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レアスキルから始まる私の創生記〜私は私のために生きるので好きなものに囲まれて国を創ります〜  作者: 功野 涼し
人間だった私が魔王となるまでのお話

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伝説のしわ伸ばし

 穴兎の村をフローラが歩くとすれ違う穴兎たちがうやうやしく頭を下げてくる。フローラは慣れない感覚に居心地の悪さを感じつつ、やや引きつった笑顔で返してしまう。


 何気なく歩いていたフローラは畑を耕す穴兎たちの前で足を止めると、丁度くわを振る手を止めて汗を拭う穴兎と目が合う。


「立派な畑ですね。ここまで土を育てるのは大変でしょう」


「これはこれはフローラ様。この土地は先祖代々耕し育てた自慢のものです」


「長い時間をかけて育てたんですね。少し触ってもいいですか?」


「ええどうぞ」


 くわを持った穴兎の許可をもらいしゃがんだフローラが土をすくうと指で擦って感触を確かめる。


「土がふわふわです」


 フローラの感想にくわを持った穴兎は嬉しそうに何度も頷く。土を戻してお礼を述べると再び歩き出し小柄なヤギがいる場所へとたどり着く。


 柵の隙間から鼻先を出したヤギの鼻の頭をフローラは優しく撫でる。


「ヤギも可愛いなぁ〜。ヤギの飼育ってしたことないけど難しいのかな?」


 かつて実家で飼育していた動物たちを思い出し懐かしそうにヤギを撫でるフローラがふと目をやると、井戸から水をくんでいる穴兎の姿がそこにはあった。


 小さな体を使ってロープを引っ張り引き上げた桶を自分の元へと引き寄せ、中を覗くと表情を曇らせ長い耳が力なく垂れる。


「どうかしたんですか?」


 フローラが声をかけると、穴兎は驚き思わずぴょんと跳ねる。


「驚かせてしまってごめんなさい」


「い、いいえフローラ様に声をかけられたのに失礼な態度をとってしまい申し訳ありません」


「そんなに謝らなくても良いんですよ……それよりも何か困った様子でしたけど」


 深々頭を下げられ困りつつも、再びフローラが尋ねると穴兎は恐る恐る桶の中をフローラに向ける。

 覗いたフローラの目に桶の半分程度に濁った水が入っているのが映る。


「最近地下水の水位が下がってきて井戸の水をくむのも一苦労なんです」


「水位が下がる……水脈に変動があったんですかね……ん? 水脈?」


 水脈と言うワードが引っかかったフローラが首をかしげる。


「そうよ水脈!」

「ヴァイツ様ずっと待ってる!」

「ソワソワしてて見てらんないの!」


 突然の騒がしい声に驚き自分の周りを飛び回る青い光に目を丸くする。


「フ、フローラ様それはいったい……」


「えーっと水の妖精さんたちですけど」


 腰を抜かさんばかりに驚く穴兎にフローラが説明すると、水の妖精三人娘は腰に手を当てふんぞり返る。


「水の妖精⁉ そ、そんな幻の存在ともお知り合いだとは」


 目をまん丸にして驚く穴兎に対してフローラは自分の周りを飛び回る妖精三人娘を見る。


「私も最近になって初めて見ましたけど……う~ん珍しいといえば珍しいんですかね」


 見た目の可愛らしさに加え軽い口調の印象が勝って、存在の希少さをあまり感じていないフローラの周りを妖精三人娘が飛び回る。


「へへーん、凄い存在だぞー」

「レア、レア! ちょー希少価値」

「やーん、珍しいって言われちゃったぁ~」


 いつもの軽い口調にますます希少さを感じないフローラが掌を差し出すと妖精三人娘は降り立つ。


「それでなにか用事じゃないの?」


「「「そー、ヴァイツ様今か今かと待ってるのにフローラ様呼んでくれないのー。ソワソワ、しょんぼり、くねくね、しょーぼーんの繰り返し。面白いけどかわいそー」」」


「あ、あぁ……あれってすぐ使うべきものだったの?」


 妖精三人娘の言葉に焦るフローラの周りを青い光が飛び交う。


「さー早く呼んで―」

「呼ぶのよ、呼ぶのよ」

「やーん、再会のときは近いのよ~」


 目をキラキラさせ早くヴァイツを呼べと急かす妖精三人娘だが、フローラは頬を人さし指でかきながら苦笑いをする。


「えーっと、ヘビの像は部屋に置いてあるから取ってきていいかな?」


「えー」

「うわー」

「ひえ~」


 妖精三人娘の非難の声はフローラが肌身離さず持っていると思っていたヘビの像を持っていなかったからである。それを理解し、あんな像を持ち歩くわけないよと言う言葉を飲み込んだフローラは借り住まいの家へ行く。


「ひぃ~」

「くわぁ~」

「きゃ~」


「ご、ごめんってば。ちょうどいい重さだったからしわ伸ばしによかったの」


 洗濯した服のしわを伸ばす重しとして使用していたのを見られたフローラに対して妖精三人娘が悲鳴を上げる。


 必死に謝りながらヘビの像を持ったフローラが外に出るとカニン村長やブリューゼにコルサ、ケリールと数人の穴兎と狼人たちまでいた。


「えっと……何か用事でしょうか?」


「いえ、さきほどフローラ様が妖精を連れていると聞いたものですから。ところでそちらは?」


 妖精三人娘が飛び回る様子にも驚きつつ、フローラが手に持っているヘビの像が気になったカニン村長が尋ねる。


「これですか? これは白ヘビのヴァイツさんを呼んで水を呼ぶことができる像らしいです。最近水位が下がって井戸の水がすくいにくいらしいので使ってみようかなと思って」


「なっ⁉ 白ヘビですと⁉ 水の護りを司ると言われる幻の白ヘビとお知り合いなのですか?」


「えっ、ええまあ」


 驚くカニン村長にいまいち驚く意味が理解できていないフローラが首をかしげると、妖精三人娘もまねして一緒に首をかしげる。


 驚くばかりのカニン村長たちの後方でブリューゼがコルサに突っつかれている。


「ブリューゼ様、そんなすごい存在に出会っていたのに水を司る存在だと認識していなかったのですか?」


「あ、いや……あいつがっ」


「昔からブリューゼ様は強くて優しいですが、ときどき知識不足なところが目立ちます。ヴィーゼ様がぼやいていたのが今なら理解できます」


「う、すまない……」


 コルサに再びわき腹を突っつかれたブリューゼが謝る。

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