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レアスキルから始まる私の創生記〜私は私のために生きるので好きなものに囲まれて国を創ります〜  作者: 功野 涼し
人間だった私が魔王となるまでのお話

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友好関係を築くきっかけ

 森の中を漆黒の馬に放心状態のまま乗るダークエルフの王シャルフを、宥め介護しながら先頭を進むダークエルフたちに案内されフローラたちは進む。


「あれは立ち直るのに時間かかるねぇ」


「そうですね。剣を折られたのがショックだったのでしょうか?」


 ネーベとコルサが小声で言葉を交わすと三つの青い光が飛び回る。


「ポキンって折れた!」

「折れたの!」

「ついでに王様の心も折っちゃった!」


 水の妖精三人娘が聞こえるように……と言うよりもシャルフの近くで声を上げて煽る。目に涙を浮かべて震えてしまうシャルフだが言い返せずに唇を噛んで下を向く。


「そんな言い方したらダメだよ」


「はーい」

「ごめんねー」

「元気だしてー」


 フローラの言葉に水の妖精三人娘たちが素直に従いフローラの肩に並んで座る。そのまま前に出てシャルフの隣に並んだフローラが見上げる。シャルフは視線に耐えれないのかわざとらしく顔を逸らしてしまう。


「すごく大事なものだったんじゃないですか?」


 フローラが尋ねると顔を逸らしたままのシャルフは、しばらく口をもごもごさせていたが口を開く。


「ダークエルフの王に代々引き継がれる伝説の武器だ。風を操るルフトの剣と呼ばれていたが……」


 そう言ってシャルフは刀身の折れた剣を見て大きなため息をつく。その姿に周りのダークエルフたちが必死に慰める。


「あのぉ、剣を折っておいてなんですけど、ルフトの剣に風の妖精を閉じ込めて無理矢理力を引き出すのはよくないと思います。風の妖精怒ってましたし」


 フローラの言葉にシャルフはがっくりと肩を落とす。


「先代の王が風の妖精を封印し力を引き出す剣を創造しダークエルフに繁栄をもたらしたのだ。だが余の代でその力を失うとは先代に顔向けできぬ……はぁ~」


 落胆するシャルフをどう慰めていいものかと悩むフローラの隣に来たコルサが口を開く。


「失礼を承知で進言させていただきますが、先代で剣を作って繁栄をもたらしたのなら、シャルフ様は剣を手放し新たに繁栄をもたらすと言うのはどうでしょうか?」


 コルサの言葉に死んだ魚の目のような目をシャルフが向ける。


「私たち狼人族、穴兎族にトレント様方、さらには水の守護までフローラ様をお慕いし仕える所存です」


「それは遠まわしに余に傘下に入れと言っているのか?」


 少しだけ瞳に光を宿したシャルフが面白くなさそうにコルサを見ると、視線を受けたコルサは静かに首を横に振る。


「いいえ、フローラ様は私たちがお仕えすると言っても断られてしまいます。それどころかフローラ様は私たちと対等であろうとします。そんなフローラ様だからこそ私たちはお仕えし、ゆくゆくは魔王としてあがめたいと考えています。シャルフ王におきましても傘下ではなく、同盟と言う形で関係を深めていただければ繁栄の足掛かりになるのではないかと思います」


「魔王だと……。そんな伝説……いや」


 コルサの言葉を聞いていたシャルフが「魔王」なる単語に反応すると、隣を歩くフローラを見つめて何やら考え始める。やがて馬を止めるとサッと降りてフローラの前に立つ。


「勝者はフローラそちだ。敗者である余が馬に乗って移動するのは失礼であった」


「あ、いえいえ。私歩くの好きですし……あ、そうです! こうして目線が近い方が話しやすくないですか? だから一緒に歩きましょう!」


 突然の丁寧な物言いに驚いたのもあるが、勝者と呼ばれ特別扱いされることが嫌で、フローラが必死に言い訳気味に応えるとシャルフは目を丸くして驚いた表情を見せる。


「よ……余と一緒に歩くと」


「えっ、はい? そっちの方がお互い分かり合えていいかなって思うんですけど」


 目を見開いたまま驚愕の表情を見せるシャルフはしばらくフローラを見つめていたが耐えきれない様子で顔を逸らすと、周囲のダークエルフたちを手招きして集める。突然シャルフを中心に円陣を作って話始めるダークエルフたちに、歩みを止めざるを得ないフローラたちは成り行きを見守ることになる。


「ど、どうすればいい?」


「どうと言われましてもシャルフ王のお気持ちのままにとしか言えません。私は賛成ですけど」


 胸を押えて頬を赤くしたシャルフがソワソワしながらダークエルフたちに尋ねると、周囲のダークエルフたちもどこかワクワクした様子で応える。


「そ、そうだよな。あぁ、生まれて500年程度、女子から告白されたのは初めてだ」


「そうですね。我が国で女子が告白することなどありませんし、ましてシャルフ王に直接あんなに堂々と、しかも大勢の前で。これは運命ではないでしょうか?」


「う、うむ。そちもそう思うか。だ、だが余の王としてのプライドもある。余が求愛の言葉を述べていないのに承諾するのも違う気がするのだ」


「それでは、お友だちからと言うのはどうでしょうか? あちらもお互いを知りたいとおっしゃってましたし、先ずは仲を深めいずれ頃合いを見てシャルフ王から告白すると言うのはいかがでしょうか」


 一人のダークエルフからの言葉にシャルフは腕を組んで思考するが、すぐに自分を納得させるかのように何度も頷く。


「そ、そうだな。それがいい。まずはフローラのことを知り、余のことを知ってもらった上で改めて余から告白する。これが最善だな」


「間違いありません!」


 円陣を組んでいたシャルフたちが盛り上がったところで、円は崩れダークエルフたちが左右に分かれると真ん中から現れたシャルフがわざとらしく咳ばらいをしつつフローラの元へと向かってくる。


「コホン、フローラよ」


「はい?」


 改まった態度で話しかけてきたシャルフのまとう雰囲気が、先ほどと違うことに違和感を感じるフローラは首をかしげ気味に返事をする。


「まずはお互いを知るためにも友達から……と言うのはどうだろうか?」


「え? あぁはい。そうですね友達からでお願いします」


「う、うむ……ではよろしく頼む」


「はい。よろしくお願いします」


 流れが全くわからないがとりあえず争わなくて済みそうなこと、コルサの言った同盟関係的な友好関係を言っているのだろうと解釈したフローラは笑顔で返事をする。その満面の笑顔を向けられたシャルフはしばらくフローラを見つめていたがやがてフルフルと体を震わせ始める。


「と、友だちからだからなぁ~~‼」


 それだけ言うと離れた場所でニヤニヤと様子を窺っていたダークエルフたちのもとに走り去る。残されたフローラは意味がわからず首をかしげてしまう。


「か、可愛い。可愛いぞ。直視できぬ」


「シャルフ王意識しすぎです!」

「お気をしっかり!」

「いつも通りなされば大丈夫です!」

「そうですよ! 相手が告白してきたのですから優位性はシャルフ王にあります!」


「そ、そうだな。余頑張る」


 ダークエルフたちに励まされシャルフは手をグッと握って気合を入れる。


 ダークエルフの国で「一緒に並んで歩こう」はあなたのそばに一緒にいたい、つまり「好きです」と言う愛の告白であることを知らないフローラは、盛り上がっているシャルフをはじめとしたダークエルフたちが自分に好意的になってくれて良かったと微笑む。


(どこに好意的に思われるところがあったのかわかないけど、まあいいかな)


 大切な剣を折ったりと好かれる要素がなさそうだが、勝ったことがよかったのか、コルサの言葉が響いたのか魔族のことがまだまだわからないなと思いながら、自分の隣に戻って来てぎこちなく歩くシャルフを見て前向きに考えることにするのである。

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