第64話 唯一の有効打?
「(あれ?体がまったく動かない)」
まるで金縛りにあったような感覚だ。
指の一本すら、動かすことが出来ない。
これは完全にイザベルの異能が発動している。
しかし、私の耳には声は聞こえなかった。
心当たりがあるとすれば、自分の剣をイザベルに届かせることしか頭に無かったから、聞き逃していたという可能性もなくはない…。
「…ぐっ……!」
現状把握を必至にしている中、イザベルに脇腹を強く蹴られる。
その体躯からは想像出来ない膂力で、体に足の跡が出来そうなレベルの威力だ。
しかも、まだ手加減されているような気もする。
「相手の前で、そんな長時間止まっていて良いの?」
その指摘にはぐうの音もでない。
しかし、異能の突破方法を探らねば、手も足もでない状況は変わらない。
と、思っていると、体が動かせるようになっていた。
「こっちも必死に考えているのよ!」
自由になった腕で剣を握り、真上に向けて振り上げる。
当たり前のように避けられるがそれで良い。
「【牢獄炎】」
炎の柱が格子状に絡み合い、檻を形成する。
人体なら、触れればすぐに溶けてしまうほどの、高温を保っている。
なんとか事前に仕込んでいた罠が、ようやく発動した。
指定の位置に移動させるために、わざと真上に剣を振ったのだ。
設置している場所におびき寄せるには、これしかなかっただろう。
これが今、私のできる最大限の努力だ。
「こんなのに私を閉じ込めても、何も変わらないと思うけど?」
イザベルはなぜか、その場から動かない。
こんなものは脅威ではない、とでも思っているのだろうか?
実際、イナベルはこんな炎の牢獄ごときじゃ、まともなダメージを与えられないだろう。
しかし、目的はダメージを与えることではない。
「(なるほど。これはよく考べえられている)」
炎の牢獄に捕らわれているせいで、酸素の燃焼反応がものすごい速度で行われている。
これでは呼吸がままならない。
「お願いだから倒れてちょうだい。その後にやさ〜しく一撃を与えてあげるから」
メアが祈るように言い放った。
メアとしても、この悪あがきが通用してもらわないと困る。
そうでないと打つ手がない。
「(こんな状態では、まともに喋ることが出来ない。つまり、喋ることが出来ないから、異能が発動できないと、メアは判断したのだろう。不正解ではないけど少し甘い。この私が呼吸を出来なくなっただけで、異能を封じられると思ってもらったら困る)」
「(ヘルトさんが見ているのだから、張り切らないと。"消し飛べ")」
音もなく、シャボン玉が壊れるように、炎の牢獄は消えていった。
メアからすると、イザベルが口を開けただけに見えた。
私には声は全く聞こえていない。
どうやら、喋れない状態なら異能は使えない、という仮説は大外れなようだ…。
イザベルは一息ついて、目の前で分かりやすく落ち込んでいるメアに、フォローをいれる。
「ふぅ〜。狙いは良かったと思うけど、私を舐めすぎ。でも、この学園にもう一人いる、異能が似たようかタイプの奴には有効だろうけど」
イザベルは話しながら、しなやかな手つきで刃が静かに姿を現す。
このバトルの中では、初めて武器を取り出した。
これからはある程度本気を出す、という意思表明だろう。
「これからはフィジカルで押させてもらう」
そう言って、露骨に魔力を全身に巡らせている。
相手がどれ程の出力でくるか分からないが、もう一度気張らないといけない。
自分が打てる手はもう尽くした。
こうなってしまうと、火力でゴリ押すことしか出来ない。
しかし、私の本来の戦い方はこうである。
「それはこっちも望むところよ。"異能解放"」
大地を割るような轟音と共に、炎が彼女の体から噴き上がった。
心なしか、瞳の色も、赤みを帯びてきているように感じる。
メアは今までに感じた事のない、どこか浮遊感のような感覚が主張し始めている。
「(学年交流会の時より、思い切りがあるというか、何か吹っ切れた?オーラも全然違うし…。これは私も異能解放を切らないとだめ…かな)」
イザベルはメアの異能解放を見て、自分の認識を修正せざるおえなくなった。
先程まではメアに対して少し甘いなどと、のたまわっていたが、それはこちらも同じようだ。
「"異能解放"」
両者の異能解放がぶつかり合う。
これには、後方で腕を組んでいるヘルトもニッコリだ。
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