第55話 思いの丈を綴る
予約していたレストランは「Etoile」(エトワール)。
先日オープンしたばっかりで、気になっていたお店でもある。
コース料理のみの提供で、旬の食材を取り扱っているので、季節でメニューが変わる。
値段が高いからといって、美味しいとは限らないが、期待してもいいだろう。
「このお店のプライベートルームを予約したのよね?」
「そうだよ。だって、俺たちは目立ちすぎる。良い意味でも悪い意味でもね」
セブンキングスにはそれぞれファンがついている。
ダリアは性格の苛烈さも相まって、ファンの母数は多くない。
しかし、その分熱心的なファンがいる。
そのファンに見つかりでもしたら、お店側に迷惑がかかるだろう。
(ちなみに俺のファンもそこまで多くない。なぜならかなり前に、弟子が俺の自称ファンを脅して回ったりしたせいで、体感半分ぐらいまで減った。
正直人気などどうでもいいが、悪目立ちするのはよして欲しい)
「じゃあ、お店に入ろうか」
ダリアは頷いて俺の隣に並んだ。
そして、2人で店に入った。
内装はダークウッドとクリスタルのシャンデリアを基調としたモダン・クラシック調で、華やかさの中に落ち着きがある。
既にホールのスタッフが待ってくれていたので、大人しくついて行った。
「どうぞ奥の席へお掛けください」
促されるまま席に座った。
そして、テーブルには2つの立派なメニュー表が置かれていた。
そのメニュー表を見てみると、事前調査通りでコース料理しか無かった。
しかし、初めて来店したので、どれを選んでいいか分からない。
なので、このいかにも推されている、極シェフの気まぐれコースという、変なネーミングのコースに決めた。
たまに高級なお店でも、変な名前の料理があるのは面白い試みだと思う。
「じゃあこの極シェフの気まぐれコースで」
ずっと隣で待機してくれていたスタッフに注文をする。
今どきデジタルじゃない注文方法は久し振りにした気がする。
この店のスタンスなのだろう。
「ダリアは決まった?」
「私もヘルトと同じので良いわ。あまりにも判断材料が少なすぎるから」
どうやら思考は同じだったようだ。
「かしこまりました。どうぞごゆるりとお楽しみください」
そう言ってスタッフはドアを閉めてから出ていった。
これでこの場にはダリアと2人っきりになった。
「(気まずいな…)」
特にダリアと話したいこともないので、場は静寂に包まれていた。
そもそも論、俺はダリアのことが苦手である。
ダリアは異様にそわそわしていて、落ち着きがない。
いつもは風紀委員長として非常に規律に厳格で、俺や他の生徒だけでなく、教職員にも細かい注意をしている。
しかし、今日みたいに私情で動くこともあるが、それは自分の権利の範囲内で自由にしているだけである。
俺はその注意される筆頭格なので、もう嫌気がさしている。
だから、ダリアと出かけるなどごめんだ。
しかし、なぜかダリアはなにかと俺に理由をつけては、今日みたいに付き合わされる。
「ねぇ、ヘルト。1つ聞きたいのどけれど?」
「別に構わないよ」
「ありがとう。ヘルトって私のことを避けてるよね」
「………」
思ったより切り込んだ内容が飛び出た。
実際その通りである。
しかし、なぜわざわざそんなことを聞いてくるのだろうか?
「そうよね、そんな気がしていた…。確かに私はヘルトに強く当たったりしたこともあったけど、本当は…………」
"ドォォォン!"
ダリアが言葉を紡いでいるさなか、部屋の外から鼓膜を突き破るような破裂音が、ドア越しに荒々しく轟く。
熱と衝撃が混ざり合い、乾いた空気を押し広げ、建物の壁を震わせていく。
「物騒なお客さんが来たようだね」
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