表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

強烈なほど夏

 前髪が鬱陶しい。早く切らねば。鬱陶しいというのも、扇風機の風で横にゆらゆら揺れて、額に触るのである。痒くて、視界が塞がれて、余計に鬱陶しい。

 雨が降った。なので心なしか少し涼しい。クーラーを切って、窓を開けた。網戸は昨日張り替えたので、虫は入ってこないだろう。念を入れて、蚊取り線香に火をつけた。この匂いはけっこう好きだ。ばあちゃんちの懐かしい匂いだから。

 雨がやがて止んだ。同時に虫の音が聞こえ始めた。蝉はまだ早いらしい。代わりに鈴虫みたいな、心地いい高い音色の羽音を奏でているものがいる。この分厚い雲が風に流れて、大きな光が顔を覗かせると瞬く間に、強烈な鳴き声が聞こえてくるのだろう。日に日に体感時間が早くなっている、というのはよく言ったもので、蚊取り線香ももう、二週目に突入している。やがて服の下にじんわりと汗がにじみ始めた。アイスはまだあっただろうか。小さい頃はこんな時にはグラス一杯に氷をつぎ、口に入れたりかじったりしていた。塩を掛けたりもした。結果、味を占め過ぎて腹を下したのは言うまでもない。

 

 二年が経った。二年目の夏、やがて七月を迎えようとしている。浮足立った。今何もしていない自分に。夏は日に日に強烈さを増している。けれど僕は落ち着いて、本を読もうと思っている。それだけではない。絵に傾倒してみたいと思っている。遠出をしてみたいとも思っている。一つ一つ落ち着いてゆっくりとやってみたいと思う。けれど、時間は早い。いつの間にか陽が暮れていた、というのが最近ざらになってきた。だからこそ、焦燥が心に引っかかってしまっているのだ。

静けさに包まれた、座敷牢のような空間だ。けれど、それが心地よい。初めの夏に覆われて、そこから逃げることが出来ない。そしてとうとう、がっちりと夏に捕まってしまうのだ。そうなるともう逃げられない。南風が奏でる、田舎の小さな風車の音が愛らしくて、僕はもう早速、強烈なほど夏に魅入られてしまっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
素敵な感性で印象に残りました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ