第36話 ダリア強襲
メアが談話室で話し合っている時に、2年A組のクラスでは"災害"がやって来ていた。
ちょうど帰り支度をしていたクラスメイト達は、突如として廊下から気を抜くと、倒れてしまいそうな程の圧倒的なプレッシャーがこの場に充満した。
体は指一本動かすことは出来ず、唯一動かせられるのは視線のみだけだった。
教室のドアに手が掛けられた音がする。
クラスメイトにとってはドアが開かれるまでの、刹那の時間が無限にも等しく感じるほどに、引き延ばされていた。
「ヘルトはどこにいるの!」
ついにドアが開かれて、声の張本人が姿を現した。
その人物は腕に風紀委員長の腕章をつけた、この学園の生徒なら誰でも知っている有名人であるダリア・クリスティーナであった。
これには、いつもおちゃらけている渡も動けなくなっている程である。
教室が固っている中、やはり何も気にしていない男がいた。
「どうしたのダリア?」
その男はもちろんヘルトである。
この世にダリアの威圧に無反応なのは、おそらくヘルトとその妹の奏ぐらいだろう。
「どうしたのじゃないわよ!何で私のメールを既読スルーするのよ」
既読スルーと言われると、ヘルトの封印していた記憶が蘇ってきた。
「(そうだ、「出掛ける日時はいつが良い?」ってメールが来てたんだった…)」
「(だからあんなに怒っていたのか)」
ヘルトからすると嫌な記憶だったので、脳が勝手に消したようだった。
だが、ダリアからすると既読スルーに感じるのは仕方のないことだった。
それに気づいたヘルトは軽く謝罪をした。
「返信するのを忘れていたようだ。ごめんな」
クラスメイト達はヘルトは、ダリアと同じセブンキングスの1人なのはもちろん知っていた。
しかし、ダリアのこの圧力を受けても平然としているヘルトを見て、やはり自分のクラスに普通に居るこの人はすごいと再認識していた。
「謝罪が軽くない?私への借りを返してくれるはずでしょ」
「はぁ〜、じゃあ好きな物を1つ奢ってあげるよ」
この言葉にドアのすぐ近くに居たダリアは、他のクラスメイトからしたら一瞬で、ヘルトの席の前まで移動していた。
そしてヘルトの顔を覗き込むようにして、聞き直してきた。
「二言は無いわよね?」
「もちろんだとも」
ダリアが何故、このように執拗に聞いてくるのか分からなかった。
しかし、ダリアが機嫌を直したのかプレッシャーは霧散していった。
「「「命拾いしたぁ〜」」」
クラスの心の中の声が、揃った瞬間であった。
ダリアは満足したのか、覗き込むようにしていた姿勢を元に戻して語気を少し強めて言った。
「日時はいつでもいいわよね。私のメールを無視したんだから」
外面は至って平静を装っていたが、嬉しい気持ちがダダ漏れなのが丸わかりだった。
しかしヘルトは目頭を押さえており、その姿を見ることは無かったので、未だに怒っていると勘違いをしていてた。
クラスメイトからすると、ダリアがヘルトへ特別な感情を抱いていることは明らかだったが、本人からすると普段は身だしなみなどを細かく注意してきたり、いちいち気にかけてくる面倒くさい奴という印象が根強かった。
しかも、ダリアもその好意を隠そうとしているきらいがあった。
なので2人の関係は、絶妙なバランスの上で保たれていた。
「日時は追って連絡するから、今度はちゃんと返信してよね」
そう言い去ってダリアは2年A組のクラスを離れて行った。
クラスの面々には徐々に元気が戻ってきて、友達と会話したり、帰り支度を再開させる生徒も災害を乗り切った達成感と疲労感でいっぱいだった。
渡が災害のせいで"ぐてー"と机に突っ伏している頃、メアは自分の過去と親友のことを想起して、後悔と懺悔の念で涙を流していた。
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