第57話 黒き福音
救急車の音が過ぎ去っていって、ようやく静かになった。
おそらく先程の爆発に巻き込まれて、怪我人でも出たのだろう。
心配とかは特にないのだが。
ヘルトとの食事が終わった後、部下に頼んでおいた下手人の元へ赴いた。
風紀委員の腕章をつけた部下が、ストリートの一角で陣取っている。
そこにヘルトと割って入る。
「何か情報を引き出せた?」
犯人が部下の異能で縛られているのを見下しながら、部下から成果を聞く。
(こんな街中での異能の行使は禁止だが、風紀委員は緊急時にのみ許されている)
「そいつを尋問した結果、ただの雇われの工作員だったことが分かりました。どうやら標的に自身の異能で作成した爆弾を用いて攻撃する、という依頼を受けたらしいです」
「それで依頼元は?」
「それがこいつも匿名からの依頼だったようで、依頼元のことは知らないようです」
これだと誰が裏で糸を引いているのかまったく分からない。
しかし、隣にはヘルトがいる。
ヘルトなら何か知っているかもしれない?
「ヘルトはこんな事をしそうな、組織や個人を知らない?」
ヘルトはたまに知らないはずの情報を知っている時がある。
だから、手掛かりに繋がる可能性がある。
なので度々、頼らせてもらっている。
ヘルトは一瞬考えた後、言葉を選んで言った。
「まぁ、知ってはいるけど。あくまで可能性の話として聞いてほしいな。この島に居ると言われているのは"黒き福音"とかいうテロ組織とかかな?なんだか最近きな臭い噂を聞くんだよね」
きな臭い噂…。
私はそんなものを聞いたことがないのだが、ヘルトが言うのならあるのだろう。
「それはどんな噂なの?」
興味が少しだけ湧いてきた。
ヘルトの耳に入ってくる程の規模をもつ組織なら、多少は腕の立つ者もいるだろう。
「例えば、匿名性の高い島内のコミュニティで、違法バイトを取り仕切っている。とか、世界各地で行った諜報活動で得た情報を売っている。とかね」
「そんな噂があったのね」
自分の記憶を探ってみると、昔に"黒き福音"という組織を聞いたことがある気がする。
たしか某国の重要人物を殺めたり、とある病院を襲ったりしていたはずだ。
そんな組織がこの島に来ていたとは。
情報共有を委員会の中でしておかないと。
ヘルトから手掛かりになりそうな情報をもらえたので満足した。
「じゃあこの下手人はもう用済みね」
足元で蹲っている男を見下ろす。
「ひっ……」
雇われの男はひどく怯えてる様子だ。
ダリアが用済みと言ったから、処分されると思ったのだろうか。
随分と怖がられているようだ。
それも仕方のない事かもしれない。
そんな時にサイレンの音が響いた
「…た、助かった!」
誰かからの通報を受け、警察がやって来たようだ。
こちらもこの男を警察に引き渡そうとしていたので都合がいいことこの上ない。
学園内なら風紀委員長として自身の権限で裁くことができるが、外のことは警察に任せることに書類上はなっている。
警察がやって来たが、風紀委員の腕章を確認したようで、一安心したような様子だ。
「風紀委員の皆さんはどうなされたんですか?」
警察である我々がきたので、風紀委員の面々が散っていった。
人混みの中央に騒ぎの元凶が居るようだ。
もう少しで元凶が分かると思ったら、ものすごく目立つ人が2人いた。
「は……? おいおい、冗談だろ……?」
それは"金色の魔王"と"断絶の女王"だった。
初めてセブンキングスと会った。
なんでこんな場所に化け物が2人も居るんだよ…。
今日はとんだ厄日だ。
「いち警官のくせに、よく私たちにそんな口をきけるわね」
「す、すみません。身の程知らずでした…」
断絶の女王に視線を向けられただけで、蛇に睨まれた蛙のように、自分がなっているのが分かる。
隣を見ると、同僚も自分と似たような表情をしていた。
「分かったなら良し。それなら早くこいつを引き取って下さい。説明は…早瀬さん、後はお願いします」
そう言いながら、私たちに背を向けた。
「はい、分かりました。それで、委員長はとこへ行かれるのですか?」
そう聞かれると、ダリアは普段見せないにこやかな表情で言った。
「内緒だよ」
その表情を見て、同性である私でさえ惚れそうになった。
委員長のこんな表情は一度たりとも見たことがない。
「ヘルト、私に着いてきて」
そう言って委員長は、金色の魔王と一緒に歩いて行った。
どうやったらあの委員長をあそこまで変えられたのだろうか?
それとも変わったのではなく、戻ったのだろうか?
疑問符が何個も出てくる。
私の中で、金色の魔王…ううん、ヘルトくんに興味が湧いてきちゃった。
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