第59話 平和の弊害
メアに朝食を作ってもらって、清々しい朝を迎える事が出来た。
しかも、昼食のお弁当まで用意してくれていた。
さすがにここまで至れり尽くせりとは思っていなかった。
これは本気で強くしてあげないとだね。
久々に誰かにきちんと教えることを決心した。
教室に着いてからホームルームが始まるまで、いつも通り机に突っ伏していた。
すると、昨日ダリアから逃げていた男が小声で話しかけてきた。
「おい、ヘルト。お前メアちゃんと随分仲良くなったようだな」
恒例となった渡のだる絡みが始まった。
謎に渡は情報の取得が早くて、周囲に非常に敏感である。
クラスの中で恋人が出来た奴がいたら、まずこいつが1番早く気づく。
だから、メアとの仲が深まったことを勘付かれたようだ。
しかし、ここで変に反応すると妙に突っかかってくるので無視した。
「沈黙は肯定とみなすぞ〜」
聞き捨てられない言葉が聞こえた。
そのロジックは個人的に嫌いなものだった。
「この島の法律では誰しも黙秘権がある。渡のロジックだと犯罪者にも認められる権利が俺にないと言っているのか…むにゃむにゃ」
反論はしつつ、寝ている体を崩さない。
これが今出来る最大の抗議だった。
「いや、絶対起きてるじゃん」
さらなる追及が始まったが、俺の対応は変わらない。
昨日のデートは本当に楽しかった。
風紀委員長となってから、さらにしがらみが増えた。
だから、ここまで何も考えずに楽しんだのは久し振りだ。
しかし、今日からはまた風紀委員長としての仕事が待っている。
それに新しく警戒しないといけない相手も露見したので、さらに忙しくなるだろう。
学園の雰囲気はいつもと変わったりはしていない。
この学園の中には一般生徒の個人情報だけでなく、セブンキングスの詳細な異能の情報も保管されている。
もし、私たちの異能の詳細な情報を売ったとしたら、1人につき国が1個建てられるぐらいの値段になるだろう。
(まぁ1位の異能に関しては学園も把握出来てないんだけど…)
なので、この学園が襲撃対象になる可能性は十分高い。
そんなことを考えていると、部下の子から連絡が入った。
内容は学園の敷地外のすぐ側に不審の人影があるとのことだった。
警告を規定通りに行ったのに、相手からは何の反応も無かったようだった。
これは私も出ないといけない案件になってしまった。
学園の校門を出て、部下の待つ場所に向かう。
学園の外の道の両脇には、大きなケヤキやイチョウの並木が立ち並んでいる。
さらにその奥にも木々が生い茂って、林を形どっている。
自然豊かで良いと思うのだが、隠れられる場所が無限に存在する。
この中から不審者を探すとなると、さすがに一苦労だ。
しかし、これも仕事である。
「(この手の作業は苦手なのよね)」
愚痴をこぼしながら、探知魔法を使う。
ヘルトと比べるとゴミだが、この学園の周囲ぐらいなら分かる。
集中して自分の意識を遠くに飛ばす。
しかし、ある違和感に気づく。
「(どこにもいない…もう逃げたのか?)」
魔法に反応したのはただの小動物だけだった。
林の中に人間の反応はない。
念の為、もう一回調べようとすると、自分の頭上から物音がした。
そして"ガキィン"!と鋭い剣閃の音が鳴った。
どうやら不審者は私の真上にある木の上に隠れていたようだ。
灯台下暗しというやつだろう。
昨日の出来事が抜けてなくて、平和ボケのようになってしまったようだ。
「これは、これは"断絶の女王"、お会いできて光栄です。あなたの異能の話は聞いていましたが、まさに空間が断たれているようですね。どう対応したらいいか、見当すらつかないですね」
「随分饒舌ね、不審者風情が…。まぁでも捕まえる前に所属している組織を教えて貰おうかしら。それとも個人でやってるアホか」
ダリアは侮蔑の視線を向けながら言った。
捕まえてから拷もn…じゃなくて、尋問すれば良いだけだが、時間が惜しい。
早く吐いてくれた方がこちらとしても助かる。
「あ〜怖い、怖い。そんな怖い顔で言われたんじゃあ従うしかないですね。私が所属しているのは"黒き福音"という組織です。ついでに、私はその組織の幹部を務めさせてもらっています"ハゲ・コリンズ"と申します。以後お見知りおきを」
幹部の男は仰々しい動きで言った。
そいつは暗い服で目立たないように気を配っているはずなのに、その頭部に木漏れ日が反射をして、入射角と反射角がものすごく分かりやすい状態だった。
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