第74話 サンドバッグ
私が近づいたら、ボスも合わせて一歩踏み出した。
そして、鋭い爪が生えている前足を振るってくる。
動物ではありえない速度で、前足が迫ってくる。
さすがこの場所のボスの魔物なだけある。
しかし、今まで戦ってきた中にはキリカやイザベルがいる。
そんな人たちと比べると、あまりにも遅すきる。
これなら、逆にこちらから合わせに行く。
前足が振るわれる軌道上から逸れて、異能の炎を纏わせた剣で叩き斬る。
すると、狼のケルベロスは大きい鳴き声をあげて怯む。
こうなれば明確な隙が生まれる。
そして、とりあえず真ん中の頭を狙う。
いろんな技を使ってみたいが、ボスの強さがまだイマイチ分からないので、小手調べとして使い慣れた技を使うことにする。
「【煉獄閃】」
研ぎ澄まされた一閃をくり出す。
ついに音すらも過ぎ去って、狼のケルベロスの頭へと到達した。
ーーすると、頭部から血が吹き出した。
普通は煉獄に焼かれて、血など蒸発して吹き出しはしないのだが、よく分からない状態になっている。
このダンジョンの魔物は特殊なのだろうか?
ボスについて考察していると、狼のケルベロスが後ろに倒れた。
思っていたより呆気なく倒れたことに、驚きが隠せない。
「えっ、弱くない?」
本音がポロッと出てしまったが、正直期待外れだ。
私はまだ戦っていたかったのに…。
落胆していた時に、急にこの場に変化が起きた。
溢れんばかりの月光が一点に収束し、ケルベロスの体をさらに輝かせた。
あまりの眩しさに目を瞑ってしまう。
それから目を開けると、ケルベロスの頭から煙が出ている。
徐々にその煙は収まっていき、姿を現した。
「おっ、これは第2形態というやつかな?それにしては変化が少ないけどね〜」
日向がそんな感想を抱くぐらいには変化が乏しい。
体が少し大きくなって、目の部分が怖くなっているぐらいの変化しかない。
しかし、それぐらいの変化しかなくとも、サンドバッグがまた起き上がってくれたと思うと、かなり嬉しい。
これからは私の舞台だ!
実際に使って感触を確かめたいものが沢山ある。
「(メアちゃん口角上がってるね〜。鬱憤でも溜まってのかな?)」
そう思っていると、メアが軽やかな動きで走り出した。
先程までは剣のみに炎を纏わせていたが、その身体にも炎を纏わせている。
どうやら私が想定していたよりは、異能を自分のものに出来ていたようだ。
メアは華麗に飛んでから、刺すように突貫した。
これには狼頭のケルベロスもちろん反撃を試みた。
全ての頭が口を大きく開け、エネルギーを圧縮した。
それが限界まで溜められると、メアに向けて勢いよく放たれた。
音を置き去りにして放たれたそのビームは、一瞬でメアの元まで到達した。
それにメアは何の反応も示さなかった。
それどころか、自ら突っ込んでいるようにも見える。
「(ガードしないってことは、何か秘策があるってことだよね?まぁ、想像つくけど)」
日向の予想は的中した。
放たれたビームは、メアが纏っていた炎に触れた瞬間、まるで炎に食べられてるかのように消えていった。
一般人には、相当奇妙に映るだろう。
そのままメアは、ボスにむけて温存してきた大技を放つ。
【絶華鳥砲】
自らを包んでいた炎をさらに拡張させて、不死鳥の姿をかたどっている。
その不死鳥の姿で、口とも呼べる場所から大きな火球を生み出した。
その火球は太陽と見紛うほどの、熱量と明るさがある。
その火球から、極太の熱線が放たれた。
すると、ボスの狼頭のケルベロスは、悲鳴一つあげることができず、蒸発していった。
「(ふぅ〜、ちょっとまだ足りない…。でも、これから出てくる敵に期待しようかな)」
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