアが少し開いている。その隙間から綺麗な青い瞳が覗き見えるので、古都音も聞き耳を立てているはずだ。
葵ちゃんの様子が心配だったので、話はなるべく簡潔に纏めて、事実だけを淡々と伝えていった。茉百合さんは青白い顔で絶句していて、葵ちゃんは俯きがちに目を伏せていた。
「――そういうわけですので、情勢を見極めて安全だと思えるまで、ここに泊まらせてもらえませんか? 警察に出頭するときは、茉百合さんや古都音に迷惑は掛けないようにしますので」
「話は分かったわぁ。そんなことがあったなんて……あっくんの心配は理解できるし、しばらくはうちでゆっくりしてちょうだい」
もしこれが晴佳さんだったら、すぐ警察署に行くべきだと言われたかもしれない。しかし、茉百合さんは俺のことをある程度は理解してくれているし、おそらく古都音から現状の危険性を説かれていることもあって、あっさり頷いてくれた。
この人が母親だったらなとつくづく思うわ……。
「ありがとうございます」
「それにしても、二人とも大変だったわねぇ」
茉百合さんはそう言って立ち上がると、テーブルを回り込んで葵ちゃんの隣に立ち、座る彼女を優しく抱きしめた。葵ちゃんは抵抗せず、むしろ小さく肩を震わせて静かに泣いている。俺の家で散々泣いた後だからか、声を上げるほどではなかったけど、やはりまだ心は悲しみでいっぱいなんだろう。
「あっくんも大丈夫?」
「俺は大丈夫です。それより、しばらく葵ちゃんのことは任せていいですか?」
「ええ、もちろん」
男の俺よりも、同性で母親という立場の相手が側にいる方が、葵ちゃんも気兼ねなく悲嘆に暮れることができるだろう。この家には俺以外に男はいないから、本当に人類バトロワが始まることになった場合、葵ちゃんが縋るのは包容力のある女性ではなく、強くて頼れる男になるのは間違いない。茉百合さん相手になら多少依存されたところで問題はない。
俺は軽く頭を下げてからリビングをあとにした。
廊下に古都音の姿は既になかったので、階段を上がって二階に向かう。すると、訪れようと思っていた部屋の前で、その主がドアに背を預けるようにして立っていた。
「……あっくん」
向けられる眼差しは気遣わしげで、珍しくシリアスな雰囲気を漂わせている。こうして改めて向き合ってみると、古都音は外見だけなら俺が知る限り最も美しい人間だと再認識させられてしまう。
透き通るような白い肌、色素の薄い金髪、宝石めいた青い瞳。いずれも日本人らしからぬ色合いなのに、目鼻立ちはどう見ても日本人然としている。茉百合さんに似て穏やかそうな、ともすれば気弱そうな顔付きは良く整い、背丈は百四十センチ台の小柄さなので、金髪碧眼と合わさると人形めいた愛らしさがある。それは小学校高学年ほどの女児に見える童顔と凹凸のほとんどない幼児体型であることもさることながら、腰元まで伸びた長い髪から受ける印象が特に大きい。光の加減で銀髪にも見えるプラチナブロンドなので、その幻想的な美しさが非人間的な有り様を強めている。子供の頃はそれこそ妖精みたいな奴だった。
同じ人間として純粋に美しいとは思う。けど、生憎と俺はロリコンじゃないし、二十歳の成人女性として見ると性的魅力はあまり感じない。
「話は聞いてたよな?」
「うん……あっくん、人を殺しちゃったんだね……」
古都音は心配そうに呟き、俺の顔色を窺うように見上げてきた。
「仕方なかった。葵ちゃんを助けるためだったし、向こうから襲ってきたからな」
「……なんか、こう、トラウマ的な思いが蘇ったりしなかった? 辛いなら我慢せず泣いた方がいいよ? ことねーちゃんの胸で良ければ貸すよ?」
そっと両腕を広げて待ち受ける構えを見せる姿からは、茉百合さんに通ずる包容力らしき何かを感じないこともない。まあ、母親に似ず胸元は平らで身長も平均未満で母性は全然ないんだけど、優しさは十分伝わってくる。
「いや、特に辛くはないな。そもそもトラウマとかもないし、べつに普通だ」
「そっか……それは何よりだよ」
「お前にそうやって心配されると、なんかくすぐったいな」
見るからに胸を撫で下ろす古都音の様子が珍しくて、思わず笑みが零れてしまった。
「心配するに決まっとるやろがい!」
「――うお!?」
突然、腹に拳を叩き込まれた。非力すぎるパンチは痛みを感じるほどもなく、単に驚いた程度にしかならなかったけど、潤んだ瞳を見せられては冗談でも文句など言えなかった。
「死んでたかもしれないんだぞ!? 身体は怪我してなくても心が病んじゃったら大変なんだぞ! オメーはもっと自分を大事にしろ! ぼく以外の乙女を助けるために危ないことなんてすな!」
「お前を助けるためなら危ないことしろってか?」
「当たり前だ! ぼくだってあっくんのためなら捨て身でやってやんよ! それが友達ってもんやろ!?」
「そうだな……悪い、ありがとよ」
片手で華奢な肩に触れて告げると、古都音は俺の胸元に額を押し当ててきた。こうしていると、細っこい身体付きをしているのがよく分かる。少し力加減を誤れば簡単に壊れてしまいそうな、ある種の儚さを思わせる華奢さだ。しかし同時に、確かな温もりも感じられて、その存在感に安心できた。
「……まあ、とにかく無事で良かったよ」
古都音も片手でだけ俺の服を掴むと、胸元に額を押し付けてきたまま、そう呟いた。