第83話 未来へ向け
最初は押される一方だった力関係が、徐々にこちらに傾いてきた。
ごく僅かだが、確かに動いたように感じる。
心が歓喜で打ち震える。
同胞やメアちゃんぐらいの実力者には膠着状態に見えるだろうが、少しだけ押し返している。
これは奇跡だ!
いつもヘルトが近くで輝いている姿を見てきた。
それは目が焼かれそうなほどだった。
届かないと分かっていながら、憧れも持っていた。
それが今日、とうとう報われたような気がする。
このまま勢いに乗れば押し返せ……。
「ヘルト、そんな奴相手に少し遊びすぎよ。そろそろそいつらを回収したいから、私が手を出させてもらうわ」
遠くから声が反響を繰り返しながら耳に届く。
女性の声というのは分かるが、それ以外の情報が全くない。
こんなのに意識を取られている場合では無いのだが、全細胞が警告を鳴らしている。
明らかな非常事態だ。
"バリン"
空間の断たれた音がした。
その瞬間、魔力のぶつかり合いは終わりを迎えた。
それぞれの魔力が別方向にズレ、壁に衝突した。
その瞬間に壁の悲鳴のような爆音が轟く。
あまりの音に耳を塞ぎたくなるが、今はこの異能を行使した化け物にも注意したいといけない。
などと思っていると、自身の周りで異能の行使を感じた。
一旦逃げようと思って体を動かすが、空間が断たれていて何も出来ない…。
「逃げようとしても無駄。お前じゃ突破も転移も無意味よ」
この最深部に新たな王がやって来た。
それは序列第2位断絶の女王である、ダリア・ブライスであった。
断絶の女王の異能は渡だけでなく、他のメンバーの周りにも発動されていた。
これだけで完璧に制圧されてしまった。
こうなると、こちらに打つ手はない。
「チッ…、これで詰みって訳かよ」
「黙りなさい。まさか金魚のフンがテロ組織の頭とわね…。ヘルトは抜けた所があるから、私が見ておかないとね」
「………」
金魚のフンと言われ、反論しようと口を開いたが声が出ない。
首に手を当ててみると、断絶の異能の発動痕があった。
声帯を断たれているようだ。
これでは同胞との意思疎通も困難になってしまった。
「そんなに時間が経っていたかな?ダリアがせっかちなだけじゃない?」
「私がせっかちなんじゃなくて、ヘルトがルーズなのよ。さっきも一瞬で転移を止められたはずなのに、わざと手を抜いてたでしょ」
「それはそうでしょ。あんなに生き生きした渡、初めて見たんだよ。そりゃ期待したくなるよ。もしかしたら、いきなり覚醒して俺を吹き飛ばすかもしれないじゃん」
あまりの情報に頭を抱えたくなる。
まず、ヘルトは手を抜いてくれていたようだ。
これはシンプルに苛つく。
あの時の感動を返せ!と言いたくなる。
しかし、それよりもヘルトがアホみたいな期待をしてくれていたことに驚いた。
てっきり自分は断絶が言ったように、フン程度のゴミだと思われていると思っていた。
これには涙腺が緩みそうになる…。
「まぁ、現実はそう甘く無かったみたいだけどね。前例を何件か知っていたから期待したんだけど、渡じゃ無理だったようだけど」
はぁ〜…、ヘルトに上げて落とされた気分だ。
やっぱり一発ぐらいは殴りたくなってきた。
ここでダリアは思い出したかのように口を開いた。
「ダンジョンの外で警官の奴らが待っているから、その場所に送っておいてくれない?私はここでは
転移魔法を使えないの」
「ダリアは魔法があんまり得意ではないから仕方無いね。まあせっかくだし、アジトに居るお仲間も一緒に警官に差し出してあげるよ。その方が渡も嬉しいだろ」
こちらを見たヘルトは口角が上がっていて、実に楽しそうだ。
どうやってアジトの場所が分かったのか疑問だが、おそらく転移魔法を逆探知したのだろう。
こんなことが可能なのか分からないが、ヘルトなら出来てもおかしくない。
"パチン"
ヘルトが指を鳴らしたと同時に、 目の前の景色が変わった。
これは慣れたものだが、自分とは全く違う感覚が襲う。
外では大量の警官が待機しており、この場所の人口密度はグロいことになっていた。
「(これからは退屈な牢獄生活か………)」
自分の中で区切りはついているものの、やはりまだ自由に暴れたい気持ちがある。
これから自分が望むのは、刺激的な体験をしたい。
それだけだ。
これだけで役目を終えるほど、渡は安いキャラではありません。
今後、彼の周りで何かが起こると思います。
それが彼の人生の新たなスタートとなることを心から祈っています。
もし「面白い!」「続きが気になる!」「応援してやっても良いんだからね♡」という方は、是非とも評価、ブックマークをお願いします!




