第94話 お師匠様
城に残ってもらった面々には、後のことは執事のバーナードに任せておけとメッセージを送っておいた。
これでナタリーの件は問題ないだろう。
そもそも家に丸投げしているからね。
バーナードの管轄だ。
ルナはまだ両親と話しているかもしれない。
なぜだかそんな気がする。
そんな事は置いておいて、目の前に集中しよう。
ここは地下深くに存在する都市。
その名もサンディーゴ。
ここは国からも見放されるほどの荒れ地だ。
なぜなら地殻変動によって、マグマの一部が地面から飛び出すようになったのだ。
元から気温が高く住みにくなかった都市であったのに、マグマまであるとなると普通の人は住めない。
その結果として犯罪者や浮浪者の巣窟となっている。
その場所に用事があった。
時間を確認するためにスマホを見る。
もうそろそろかな?
少しだけ待っていると、遠くから足音がした。
今日も勘が冴えているようで安心する。
その足音の人物には、この場所に関しての頼み事をしている。
それが終わったとの報告を受けたので、この場にやって来た。
「私を雑に扱いすぎです、お師匠様。こんな調子だと愛弟子に見限られますよ。まぁ、私はそんなこと天地がひっくり返ってもしませんけど」
ふてくされた顔で言ってきた。
彼女はいつもこんな感じなので気にしない。
これが氷上詩乃という人間を構成している大部分だ。
「学園も休んで貰っちゃってごめんね」
「それは別にいいです。私はあそこでしたいことなどないので。私が不満なのは、こんなしみったれた場所に一人っきりにしたからです!お師匠様がいるならともかく、ここにおるのはマグマと犯罪者だけなんですよ」
思ったより不満が溜まっていたみたいだ。
しかし、この件を任せられるのは彼女しかいなかった。
こんな短期間でこの広い地を治められるのわね。
「それで制圧状況はどれぐらい?」
「制圧状況ですか?それは98%ぐらいですかね。お師匠様に言われた通り、ここの頭は抑えました」
さすがこの数年でセブンキングスまで上り詰めた弟子だ。
これでエリオット様の悩みの種は一つ減ったと思う。
しかも、ここを有効活用する手立てもある。
そのためにはここの偉い人と会っておかないと。
「その頭は連れてきてる?」
「連れてきてませんけど。けど、転移で行けますよ」
これは好都合。
だいぶ久し振りに大立ち回りが出来そうだ。
今、自分は悪い顔をしているだろう。
こういう事を画策している時が一番楽しいと思ってしまう。
まぁ、若気の至りってことで。
「じゃあ詩乃、転移お願いね」
「はいはい。分かりました」
詩乃は左手を宙にかざす。
それだけで転移には十分だ。
転移で着いた先は、ビルの中だった。
辺りはあまり荒れておらず、人の手が入っていることは明らかだ。
「こっちです」
詩乃がこのビルの奥に進んでいく。
こんな場所にサンディーゴを支配するものがいるんだろうか?
それとも空間を拡張しているのか。
「この中にいるはず」
立ち止まった場所は、最奥の少しだけ飾りのある扉の前だった。
これから話し合いをするのだから、キレイな部屋だったら良いな。
そんなつまらない事を考えていると、詩乃が声を張り上げた。
「おじさん入りますよ!」
扉が勢いよく開けられた。
それに伴って部屋に入ると、パッと見は誰もいなかった。
しかし、机の後ろにある椅子が不自然に動いている。
「もう、隠れるなら真面目に隠れてください。無意味な茶番につき合わされるこちらの身にもなってくださいよ」
「…ひっ…!」
椅子の後ろから気弱そうな男の声が聞こえた。
もしかしてこの男なのだろうか。
その男は及び腰で姿を表した。
背中が丸まっていて、目がものすごく泳いでいる。
服もヨレヨレで非常に不安になる。
しかし、そんな外面はただの仮面なのかもしれない。
どこかに鋭さも併せ持っている気もする。
「君がこのマグマの都市を力で抑えて、頭になったというトビアスかい?」
最初は詩乃の方を怯えながら見ていたが、俺が質問をすると視線がこちらに向いた。
何か面白い反応をしてくれると期待していた。
しかし、結果は残念でこちらを見て固まっているだけだ。
「お師匠様が聞いてんだから答えたら」
詩乃が脅すように強く言うと、打ち上げられた魚のように勢いよく跳ねた。




