第42話 特待生と卒業
入学式は始まったものの、儀礼的なものばっかりでつまらなかった。
だからずっと話しを聞いていなかったが、最後の方に重要な情報が聞こえた。
「特待生の皆さんは入学式が終わりしだい、校長室へお越しください。重要なお話しがありますので、少しだけお待ちください」
この話しが出た途端、前の方の席から「えぇ〜」という声が聴こえたが、確かにめんどくさく感じるのはしょうがないことだ。
でも、特待生という枠でいろいろな事を優遇を受けているので、ある程度従わないといけないことは本人も分かっているだろう。
この後は思ったより早く入学式が終わり、生徒は先生に誘道され教室に戻っていった。
他の生徒が帰る姿を眺めながら待っていると、先生が呼びに来た。
「これが今年の特待生ねぇ」
体格のゴツい男の先生は、私達を値踏みしているような感覚を皆が抱いた。
中でも自分の前に座っている男子生徒は血気盛んなのか、半分睨んでいるようだった。
そんなことに先生は見向きもせず、私達について来い、と言って歩き出した。
それに男子生徒は不本意オーラを出しながらもついて行った。
その反応が面白いなと感じながらも、私も遅れずに後ろをついて行った。
講堂を出てから廊下を少し歩き、職員室の隣に豪華な部屋があった。
その部屋には校長室と書かれていて、すぐ目的地に着いたことが分かった。
"コン"コン"コン"
「失礼します。特待生の生徒達を連れてきました」
校長室の中は外観とは大きく違い、質素で無駄のない印象を抱いた。
部屋の奥には中年の女性が座っているので、おそらく彼女がこの学校の校長先生なのだろう。
「良く来てくれたね我が子たちよ」
校長先生は非常に温和な雰囲気で、異能学園の校長とは思えない様相だった。
しかも私達のことを"我が子"などと言う人は、とても稀だろう。
「みんな好きな場所に座ってね。カザンドラはさっさと持ち場に戻りな!」
「はい、分かりました!」
校長先生の豹変っぷりに皆驚いていた。
どうやら生徒には優しいようだが、職員などの大人には厳しいようだ。
私達が全員ソファに座ったのを、目で確認してから真剣な口調で喋りだした。
「君達には重要な"特待生"の仕組みについて説明させてもらうよ。みんなは異能省から特別な推薦をもらってこの学園に入学したんだけど、このシステムは1つ落とし穴が潜んでいるのよ。それはね、特待生であり続けるには条件がいくつかあるのよ」
私は直接デイヴイットさんから詳しく話を聞いていたので 特になにも思わなかったが、 他の子達の中には驚いている子もいた。
いきなり言われると、怖くて不安になるのは分かる。
でも私はすでに覚悟を決めているので、逆に身が引き締まる思いだった。
「どの学園にも年に4回、異能の強さを測る定期テストがあってね。 もちろん強さというのは様々でね、攻撃が出きる異能なら威力や射程、 副次的効果なども考慮して判定をつけるんだ。最低が1で最高が10の10段階評価の内 8以上を毎回のテストでとれないと、強制退学という厳しい処分が待っているのよ」
どこからか生唾を飲んだ音が聴こえた。
それもそうだろう。細かな基準は分からないものの、毎回の定期テストで高得点を取り続けることが容易ではないことは皆分かっていた。
「だから異能の訓練に励むんだよ。でもつらい事ばかりではないのも覚えていてね。君達には特権があるんだから、それをフル活用して学園生活を謳歌しておいで」
「「はい!」」
「「「………」」」
私ともう1人はきちんと返事を返したが、残りの3人は頷くだけだった。
この後は3年間で1人脱落してしまったが、残りの4人は特待生であり続けた。
私は日々異能の訓練に明け暮れていた。
その成果もあって、なんとかしがみつく事が出来た。
私の卒業式当日になっても、気持ちは晴れなかった。
なぜなら、ナタリーの治療が順調ではなかったからだ。
昔に比べれば間違いなく良くなっているのたが、まだ意識が戻っていない。
そのことがずっと頭に引っかかったまま、私はこの学園を卒業した。
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