第69話 番外編 過ぎ去りし日常
寮の朝はまだ薄暗い廊下に響く、目覚ましの音から始まる。
最初の頃は、その雑多な生活音がやけに落ち着かなくて、眠りも浅かった。
けれども、それにも日が経つにつれ、自然と慣れていった。
「おはよう、メアちゃん。今日も日差しが気持ちいいね」
寝ぼけた耳に、優しい声が入ってくる。
その声の持ち主は、入学式でキョロキョロしていた少女である。
「えぇ、おはよう。アリア」
その子の動作はゆったりしていて、周りの空気までふわりと柔らかくしてしまうようだった。
しかし、悪戯が大好きで、小悪魔っぽさももっている不思議な少女だ。
そんな子とは相部屋なので、朝起きたら挨拶するのが日課となっている。
朝食を学食で済まし、教室へと向かう。
この学園の特待生には、専用の教室があてがわれている。
教室のドアを開けると、既に1人の生徒が既に座っていた。
その生徒は毎日、誰よりも早く教室にきて、自習をしている。
「レオンおは」
私に続いてメルルも挨拶をする
「おはようございます。レオンさん」
両者で対照的な挨拶をしている。
メアは適当に挨拶し、アリアは丁寧に返した。
それも毎日の事なので、いちいち気にしない。
「うん、おはよう。あのさ、他の2人は見てないかな?そろそろ始業時間になりそうだけど」
「あの2人?なら見てないわよ。ね、そうでしょ」
「うん」
「そうか、ありがとう」
彼はこの特待生クラスの、リーダーのような存在だ。
いつも優しく、クラスメイトのことを思ってくれている。
彼は顔も性格もよく、よく年上の学生から告白されているのを見る。
いわゆる完璧人間というものだろうか?
まぁ、私は何とも思わないけど。
"キーンコーンカーンコーン"
チャイムが鳴ったのと同時に、担任の先生が教室に入ってきた。
その先生は、異能省から直々に指名された超エリートである。
「エイルとカレンは、また居ないのかい?」
先生は教室を見渡すと、2人の生徒が居ないことに気がついた。
しかも、エイルの方は初犯などではなく、幾度となく遅刻を繰り返している。
カレンはエイルと比べるとマシだが、それでも見慣れた状態である。
「ハァ〜。まぁ、気にせず点呼を行うか」
2人とも特待生なので遅刻ぐらいは大丈夫だが、それが続きすぎるのも良くない。
始業時間から時計の長針が少し動いた頃、廊下からドタドタと足音が聞こえた。
「やっべぇ、また遅刻しちった」
遅れてやってきた少年は、不良じみた格好をしている。
しかし、その格好とはそぐわない性格をしていいることを、既にこの場の者は知っている。
彼の根は真面目だからだ。
「アラームをかけていたはずなのに…おかしいな」
それは昨日も聞いた言葉だった。
これには先生も頭を抱えているが、おそらく言っていることは本当だ。
なぜなら彼は、こんなつまらない嘘をつく人間ではない。
それが分かっているからこそ、先生も悩んでいる。
カイルが言い訳を言っている隙に、もう1人この教室にやって来た。
「ちょっとどいてくれない?アンタがそこにいると通れないんだけど」
その生徒は入学式ですごい目立っていた、ギャル風の少女である。
その言葉には毒があり、カイルも少し後ずさる。
空いたドアを通り、何事もなかったように椅子に座るカレン。
その過程で自然と異能を行使している。
すると、どんどん学園指定の椅子がデコられていく。
この光景にはこの場の皆が見慣れているほど、普段通りの行動であった。
朝のホームルームが終わり、次の授業は実技の授業なので、着替えることになった。
女子は隣の空き教室で着替えることになっている。
「最近は実技の授業が多すぎて、ホント嫌になるわ〜。メアたんとアリアっちもそう思うでしょ」
カレンが着替えながら愚痴っている。
確かに割合的には多くなっているが、特待生という立場上仕方ない面もある。
「体力もしんどいしね。でも、仕方ないんじゃない?特待生として別の所は緩くしてもらってるんだし」
「私もそう思います。たしかに実技ばかりは嫌ですけど、どれも私たちの役に立つものですし、ありがたいと思います」
2人は軽く不満に思いながらも、それを受け入れているようだ。
何となく分かってはいたが、メアたんもアリアっちも納得はしているようだ。
けれど、面倒なのは極力やめてほしい。
「ねえぇ〜、授業ダルいよ〜。どうか私の心を癒してアリアっち」
着替え中のアリアに抱きついて、だる絡みをしているカレン。
それに少し嫌な顔をしながらも、異能を使って癒してあげるアリアであった。
※次回から本編に戻ります!
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