スキルと可能性
「ここはね、不規則で不健康な生活を送りがちな研究者たちにために夜遅くまでやってくれてて助かるんだから」
食堂に着くなり説明しながらマリアージュがテーブルに重ねてあった木で出来たお盆を取ったので、フローラも真似してお盆を手に取る。
「夜になると料理を作る人はお休みだから作り置きしたものが並んでいるんだけど」
マリアージュが指さした方にはガラスの扉がついた棚の中に並ぶ色とりどりの料理があった。しかも並んでいる料理たちのどれもが色鮮やかで温かいものからは湯気が上がり、野菜や果物はみずみずしく食欲をそそらされる。
その様子に驚きを隠せないフローラを見てマリアージュがクスクス笑う。
「いい顔する。なんで作り置きの料理の鮮度が保たれているのか気になるでしょ」
マリアージュの問いに驚いて言葉の出ないフローラがコクコクと無言で何度も頷く。
「答えを先に言わせてもらうとスキルよ」
「スキル⁉」
ここでスキルという単語が出てくるとは思っていなかったフローラは、更に驚きの表情を強めるとマリアージュは可笑しそうに笑う。
「ここで活躍しているスキルは『保存・維持』と呼ばれるもの。物体の活性を押えて腐敗や老化をストップさせるものなんだけど、使用者が力を当て続けていないと効果はないし、当たったところ限定なのが難点」
マリアージュの説明に興味がありながらも、小難しい話しにフローラの頭の上に疑問符が浮かぶ。それでも続く説明にフローラは必死に耳を傾ける。
「ここでもう一つ『抽出』というスキルが活躍してて『保存・維持』のスキルが当てられた物からスキルの効果を抽出して、棚の上に使われている木材に移したもの。つまり料理の上から『保存・維持』のスキルが降りそそがれていることにより鮮度が保たれているってわけ。あっ! 今その力があれば不老不死なんてできるとか思った?」
説明していくうちに段々とテンションが上がり、目を輝かせていくマリアージュが指を鳴らしてフローラを指さす。当の本人であるフローラは意味がわからずに口をポカンと開けて首をかしげるが、マリアージュは構わずに話を続ける。
「残念だけどそれには照射する距離と範囲、それに力が足りないの。それでもこうして料理を保存することはできる。凄いと思わない?」
「はい、凄いです。そんな凄い力を食堂の夜食保持に使えることがまた凄いと思います。他の場所にも使われていたりするんですか?」
「残念だけど使われているのはここだけ」
マリアージュの答えにフローラは不思議そうな表情をして応える。
「それぞれのスキルを持った二人が一生をかけてスキルを木に付与した。その量がこれだけってわけ。そんな凄い力をここに置いているのは客人が来た時に我が国の技術力を見せるって意味もあるの。腐敗するどころかいつまで美味しい料理! 結構驚いてくれるのよこれが」
自慢気に言うマリアージュにフローラは感心して頷く。
「どっちもレアなスキルだったわけだけど、もしもここにフローラの持つ『合成』が存在していたらスキル自体を、あるいは……」
マリアージュの見せた真剣な目に当てられたフローラは思わず息を飲んでしまう。
「おっと、ごめんごめん。説明を始めると止まらないんだよね私。さっご飯食べよ! 私たち職員はタダで食べれるから好きなだけ取っていいからね。常駐のスタッフに頼めば包んでくれるから部屋に持ち帰ることもできちゃんだから」
胸を張っていたマリアージュがハッとした表情になり、照れ笑いをしながらフローラの背中を押す。
マリアージュのオススメする料理に驚き、今まで食べたことのない料理にまた驚きつつ部屋に持って帰るように野菜と肉を少しだけ紙の箱に入れて持って帰る。
部屋に持って帰った野菜と肉をベッドの下から出したフラムに食べさせる。フローラは美味しそうにトマトをかじるフラムを見て微笑むみながら話しかける。
「私のスキルがこの国のためになるかもしれないって。私が頑張ったら多くの人が救われることになるだろうって言われたんだ」
トマトを食べ終えレタスをパリパリかじるフラムに話しかけるフローラは、食堂でマリアージュから言われたことを思い出しながら語る。
「私頑張るよ。私が頑張ったらお父さんとお母さんも喜ぶし、お給料もいっぱ貰って家や小屋も立て直すんだから」
希望に満ちた顔で今後の意気込みを語るフローラを、肉を噛んで手で引っ張って引きちぎりながらフロムは首をかしげる。