第26話 隠れし月は羨望をも向ける
擬似生物の召喚画面を閉じ、電子キーが入っているUSBも抜いた。
そのままUSBを透明な人影?に返した。
その透明な人影は少し前からスタンバっていたようで、開会式の会場には先程ヘルト達が戦っていた様子がリアルタイムで中継するためのモニターがいくつか設置されていた。
その中継を見ていた透明な人影は衝撃的なシーンを目撃していた。
それは、ヘルトが自分の知らない少女の頭を撫でている様子だった。
その姿を見て、嫉妬と羨望の視線を向けていた。
「(私も頭を撫でて欲しいな…てか、あの害虫の表情、メスの顔しやがって…ムカつく…)」
イザベルは自分の頑張りを褒めてもらうついでに、頭を撫でてもらっていた。
なので、自分もあの少女のように功績を誇って、頭を撫でてもらおうとした。
「私は学園のデータベースに入るための電子キーを教師から盗んで来たんですから、私もあの女みたいに褒めて下さい!」
本当は頭を撫でて欲しかったが、自分からそれを話すのは流石に恥ずかしかったので、 「褒めて」とイザベルと同じアピールの方法をとることにした。
確かにこの学園の教師から電子キーを盗むことが出来る者などほとんど居ないので、褒めるには十分に値すると判断したヘルトは透明な人影に言われた通りに褒めることにした。
「ありがとうねルナ、これで僕の今回の計画が完成されたよ」
イザベルと同じ様にルナの頭も撫でてあげた。
その手触りはとても滑らかで、普段から手入れしていることがはっきり分かった
「……えへへ……」
その表情は、まるでここが天国であるかのように幸せそうな表情だった。
少しだが、唇からヨダレが垂れてきており、普段の様子からは想像出来ない程緩みきっていた。
それを見たヘルトは、自分が褒めながら頭を撫でただけでこんなにも表情を緩ませるのかと、かなり驚いたがイザベルも喜んでいたようだったので、これからも利用出来そうだと思った。
なのでこれからも、これをご褒美的な扱いにしたら割安で操れるかもしれないと真剣に考えていた。
しかし、少しこの場に残り過ぎたのでメアや渡が自分を待っているので思考を取り止め、それと並行して行っていた頭を撫でる行為も中断した。
「……あっ……」
ルナは自分の頭からヘルトの手が離れてしまったので、すごく名残り惜しさを感じてもっと続けて欲しかったが、あまりワガママを言うと大好きなヘルトに嫌われるかもしれないので自重した。
ヘルトはルナにいっときの別れを告げ、ゲートを通りメアと渡の待っている木々を抜けた平地に転移した。
その後ろ姿を見送ったルナは、この学年交流会を休んでいたため暇になってしまった。
しかし、事前にヘルトから「俺に電子キーを渡してくれたら、その後にやる事が無いならVIPの観客席に行くと良いよ。」と、言われていたのでそれに従って観客席に行くことにした。
「(私にVIPの観客席ってそんな場所、贅沢すぎませんか?)」
ヘルトは閉じた目を開くと、そこにはメアと渡がその場に座って待っていた。
ヘルトが転移してきたのを見て、渡はボコボコにされたのを少し根に持っていたので、ささやかな文句をぶつけた。
「もう少し、俺に優しくしてくれても良いんじゃないか〜?」
ヘルトの脇腹辺りを渡が小突いていたが、本人はまったく気にしておらず、小突かれたままメアに魔力の残存量を確認した。
「かなりの大技を使って、魔力がかなり減ってるんじゃない?回復するかい?」
ヘルトはこの後大きな戦いが待ち受けているのを知っているため、魔力を回復させた方が良いと思って聞いたのだが、メアはもちろんそのことを知らなかったのもあってか、断った。
「いや、大丈夫よ。これぐらいの消費ならまだ十分戦えるわ」
なぜなら、たしかに魔力は使ったものの、優奈との戦いでは結局バリアを切っていたたけで、本人にダメージを与えられなかった。
成果は少ししか上げられていないのに、ヘルトからの施しを受けるのは違うと思ったからだった。
しかし、ヘルトの心境は少し複雑になっていた。
それは彼我の戦力差を考慮して、相手の強さを設定をしていた。
なので、少し厳しい戦いになるかもしれないと危惧しているからだ。
「(計算が狂っちゃうな、でもこうなったらこちらで補填してあげるしかないかな…)」
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