第66話 特訓は佳境へ
私の異能解放の能力の一つに、半径1mの状態が分かるというものがある。
しかし、デュランダルを顕現させたおかげで、新たな能力が使えることになる。
まぁ純粋に、デュランダルが私に魔力を貸してくれるだけなのだが。
そもそも、この擬似聖剣はもう私の所有物なので、自分の力だと言ってもいいだろう。
私はこの剣から魔力を引き出し、新しい魔法へと昇華させる。
「不滅の火輪」
擬似聖剣を空に掲げた。
すると、目に見えぬ力が空間を引き裂くように、光と熱が凝縮していく。
そして、爆ぜる閃光の後、彼女の周囲に浮かび上がったのはーー燃え狂う巨大な輪。
あまりの熱に砂漠ですら燃え、周囲の温度は爆発的に上がった。
彼女の意思を象徴するその火は、敵を殲滅するだけでなく、敵を拒む防壁にもなる。
つまり、汎用性の高い技である。
「(これは随分派手な魔法…さすがに直撃するとまずそう)」
あれには驚異的な魅力が込められている。
もし、まともに食らうと、そうとう痛いだろう。
メアの切り札に危機感を抱いたイザベルは、もう一度異能を使うことに決めた。
「"消え去れ"」
この言葉は普段使わない強力なものだ。
私の異能は、使う言葉の意味によって左右される。
吹き飛べや、止まれは、相手の動きには干渉出来るが、相手そのものには影響を与えられない。
しかし、多くの魔力を消費すると、そのものに影響を与えることが出来る。
さすがに、死ねとかは当然無理だが、異能の効果を消すぐらいなら、なんとか出来る。
炎の勢いが強いため、かなり遠くで見守っていたヘルトにも熱気が届くぐらいだったが、それがパッと消えた。
「…へっ?…」
この技が消された…。
これはデュランダルの魔力まで使って、ようやく使える技だったのに。
きちんと、イザベルの異能が発動したことを耳で確認したが、理解できなかった。
どうして…?
いや、そんなことを考える暇はない。
思考を中断して、しっかり前を見る。
すると、デジャヴを感じる。
そのデジャヴとは、イザベルがこちらに接近してきていることであった。
今からでは防ぐのは間に合わない。
なら、守りよりも攻めに回るのが先決!
霧散してしまった魔力を再び剣に纏わせ、感覚だけで振るう。
どこから攻撃されるのか分からないが、これは経験則である程度分かる。
これが私の唯一の長所かもしれない。
異能省にいた頃に、いろんな場所を飛び回っていたから、経験則が溜まっている。
そう思っていると、ドンピシャでイザベルが視界に入った。
「狙いは悪くないけど、単純に出力が低いのと」
ここでイザベルはあえて、ワンテンポ遅らせることで攻撃のタイミングをずらした。
「攻撃が単調すぎて、先読が簡単すぎる。フェイントをもっと組み込まないと」
ヘルトに頼まれので、独自で彼女の分析を続けて、淡々と指摘していく。
その合間にナイフを握っていない方の手で、メアの首元を手刀で打った。
すると、メアは静かにその場で崩れ落ちた。
朦朧とする意識の中、イザベルからの言葉は、しっかり心に刻み込んだ。
メアが倒れるのを確認したヘルトは、砂漠のフィールドを元の運動場に戻した。
その瞬間に意識を手放していたメアも、フィールドと同時で元に戻った。
「ハァ…ハァ…、これは完敗ね」
体にダメージは残っていなくとも、疲労はどうしても残ってしまう。
そんな状態でも、メアは今までの戦いを振り返って、素直に結果を受け止める。
しかし、当初の目的である、力量差をある程度測ることはできた。
「完敗……。全然そんなことはない。私の異能は魔力依存だから、正直持久戦に持ち込まれたら厳しかったかも?」
たとえ持久戦になったとしても、勝つ手はずはあるが、あまり使いたくない。
それに、厳しいのには変わりはない。
「まずお疲れ様。良い戦いを見させてもらったよ」
これまで一切喋らなかったヘルトが、ここで始めて口を開いた。
ヘルトはこれからの方針を決めるために、一切この戦いに関与せず、傍観していた。
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