第82話 ボスのエゴ
「佐藤渡…いったい誰のことを言っているんだ?私の名はドミナスだ」
薄々…いや、ほとんどこちらの素性が割れていると思っていたが、やはりバレていたようだ。
無駄だと分かっていても、一縷の望みに賭けて白を切る。
「今までよく隠していたと思うけど、細かい箇所が杜撰だったな。例えば魔力量だ。お前の魔力量で考えると、異能がサポート特化にしては弱すぎな所だったりな。高位の魔法をある程度使えてもおかしくないのにな。最初は違和感程度だったが、直近で動きすぎたな」
「そうか、そうか…」
いつかはバレると思っていたが、いやはやこんなに早いとは。
やっぱいコイツには敵わないんだな。
最後の手段として自爆特攻があるが、相打ちを狙おうにも良い作戦が思い浮かばない。
完全に詰みの状態だ。
「そろそろ、その仮面をはずしてみたらどうだ?息苦しいだろ?」
もちろんこの仮面のことも気付れていたようだ。
この仮面は1人で暴れていた頃に、偶然見つけたものだ。
この仮面の効果は凄まじく、相手視線からすると、至って普通のありふれた顔に見せることができるというものだ。
だから、どんな国に行っても、不自然に見られないという利点がある。
これは各国の要職や実力者は騙せたが、ヘルトには無駄だったようだ。
「あぁ、もう降参だ」
そう言ってドミナスは仮面を掴み、取った。
普通の人からすると、本物の顔が取れているように見えるだろう。
「やあヘルト。さっきは随分と派手にやってくれたな〜。まぁ、そんなことはどうでもいい。ここにいない他の幹部はどこへやった?」
ずっと気になっていた事だった。
ここには幹部総勢9人中の4人しかいない。
超越転移で呼び出した時は、切迫した状態だった。
その時は彼、彼女らのことについて話し合っている時間はなかった。
それは他の面々も分かっていたようで、誰も触れなかった。
しかし、負けが確定した今は、それを気にしないといけなくなってきた。
「別に何もしてないさ。ただ、俺の前に立つ資格がなかった、それだけのこと」
淡々と吐き捨てるように言うヘルト。
心の底から思っていることが窺える。
同胞への扱いに不満があるが、敗者には何の権利もない。
ただ受け入れるのみ…
なんて素直な性格だったらどれほど良かったことか。
密かに待機させていた超越転移を発動する。
未だに拘束されているハゲや、倒れているアスパーも範囲に指定する。
これで目の前のコイツらだけでも……。
「それが最後の足掻きかい?なら、存分に付き合ってあげようか」
当然介入してくるヘルトだが、最後に力を振り絞る。
異能でのバフがかかっている分、自分の方が有利なはずだ。
「はぁぁぁ!」
魔力同士が激しく干渉しあう。
空間を転移させようとする力と、それを押さえつける力が
脳が焼けるように痛い。
さらに全身が鉛のように重く、呼吸をするたび胸の奥が悲鳴をあげる。
自身の全力と、大きなアドバンテージがあってもなお、勝てるピジョンが浮かばない。
満身創痍で限界な自分と、余力を十分残しているヘルトとは、とても対照的だ。
「ボス、あなただけなら逃げられるかも知れません!どうか我々など置いてお一人だけでもお逃げください!」
「そうですわ。私たちなど気にしないでくださいまし」
ブルーノの叫びにリリアンも同調する。
しかも、カル坊まで首を大きく縦に振っている。
「(お前ら……)」
同胞たちのおかげで、荒れていた全身がマシになった気がした。
しかし、ボスが部下を置いて逃げるなど、あまりにもダサいだろう。
厚意を無下にするようで悪いが、ここはエゴを押し通させてもらう。
さらに魔力を込める。
自分の魔力だけでは全く足りないから、持ち物の中で魔力が含まれている物を分解し、魔力に変換する。
これで、正真正銘全てを賭していることになる。
「最後にもう一勝負と行こうぜ!」
この時の渡の顔は、彼の人生至上一番輝いていた。
それは黒き福音の面々から見ると、ヘルトの瞳の色と遜色ないほどの輝きであった。
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