第63話 特訓part 1
「じゃあ、今回のルールを説明するよ」
「…まぁ、いいわよ」
先程の衝撃にまだ一呼吸つけてないが、ルールは大事である。
こういう細かな所にも、何かヒントが含まれているかもしれない。
「この子と戦ってもらうのは前述通りだけど、メアはイザベルに一撃を与えてほしい」
「私とイザベルとの力量差はそこまであるのね…」
以前の私なら、「おかしいでしょ」と言ったはずだが、今なら理解できる。
悔しいが、それぐらい実力に乖離がある。
だから、それを覆さないと一撃すら与えられない。
「しっかり実力差を把握出来てるんだね、意外…」
前回会った時は自らの力を過信して、現実に叩き潰されるだけの女かと思っていた。
しかし、今となっては現実を上手く呑み込めたのか、冷静に実力差を把握している。
これは"成長"と呼んでも差し支えないだろう。
「メアは痛みの許容量を超えると、特訓は中止だからね。".一撃"でいいから与えるんだよ」
「うん、分かった。どんな手段を使ったとしても、勝ってみせるわ!」
自分を鼓舞するために大声で叫びながら、拳を上に突き上げる。
その姿は吹っ切れた者のそれだった。
「先輩とか関係なく完勝させてもらう」
イザベルも負けじと意気込みを語る。
格下とまでは言わないが、何か想定外のトラブルが無ければ負けない相手である。
なので、当然のように勝たないといけない。
なぜなら、この場にはヘルトさんがいる。
「それじゃあ2人とも準備をしてね」
ヘルトから準備を促される。
これからイザベルと戦うと思うと緊張する。
たしかイザベルの異能は魔力を声に込められるという、稀有なものだったはずだ。
異能の詳細は分からないが、この前見た限りだと、相手の動きを止めたり、吹き飛ばしたりしていたはずだ。
対処法など分からない。
そもそもこの世にあるのかすら分からない。
「私は準備出来たけどメアさんは?」
イザベルは自分の喉をさすっただけで、準備を終わらせた。
私は悩みまくっているのに、イザベルの方はそんなことはないようだ。
「はぁ〜、私も終わったわ」
深呼吸をして、緊張を少しでも和らげる。
これからは全力のバトルなので、予断は一切許されない。
「2人とも準備が終わったのなら始めようか」
ヘルトが不適な笑みを携えながら、指を"パチン"と鳴らす。
すると、授業でもたまに使っている運動場から、灼熱の太陽が照り付けている、砂漠にフィールドが変わっている。
しかし、暑さなどは一切感じない。
なのに、自分の足には確かに砂を踏んでいる感覚がある。
感覚の不一致で、非常に不思議な気分だ。
「この場では君たちの力は妨げられない。思う存分に戦っておくれ。バトルスタート!」
ヘルトが魔力で声を拡声させて、スタートの合図を送った。
まず先制をとったのは意外にもメアだった。
イザベルの異能が発動される前に、決着をつけるのが一番だと考えたうえでの行動だ。
「煉獄閃」
イザベルに向けてまっすぐと、異能で作った炎を剣に纏わせて振るう。
その炎は激しい音と熱量をもって、イザベルに迫ってくる。
メアがよく使う技ではあるが、普段のそれとは熱量も威力も全然違う。
それだけでメアのやる気が伝わってくる。
「"消えろ"」
イザベルは声に魔力を乗せて、冷静に炎を異能でかき消す。
しかし、範囲が広かったため全ては消せられなかった。
そのせいで煙は完全には、なくならなかった。
イザベルはメアの居場所が分からなくなってしまった。
それを危険に思ったイザベルは咄嗟に身を引いた。
すると、先程まで自分が居た場所をメアの剣が斬り裂いた。
この一瞬で距離を詰められてしまった。
続けざまにメアが剣を振るう。
しかし、イザベルもやられっぱなしという訳ではない。
「"止まれ"」
イザベルの異能がメア本人に向けられた。
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