第40話 分岐点
「何で異能省の方がこんな家に?」
異能省はこの国の異能関係の全ての組織の頂点に立っていて、その職員は例外なくエリート揃いである。
普段はいろいろな所に飛び回っている人たちなので、一個人の家を訪ねる事など滅多にない。
「実は教習所の先生とは古い付き合いで、今でも仲良くさせてもらっていまして、その先生から娘さんの話を聞いたんですよ。なんと異能の才能と実力が凄まじいらしいではないですか。」
私は異能省の職員の方が、急に饒舌になって話しだしたのを遠い目になって聞いていた。
しかし、彼のターンはまだ続いた。
「その話を私の直属の上司に伝えますと、興味を持たれたようで」
「へぇ〜、それは光栄ですね」
メアのお母さんの頭の中では、うちの娘は確かに逸材だけど、そんな情報だけでなぜ偉い人が興味を持ったのか分からかった。
すると、相手がこちらの雰囲気を察したのか、説明を合間に挟んできた。
「これは内緒に欲しいんですけど、私の上司は特定の条件下で未来予知が可能なんですよ。信じられないと思うかもしれないですけど、本当のことなんですよ」
小声で話していたが、確かに嘘を言っている感覚はなかった。
とても胡散臭い話だが、"異能省の偉い人"ともなればその可能性はあるかも?と思ったので続きを聞いた。
「その人が、あなたの娘さんは将来この国でも 5本の指に入るほどの、メイカーになれると言っているんですよ。なのでへッドハンティングに来させていただきました」
娘が目的なのは早々に分かっていたが、今のメアはそんな心理状態ではない。
だから断るしか無かった。
「ごめんなさい。今の娘は人と話せる状態じゃないの。だから今日は帰ってもらえないですかね?」
本来は異能省からの直接のヘッドハンティングなど、滅多にあることではない。なので受けた方が良いのは自明だが、タイミングが悪かった。
そんなことを思っていると、職員の方にはまだ話し足りないことがあるようだった。
「そのことはこちらも存じ上げております。しかし、それを含めて私の上司が娘さんの悩みを解決させられると言っていまして」
「本当ですか?」
内心プライバシーはどこに行った?と思いつつも、今のメアには確かな希望が必要だった。
実際異能省は強い権力を持っていて、個人情報の表層程度は調べられる。
なので、職員さんをリビングで待っていただいて、その上司の方と連絡を繋いでいるスマホをお預かりして、階段を登った。
そしてメアの部屋の前に着き、"メア"と可愛らしいネームプレートが掛けてあるドアをノックした。
当然それに反応を示してくれなかったが、声をかけて教えてあげる必要があった。
今のメアにはこの言葉を使わないと、聞き入れてくれないと思ってこの言葉を発した。
「ナタリーちゃんが助かるかもしれないわよ」
そうドアに話しかけると中から反応があった。
"ゴソゴソ"と音がして、ドアが少しだけ開かれてメアが顔を出した。
「…助かるかもって?今のナタリーは植物状態で、助かる見込みが薄いってお医者さんが言っていたんでしょ…」
久々に聞いた娘の声は掠れていて、非常に聞き取りづらくなっている。
しかも顔もやつれており、幽鬼とまではいかないものの、酷い表情をしていた。
「このスマホは異能省のお偉いさんと繋がっていてね、この人がメアの悩みを解決出来るらしいのよ。だから、一回話しを聞いてみたら?」
そう言ってスマホをメアに渡すために腕を伸ばすと、勢い良く奪い取ってきた。
メアは私からスマホを奪い取った後、すぐにスマホを耳にあてた。
「あの、メアリーです。ナタリーが助かるかもしれないって本当ですか!?」
電話相手はメアが単刀直入に聞いてきたことに驚いたが、そんな重要な事をいきなり話すのも気が引けるので、まず自己紹介から始めた。
「そんなに急かさなくても良いじゃないか。良き縁に巡り合えたのだから自己紹介から始めさせてもらおう。
私は異能省教育局の局長を務めさせて頂いてる"デイヴィッド・コリンズ"です」
この男は数年後、異能省のトップである異能大臣にまで上り詰めた男である。
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