第29話 正反対の"最強"
時は少し朔り、ヘルトと別れたルナはスマホを片手に、とある場所に向かっていた。
「(緊張する…)」
歩みを進めるにつれ、人とすれ違うことが少なくなっていた。
しかも、内装も豪華になっていき、ここが自分に似つかわしくないと感じていた。
「(でもヘルト様がわざわざ許可を下さったんですから、気を引き締めていかないと!)」
その事を心の中で決心していると、長い廊下の最奥まで辿り着いた。
そこには1つの重厚な扉が待ち構えていた。
ルナはその扉の奥にどんなものがあるか分からなかったが、とりあえず扉を開けたみた。
すると、中にはさらに扉があった。
しかし、先程と違う箇所は、その扉の隣に受付のような場所があった。
受付には綺麗な女性が1人でその場に立っていた。
「(あれ、こんな感じなの?)」
ルナはヘルトから、場所しか知らされていなかったので、パニくっていた。
なぜなら、いわゆるラウンジの様な設計になっていたからだ。
しかし、受付の女性が話しかけてくれた。
「あなたはルナ様で間違い無いですか?」
そう問われると、「…はい」としか言えなかった。
「事前にヘルト様から言伝を頂いていますので、このカードキーをその認証リーダーにかざしてください」
差し出されたカードキーは白金製で、売れば相当な値段が付きそうなほどだった。
ルナは受付の人に言われたとおり、認証リーダーにカードキーをかざした。
すると、"ウィーン"と音がして扉が開いた。
その瞬間に光がいきなり目に飛び込んできて、思わず目を閉じてしまった。
しかし、目がその光に慣れると奥の方には複数のモニターが見えた。
そして手前には複数の豪華な椅子があり、その内半数は埋まっていた。
「(とりあえず目立たない場所に行こう)」
そう思い端にあった席に座った。
そして、何げなく隣を見てみると、そこには序列1位の終焉の王女がモニターを眺めて、優雅にティータイムをしていた。
そのあまりの衝撃と恐怖で体が固ってしまった。
しかし、その様子を見ても奏は表情を一つとして変えることは無く 、言葉を発した。
「あなたがお兄様の言っていた女ですか」
こちらを見つめている瞳は、兄の煌々とした瞳とは正反対の深淵のような瞳 をしていた。
その瞳に捉えられて、正気を保てなくなる人も居るほどだった。
「あなたのような人が相手なら心配して損しました」
その声には、落担が前面的に籠もっており、放つプレッシャーの量も増えていった。
しかし、相手は自分の敬愛するヘルト様の妹なので、気合のみを頼りに表情を取り繕った。
相手は同い年とは言え、自分より圧倒的格上なのでものすごく言葉を選んで話した。
「ヘルト様にはとてもお世話になっております…」
相手の機嫌を損ねないように丁寧に喋ったつもりだったが、奏は気に食わなかったようでプレッシャーの総量が更に増えた。
その圧に押し潰されそうになっていたが、奏の言葉でそれどころでは無くなってしまった。
「あなたではお兄様の隣に立つ実力はありません。なので、金輪際お兄様の前に姿を見せないでください」
(でも、あのお兄様の"自称弟子の女"は実力がよく分かんないのがイラつく)
奏が言っていることは確かに正論だった。
客観的に見ても、異能が強力なだけて本人の実力自体はそこまで高くないことは自分でも分かっていた。
しかし、ヘルトの側に居たかった。
必要とされたかった。
愛して欲しかった…。
なので、恐怖心なんてものは虚飾で塗り潰した。
そして震える声で必至に返した。
「私はヘルト様に救われたんです。まだ会って時間は余り経っていないですけど、それでもお側に居たいんです!」
奏はルナの魂の叫びを聞いたが、興味が無くなったように再びモニターの方に向き直った。
かなりの大声をあげていたので、周りの視線を集めていた。
そのまま2人の空気はその後も変わらず、黙ってヘルトを見ていた。
当然他の学年が映っているモニターもあるものの、ヘルトの学年のモニターを見続けていた。
先程のヘルトの活躍に、特別イベントから少し時間が経った今でも、他の席から歓声が聴こえていた。
最終的な勝敗は、まさかのヘルトの棄権だったが、それでも皆の頭にヘルトの強さは脳裏に刻み込まれていた。
勝敗には奏も部屋中も驚いたが、本人が直接負けた訳ではないのですぐに熱気は冷めていった。
他の学年のモニターでも、余り大きな動きが少しの間無かったので、この場の雰囲気は雑談などで和やかになっていた。
"ヴ〜〜〜" ヴ〜〜〜"
ーーしかし、いきなりのサイレンの音で、その雰囲気がぶち壊された。
モニターにも"Warning"という文字で埋め尽くされており、2年生だけ画面が映らなくなっていた。
VIP達は何事かと、慌てて取り乱していた。
「(これがお兄様のやりたかった事なのですね)」
「(ヘルト様、どうか思う存分楽しんで下さい)」
こんな状態でも、ヘルトへの信頼がまったく揺らがない2人であった。
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