第96話 運命が動き出す
固まっていた脳が辛うじて動いてきた。
あの姿は自分が見た時よりもだいぶ成長している。
しかし、この国で知らない者はいない程の有名人。
アリーネス公爵家嫡男…ヘルト・アリーネス。
そして、序列第3位である金色の魔王。
全ての魔法を修めていて、オリジナルの魔法まで遍く修めている化け物。
さらにそれを無制限に行使可能となると、まさに異星人である。
そんな人物が目の前にいる。
もう1人のセブンキングスには奴隷のように使われて、一生働かされていた。
さらに少しでも隙を見せると、後ろから信じられないレベルの魔力の束が放たれる。
その緊張感と痛みに耐えながら意味の分からない作業を続けさせられた。
それで本当に精一杯だった。
なのに、これで脳のキャパが完全にオーバーした。
「もう一度質問するよ。お前はトビアスか?それともただのモグラか?」
語気を強めて確認するヘルト。
これにはすぐ答えないといけない、と本能が告げる。
「…は、はい。一応トビアスです…」
その声は掻き消えそうなぐらい小さかったが、ヘルトの耳には届いた。
これでやっと確認をすることが出来た。
そろそろ本題に進もうとしようか。
こんな所でだらだらしている時間はないからね。
「じゃあこれからカイザル・コーボ炙り出し作戦を開始する!」
ヘルトは"決まった"といった雰囲気を出していた。
しかし、作戦名があまりにも安直すぎて格好がついていない。
そんなお師匠様を冷たい目で見る。
あいも変わらず少しズレているお師匠様。
そこまで長い期間離れていた訳ではないが、このやり取りが懐かしく感じる。
いつもこうだった。そういつも……。
スマホから通知音が鳴った。
気になって確認してみると、どうやらヘルトからのメッセージが来たようだ。
"後のことは執事のバーナードに任せておけ"と、だけ書かれている。
"後のこと"とは、ナタリーのことだと受け取ろう。
もう、私やナタリーを置いて勝手にどこか行くなんて。
それがヘルトらしいといえばらしいのだが。
バーナードさんは私たちが泊まる部屋を教えてもらって以来会っていない。
どうしたものかと悩んで部屋の中を歩き回ってみる。
すると、あることに気が付いた。
それは机の上にぽつんとベルが置いてあった。
これはもしかして押したら執事の方やメイドさんが来てくれるやつでは?
これにはちょっと胸が躍る。
まさかこんな貴重な体験が出来るとは。
まだこれが呼び出しベルと確定した訳じゃないが、してみる価値は非常にある。
試しにベルを押してみる。
すると、ベルの澄んだ音が響いた。
その瞬間、なんとドアがノックされた。
これは予想通り魔法のベルだったみたいだ。
多分何かと連動しているのだろう。
「すみません、今出ます!」
ドアを開けるとバーナードさんが立っていた。
失礼だが、この歳でこんな速度でここまで来れるのは凄いと思ってしまう。
「ご要件はいかが致しましたか?」
物腰柔らかに聞いてくれるバーナードさん。
「実はヘルトから後のことはバーナードさんに任せておけと言われて…」
言葉足らずだと自分でも思うが、これしか言葉が出てこなかった。
「そのことであれば問題ありません。事前にヘルト様からお聞きしておりますので、私めについて来てください」
なんとも頼りになる返答だ。
これでやっとナタリーと会える。
バーナードさんについていってると、エレベーターに乗ることになった。
それから部屋のある場所より下へと降った。
どうやらお城の中央辺りに病室があるみたい。
「こちらの部屋でナタリー様が眠っておられます。面会という形にしておりますので、ご自由にお過ごし下さい」
「はい、分かりました」
バーナードさんは気をつかってくれたのか、案内の後すぐに帰っていった。
一人になったので大きく深呼吸をする。
そして扉に手をかけて、思いっ切り引く。
すると、キレイな景色が飛び込んできた。
白い壁に囲まれた病室は、音が少なく、時間の流れさえ薄く感じられる空間だった。
その奥にベッドが見える。そこにナタリーがいるはずだ。
「久し振り、ナタリー。私はあなたのように立派になれたかな?」
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