第89話 夏休みは目と鼻の先
「みなさん席に着いてくださいね」
静香先生がクラスの面々に声をかける。
チャイムは既に鳴っていて、ショートホームルームは始まっていた。
慌てて自分の席に戻る生徒たち。
そんな生徒達を眺めながら、空席となってしまった席に視線だけを移す。
その席の持ち主は陽気でお調子者だった。
反応も良く返してくれて、教師としては非常にありがたい存在だった。
しかし、そんな存在がいなくなってもこのクラスは変わらない。
なぜなら、クラスメイトがいなくなるなど、この学園ではそう珍しいことではないからだ。
なぜ退学したかの理由は伏せられている為、もう気にしてる生徒は少ない。
このような出来事を乗り越えないといけないのも、教師の辛いとこでもある。
まぁ、新しい転校生が来る予定らしいから、学園側からするとちょうど良かったかもしれないけどね…。
「はい、じゃあショートホームルームを始めます」
私は無理やり気持ちを切り替える。
これから授業などがあるのだ。
このまま引きずってはいられない。
私は頬を叩いて自分を鼓舞した。
「期末テストが終わったので、もうすぐ夏休みとなりますね」
この先生の一言でクラスは沸き立った。
テストのせいで張り詰めていた空気が破られた。
長期休暇が来るとなるとテンションが上がるのもやむを得ない。
「帰省したりする子もいるかもしれないけど、きちんと許可をもらってくださいね。事務局の方に申請書を出すだけで良いですから」
夏休みになると生徒達の帰省ラッシュが始まる。
この学園の生徒は皆寮に住んでいる。
別に規則でも何でも無いのだが、ここは島故に遠くから通うのは難しい。
そこで長期休暇になると帰省する生徒が大量に出てくる。
体感だと9割ぐらいだろうか。
「ヘルトは帰省したりするの?」
思わず聞いてしまった。
ヘルトが部屋からいなくなってしまうと、私の仕事もなくなってしまう。
本来なら嬉しいはずだが、全然嬉しくない。
「多分するかな。家に帰らないと、父と母が悲しんでしまうからね。奏は学園があまり好きではないから、一緒に帰ることになるかな」
「そ、そうなのね…私はこのまま寮に残るわ。だって、もっと強くなって帰りたいもの」
メアは寮に残るのか。
なら夏休みの間は暇ってことかな?
「じゃあメアも一緒に来る?ナタリーの顔も見たいでしょ。家の妹はどうにか納得させるけど、どう?」
ナタリーはヘルトの家で治療されている。
帰省するともなれば、絶好の機会だろう。
なんだか彼女と会いたくなってきてしまった。
「私も同行させて。ナタリーに会いたいのもそうだけど、何よりヘルトのお世話係は私よ!だから、着いていくことにしたわ」
「そ、そうか。分かった」
なんでメアはこんなにもお世話係へのプライドを持っているんだ?
一切分からない。
それよりも奏の方をどうにかしないといけない。
万が一に暴れられた時のために、対抗策も練っておかないと。
「あと数日で夏休みですから、それまでは学業に励んでくださいね」
そう言って先生がショートホームルームを終わらせて、教室から出た。
クラスの面々は夏休みに何するか?という、議題で盛り上がっていた。
その興奮が冷めやまない雰囲気の中、何となく気になってスマホを見た。
すると、ルナからメッセージが届いていた。
前は教室に突撃してきていたので、ちゃんと俺が言った事を聞いてくれるようになったようだ。
内容は学園の庭で一緒にお昼ごはんを食べませんか?
というものだった。
断ると今度は教室に突っ込んでくる可能性があるので、庭へと出向くことにした。
すると、学園の庭の一角にあるベンチにルナがいた。
膝の上にお弁当を乗せている。
「良いロケーションの場所を見つけたね」
本当にキレイな場所だ。
自然の色が素晴らしい調和を見せている。
学園の庭にこんなコントラスト映えする所があるとは。
「この景色をヘルト様と見たかったんです。それよりも、ヘルト様はご実家の方に帰省されるんですね」
もし「面白い!」「続きが気になる!」「応援してやっても良いんだからね♡」という方は、是非とも評価、ブックマークをお願いします!




