第20話 不条理の体現者
「その余裕そうな面ぁ!何時までも続けられると思うなよ!」
烈は異能解放によって得られた膨大な魔力を身体強化として循環させ、ヘルトに一方的にボコされていた頃とは比べ物にならないほど身体強化の強度が上がった。
「これからは俺の独壇場だ!」
自身の身体が超絶強化された状態で、ヘルトに向けて大きく振りかぶった右ストレートを繰り出した。
それに対応は出来たがあまりの威力の為、ガードごと崩されてしまった。
その隙を烈はもちろん見逃さず、続けてガードの崩れたお腹にすかさず左フックを繰り出した。
しかし、ヘルトもやられっぱなしという訳ではなく、反撃としてすぐに蹴りでかえした。
ーーその直後、2人は別方向の後方へと飛んでいった。
「………」
「チッ…クソが…」
その結果互いにダメージを負ってしまった。
しかしそのダメージ量はまったく異なっていて、烈のダメージは軽微だったがヘルトの方は傷が少しついていた。
「久し振りに自分の血を見たね…」
「ちゃんと自分の血が赤くて安心したよ」
自分の流血シーンを見て安心している不審者は感傷に浸った後、回復魔法で傷の跡をまったく残さず一瞬で治癒の魔法を行使した。
「相変わらずふざけてやがるな!テメェも少しは力を出さないとこのまま潰すぞ!」
その声にはドスが効いており、離れた場所で見ているメアの背筋に冷たいものが伝った。
「(ヘルトは"あの力"を使えば勝てるはずなのに)」と心境はヘルトが押されている姿を見て不安が渦巻いていた。
その不安を一掃するようにヘルトの表情が余裕の笑みから、万物を凍てつかさんとする仄暗い笑みに変わり空気が一変した。
「異能解放」
「(何が起こった?呼吸がしづらいぞ…)」
空気が変わっただけではなく、異能解放の追加効果の固有フィールドが展開され、本人以外の全ての行動を阻害する効果が付与されていた。
「"お前"がそこまで言うならその力、俺に示してみろよ」
「いくらでも示してやるよ!」
ヘルトの異能解放の追加効果を受けているにも関わらず、気合のみで重い体を動かし全力で前に拳を突き出した。
その拳は烈の思い通りの速さ、威力をもってヘルトに届いた。
ーーだが。
ヘルトには傷をつけることは愚か、何の影響も与えることは叶わなかった。
「…は、どうしてだ!?」
「こちらもセブンキングスとしてのプライドがあるんでね」
その後も烈はヘルトに攻撃を続けていったが、攻撃は防がれてオマケと言わんばかりに反撃の蹴りやパンチを返してくるので、ジリ貧な状態になっていた。
先程までのやる気全開という感じとは裏腹に、疲労とプライドがズタボロにされたせいで感情が揺れ動いていた。
「いつもお前らのような"特別"は俺のような凡人を簡単に超えてくるよな」
烈の異能は「体内の筋肉量を増やす」という強力とはかけ離れた異能だった。
しかし、感情の起伏がトリガーとなって発動する「自身の感情が強くなるほど攻撃の威力が指数関数的に上がる」という異能解放の追加効果があった。
そのおかげで感情のピークになっている今は、烈の中での本当の全力が発揮される。
「ここからは文字通り俺の全力を"特別"に見せてやるよ!」
体内の筋肉量が増えていながら余計な力を一切いれず、力の方向性を一点に集中させて、流れるような動きのまま全魔力を注ぎ込んだ拳を前に突き出した。
ヘルトは直に受けるのは危険だと判断して避けるために後ろに下がった。
しかし、烈はそれを読んでいた。
避けられるのを想定して加速したため、ヘルトが避けて下がった場所がキレイに烈の間合いに入っていた。
「…オラァ!」
この自分の全ての魔力を賭した攻撃でもヘルトには回復魔法があるため、勝てないことは本人も分かっていた。
だが、ここまで啖呵を切ったからには、少しでも「お前に届くんだぞ」とヘルトや他の"特別"に示す必要があった。
拳がヘルトに当たる寸前、その表情が視界に入ってきた。
ヘルトは笑っていた。
先程の仄暗い笑みではなく、気持ちの良い笑みを携えていた。
「(あぁ、俺はやっぱり凡人か…)」
この世界の不条理を嘆きながら最後に烈が聞いた言葉は、死の呪文と同意義だった。
「"権能解放"限定解除」
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