第53話 詐欺はやめましょう
「それってどういうこと?」
ヘルトの言っている意味が分からない。
女王様?
ヘルトにはそんな趣味があるのだろうか?
「どうやら相当お怒りみたいなんだよ」
またメールを無視していたのか?
そう思い確認してみると、通知が100件も届いていた。
その内容は簡単に言うと「今日一緒に出かけよう」というものだった。
おそらく当日になっても反応が無かったから、怒っているのだろう。
「(この前教室に来てから、スパンが全然空いてないよな…)」
強襲して来てから日にちが経っていないため、完全に油断していた。
まさかこんなに早く日程を決めていたとは。
どれだけ俺に奢って欲しいんだろうか。
激しい魔力の奔流を感じる。
すると、"カツン、カツン"と規則的に刻まれるように響いている。
ただの歩みでありながら妙に不穏で、耳に届くたび胸の奥に冷たいものを落としていくようにクラスメイトたちは感じているだろう。
声も笑いも消え失せた廊下に、それは孤独な鐘のように鳴り渡る。
「(だから渡は居なかったのか。勘の良い奴め)」
再びダリア…断絶の女王が降臨した。
「ヘルトはいるかし…いるわね」
隠れてもいなかったので、秒で見つかった。
視線は意外といつも通りだった。
しかし、オーラというか魔力は荒れ狂っていた。
隣のメアは他人の魔力の流れなんて分からないはずなのに、どこか感じ取っているようだ。
ダリアの魔力量が膨大だからかな?
「今メールを確認したよ。まさかこんなに近々に予定を決めていたとはねぇ」
「まぁヘルトのことだからそう言うと思っていたわ。だから怒ってないもの」
確かに怒っている様子は見受けられない。
しかし、メアは隣で震え上がっている。
そんなメアなどダリアは一切気にも留めず、話し続けた。
「だけど何も感じてない訳じゃないのよ」
ダリアの語気は普段と変わらないが、プレッシャーを感じる…。
やっぱりこれはあれだ、怒ってない詐欺だ。
怒ってないと言っているのに、実は怒っているというやり口である。
ダリアに騙されてしまった。
これは完璧に怒っていらっしゃるようだ。
「気づかなかったことの代償として、今から出かけるわよ」
「今から…ね。確かに俺たちは授業を受ける義務などないが、それでは生徒のみんなの模範にならないよね」
ヘルトの言ったことはすごい正論だろう。
しかし、ダリアはなぜかヘルトの普段の授業態度を知っていた。
「よくそんなことを言えるわね。私はヘルトが授業中にほとんで寝ていることを知っているのよ」
「よし、さっそく出かけようか。ちょうど美味しそうなレストランを見つけたんだ。そこの予約もしておこうじゃないか」
隣のメアが冷ややか視線を向けてくるが、気にしない。
こうなると潔くサボろうではないか。
ダリアとの外出など、奏に知られでもしたら大暴れされるかもしれない。
しかし、我が妹は授業は真面目に受けるいい子なので、おそらくバレないだろう。
「まずは、私のショッピングに付き合ってもらうわよ」
「はいはい」
クラスメイトたちを置き去りにして、ダリアと2人で街にくりだした。
ビルの壁に映る大型ビジョンは、最新の音楽や流行の映像を絶え間なく映し出し、道行く若者たちの顔を鮮やかに照らす。
この島で一番大きい流行の最先端の街にやってきた。
俺もダリアも見慣れた場所ではあるが、日が変わるとその様相も変化して、いつきても飽きることはない街だ。
「こんな朝っぱらでも、賑わっているねぇこの街は」
このスターダスト異能学園のある島は、学園の生徒意外にも居住者がいて、第3次産業を支えてくれている。
その他にも観光客もたくさんいるので、いつでも人だかりができている。
「私、人混みって嫌いなのよね。ついつい殺したくなっちゃうぐらいには」
「物騒だね〜。ここを指定したのはダリアでしょ」
「そうだけど…。ここに行きたい場所が集合してるのよ」
話を聞きながら歩いていると、周りから視線どころか悲鳴すら聞こえる。
その悲鳴は黄色いものと、そうでないものも含んでいる。
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