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家族に裏切られて奈落へ落とされましたが私は意外と幸せなのですけれどあなた達はそうでもなさそうですね?

作者: リーシャ

奈落への転落。


あえて言葉にしたならば。


「姉様、ごめんなさい。でも、どうしても殿下のお気持ちが欲しかったの!」


王都の華やかな夜会。


侯爵令嬢であるエレノア・ヴァイスベルクは、信じられない光景を目の当たりにしていた。


眩いばかりの宝石を身につけ、涙ながらに訴える妹のセレスティア。


その腕の中には、明日にも婚約の儀を執り行うはずの。


隣国の第一王子アルフレッドの姿があった。


「セレス……ティア……?それに、アルフレッド殿下……一体、これはどういうことですか?」


エレノアの声は、張り詰めた糸のように震えていた。


優雅なドレスが、今の彼女の心境とは裏腹に、ただただ場違いに思える。


「エレノア。すまない」


アルフレッドの口から出たのは、薄情な謝罪の言葉だった。


すまないよりも、説明がほしい。


「セレスティアを愛してしまったのだ。君との婚約は、元々政略的なものだっただろう?」


政略結婚、だと?


確かに、家柄のため、国のための婚約。


エレノアはアルフレッドの誠実そうな瞳に惹かれ、心を通わせてきたつもり、だった。


それが、妹の策略によって全てを奪われたというのか。


「ふざけないで!」


エレノアの口から、思わず汚い言葉が飛び出した。


普段は慎み深く、淑女としての教育を完璧に受けてきた彼女らしからぬ言葉に。


周囲は息を呑む。


「あなたのような薄情な男に、私の何が分かると言うの!セレスティア、あなたもそう!姉のものを奪って、一体何が楽しいの!」


前世の記憶が蘇ったのは、数日前のことだった。


エレノアは、自分が現代地球で高度な魔法研究に没頭していた、魔術師だということを思い出したばかり。


水島エレナ、だったことを思い出したのだ。


幼い頃から感じていた魔法の力は、前世の記憶と結びつき、確信へと変わった。


まさか、こんな時にその知識が役に立つとは。


「エレノア、慎みなさい!」


父である侯爵の怒号が響く。


しかし、エレノアの耳には届かない。


(慎む?)


「うふふ。役立たずの姉など、もう必要ありませんわ?」


セレスティアの勝ち誇ったような言葉が、エレノアの胸に突き刺さる。


よくも。


その日のうちに、エレノアはヴァイスベルク家から追放された。


僅かな荷物と、冷たい視線に見送られながら、彼女は王都を後にした。


恨みを唱える。


「覚えていて、アルフレッド。セレスティア。私を見捨てた家族たち。必ず、あんたたちを後悔させてやる!」


エレノアの心には、滾るような怒りと、決して消えることのない復讐の炎が燃え上がっていた。


培った魔法の知識と、この世界で目覚めた新たな力。


それらを全て使い、這い上がってみせる。


奪われたものを取り返し、裏切った者たちに、地獄を見せてくれると誓う。


吹き付ける夜風が、エレノアの決意を殊更強くした。


長い黒髪が、まるで炎のように揺れている。


──辺境の地。


追放されたエレノアが辿り着いたのは、王都から遥か遠く離れた、寂れた辺境の村だった。


野宿を繰り返し、飢えと疲労で意識が朦朧とする中、彼女は倒れ込む。


意識を取り戻した時、エレノアは見慣れない天井を見つめていた。


質素だが清潔な部屋。


そこには、心配そうな表情を浮かべた、屈強な男が座っていた。


「気が付かれましたか、お嬢さん」


低い、温かい声。


男は、黒い革の鎧を身につけ、顔には幾つかの傷跡が刻まれている。


精悍な顔つきで、只者ではない雰囲気を醸し出していた。


「ここは……?」


掠れた声で問いかけるエレノアに、男は穏やかに答えた。


「ここは、辺境の小さな村です。街道で倒れているあなたを、村の者が運びました」


「そうですか」


男の名前は、ガイウス。


「助かってよかった」


辺境の地を守る騎士団の、団長を務めているという。


エレノアは、身の上を話した。


一応。


妹に婚約者を奪われ、家を追われたこと。


前世の記憶については、まだ誰にも話すつもりはなかった。


ガイウスは、エレノアの話を静かに聞いていた。


「辛い思いをされましたな。もしよろしければ、しばらくこの村で身を休めてはいかがでしょう。危険な魔物も出ますので、一人で旅をするのは無謀かと」


エレノアは、ガイウスの申し出に甘えることにした。


彼の外見も含め、好ましい。


行く当てもなく、疲弊していた彼女にとって、彼の優しさは支えだった。


村での生活は、決して楽ではなかったけれど。


しかし、エレノアは体力を回復させながら、前世の記憶の中で眠っていた魔法の知識を起こす。


この世界の魔法体系は、前世のものとは異なる点もあったが、根本的な原理は同じだった。


彼女は、独学で魔法の勉強を始める。


そんなある日。


村を魔物の群れが襲撃した。


村人たちは恐怖に陥り、為す術もない。


ガイウス率いる騎士団も、その数に押されていた。


「くそっ、このままでは村が全滅する!」


焦燥の色を浮かべるガイウスを見て、エレノアは決意した。


今こそ、自分の力を使う時。


「ガイウスさん!私に少し時間をください!やります!」


エレノアは、前に進み出ると、両手を広げ、魔力を高めた。


前世で、得意としていた水属性の魔法。


魔力と、自身の精神力を融合させ、オリジナルの魔法を発動させる。


「ウォーターバリアッ」


彼女の詠唱に、巨大な水の壁が出現し、魔物の群れの突撃を防いだ。


村人たちは、その光景に息を呑む。


ガイウスも、驚愕の表情でエレノアを見つめていた。


「あなた……一体……?」


「私は、エレノア・ヴァイスベルク。ふぅ……少しばかり、魔法が使えます」


その日から、エレノアは村人たちの希望となった。


彼女の魔法の力は、魔物たちを見事に退け、村を守ったのだ。


ガイウスも、エレノアの力と、困難に立ち向かう強い意志に惹かれていった。


誇らしい。


二人は、共に魔物と戦い、村を守る中で、心を通わせていった。


ガイウスの優しさは、エレノアの凍り付いた心を溶かし、彼女の中に恋心を芽生えさせる。


それは、アルフレッドには決して感じなかった、想いだった。




辺境の村での平和な日々は、無粋な使者の訪問によって終わりを告げた。


王都から来たというその男は、傲慢な態度でエレノアに告げる。


「侯爵様がお呼びだ。セレスティア様が懐妊された。王家との関係を円滑にするため、あなたにもう一度、役立ってもらいたいそうだ」


エレノアは軽薄な笑みを浮かべた。


「役立つ、ですか?私を追い出した挙句、今更都合の良いことを。一体、何を企んでいるのですか?」


使者は、鼻で笑った。


「あなたのような、追放された身に拒否権などない。おとなしく従うがいい」


その言葉に、エレノアはかつての、奥底に眠っていた怒りが再燃。


妹の懐妊を利用し、自分を再度利用しようというのか。


絶対に許さない。


「お帰りください。私は、あなたたちの都合の良い道具ではありません」


エレノアの態度に、使者は顔を赤くさせた。


「あなたは!侯爵様の命令に背くというのか!」


「命令?私を家族と認めなかった者に、従う理由はありません」


エレノアは、毅然と言い放った。


そのソバには、心配そうに見守るガイウスの姿が。


使者は、捨て台詞を残して都会へと帰っていった。


「後悔するぞ!」


使者が去った後、ガイウスはエレノアに向き合った。


「エレノア、どうするおつもりですか?王都に戻れば、また辛い思いをするかもしれません」


エレノアは、無表情で答えた。


「戻ります。今度は、私から彼らに報復するのです」


ガイウスは、エレノアの決意に心を打たれたらしい。


彼は、彼女の役に立つことを決めた。


やめてほしいが。


「私も、あなたと共に戦います」


エレノアは微笑んだ。


「ありがとう、ガイウスさん。あなたの存在は励みになります」


二人は、王都への帰還を決意。


エレノアは、この辺境の地で密かに研究してきた魔法と、前世の知識を元に、復讐の準備をした。


ガイウスは、騎士団の仲間たちに協力を仰ぎ、万全の体制を整える。


エレノアの瞳には、以前ような悲しみはなかった。


宿るのは邪魔者を打ち倒すという強い意志だけ。


彼女は、ただの追放された令嬢ではない。


前世の記憶を持つ現代の魔法使いなのだから。


思い人なったガイウスがいるから、頑張れそうだ。




──王都




王都に戻ったエレノアとガイウスを待ち受けていたのは、以前と変わらぬ、いや、それ以上の傲慢な態度の面々だった。


侯爵家は、エレノアが大人しく言いなりになると思っているようだ。


バカである。


しかし、エレノアは以前ようなか弱い令嬢ではなかった。


彼女は、堂々とした態度で侯爵家の門をくぐり、父と妹、そしてアルフレッドの前に立つ。


「よく戻ってきたな、エレノア。セレスティアの出産も近い。おとなしく侍女になれ」


父の言葉に、エレノアは笑みを浮かべた。


「奴隷ですか?私が追放された時、あなたたちは一体何をしていたのですか?」


セレスティアは、偉そうな様子でソファーに座り、エレノアを見下ろした。


「あら、姉様。やつれてるわね。辺境の生活は辛かったかしら?」


アルフレッドは、以前と変わらぬ瞳でエレノアを見つめた。


「エレノア、過去のことはもういいだろう。今は、国のための協力が必要なのだ」


エレノアには以前のような悲しみはなかった。


ただ、怒りが静かに燃え上がっている。


「あなたたちに協力するつもりはありません。私がここに来たのは、あなたたちに以前の行いを後悔させるためです」


その言葉に、侯爵夫妻は顔を歪めた。


「何を言うか!」


エレノアは、はっきりした声で言った。


「まずは、セレスティア。貴女がアルフレッド殿下との婚約を奪ったこと。そして、私を陥れたこと。その罪を償ってもらいましょうか」


セレスティアは、事態に焦り始めた。


何も知らないからと、許されない。


「何を言っているの?私はただ、アルフレッド殿下を愛していただけよ!」


「愛?姉の婚約者を奪うことが、愛だと?笑わせますね」


エレノアはでセレスティアに近づき、見つめた。


「昔の私なら、奪われたものを取り返すような真似はしなかったでしょう。今の私は違う。貴女が私から奪ったものを、全て取り返す」


その時、アルフレッドが立ち上がった。


「エレノア、落ち着け!セレスティアは今、大事な時期なのだ!」


「だから何です?私が追放された時、私の気持ちなど、少しも考えなかったでしょう?私の時だって大事な時期だったことをすっかり忘れてますね。ふふ」


エレノアは、アルフレッドを一瞥すると、背後に控えていたガイウスに目をやる。


ガイウスは、うなずいた。


次の瞬間、エレノアは魔力を高レベルの魔法を発動させた。


「ウォーターボルテックス!」


巨大な水の竜巻が発生し、侯爵夫妻やセレスティア、そしてアルフレッドを飲み込んだ。


護衛らは吹き飛び壁も壊れる。


「きゃあああ!」


悲鳴が響き渡る中、エレノアは冷酷な瞳でその光景を見つめていた。


前世の知識と、この世界で会得した魔法の力は、以前の彼女とは比べられないほど強くなっている。


こんなことくらい、朝飯前。


魔法が収まった後、残っていたのは、埃にまみれ髪を乱した侯爵夫妻とセレスティア。


よれよれなアルフレッドの姿だ。


以前の威勢は見る影もない。


「どうですか、アルフレッド殿下。これが、誇りを奪われた者の気持ちです」


エレノアの声は、氷のようだった。


侯爵は、声を絞り出した。


「お前……一体、何をした……!」


「当然の報いです。あなたたちが私にしたことと比べれば、この程度など、ほんのお遊びなお仕置きに過ぎません」


エレノアは、最後にセレスティアを一瞥した。


「貴女のせいで、私は全てを失った。貴女が失うのは、もっと大きいでしょうね」


そう言い残し、エレノアはガイウスと共に、侯爵家を後にした。


向けられたのは、憎悪と恐怖に満ちた視線。


王都での騒動は、瞬く間に広まった。


ヴァイスベルク侯爵家は、魔法使いであるエレノアによって一網打尽されたという噂は。


人々の間で様々な憶測を呼んだ。


エレノアは、ガイウスと共に、新たな道を歩み始めた。


以前のような怒りや嫌悪は、彼女の表情に、もうなかった。


笑顔で見守ってくれるガイウスがいる。


彼の存在が、エレノアの笑顔をもたらしてくれた。


数ヶ月後、エレノアの元に、王都からの知らせが届く。


セレスティアは、流産したという。


アルフレッドは、その責任を妻に押し付け、二人の関係は最悪の状態になっているらしい。


はぁ、と息を吐く。


侯爵家も、エレノアの魔法によって損害を受け、以前の勢いを失っていた。


エレノアは、その知らせを聞いても、悲しみの感情は抱かない。


彼女の様子は完全に、彼らから離れていた。


ガイウスは、エレノアの横に寄り添い、優しく手を握る。


「もう、辛い過去を振り返る必要はありません」


エレノアは、ガイウスを見つめ返した。


「ええ。私には、あなたと、この新しい命がありますから」


二人は、互いに微笑み合い、希望を新たにした。


エレノアの復讐劇は、これで終わりを告げた。


大切にするという気持ちを、教えてくれた人と共に行きていく。


お腹に耳をつける男を見下ろして、心はポカポカとなった。

⭐︎の評価をしていただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
結構、面白かったです。 あえて言うと、文章が少し荒いと思います。 ざまぁの場面をもっと丁寧に書いて欲しかったです。
2025/07/28 17:05 コペルニクスの使徒
長文を題名にするのなら、せめて読みやすいように句読点を付けたほうが良いかと。 詰めすぎて内容まで読みづらい印象になると思います。
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