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焼いてうまぁ~!

 巨大なトレントと小さな少女が睨み合う。周囲から見ればハラハラする状況であるが、フローラは臆することなくジト目でトレントを見上げる。


「私はこの先にいる森のお医者さんに会いたいだけです。あなたが言う森を荒らしている人間ではありません」


「そう言って騙すつもりだろう。甘いぞ!」


「むっ、いちいち癇に障る木ですね」


「見たことか! 図星を突かれて本性を現したな!」


 イラっとするフローラが反論する前にトレントが巨大な左右の枝を手のごとく合わせると、それを中心に葉が舞い始める。

 そしてそのまま舞った葉っぱが渦を巻き真横になった竜巻のようにしてフローラに襲いかかる。


 真上からもろに竜巻に巻き込まれたフローラに名前を呼び、焦るブリューゼだが竜巻の中が赤く光ると、渦が逆回転し炎の渦が竜巻をかき消してしまう。


「いきなり攻撃するとか酷くないですか!」


 髪が跳ねたまま怒るフローラに対し、巨大なトレントは信じられないものを見る目でフローラを見たあとすぐに体を大きく揺らす。


「吾輩の最大必殺『グランドクラッシャー』!!」


 枝を地面に伸ばして魔力を地面に伝え内側から爆発させる土の属性に分類される魔法グランドクラッシャー、対集団に対して使われる大技をまして巨大なトレントが使えば辺りにもたらす被害は計り知れない。魔法の研究もしていてその特徴を知るフローラがいち早く察しキレる。


「どっちが森を荒らしているのかって言うんですか!」


 声を荒げたフローラが右足で地面を踏みつける。


 地面に炎の魔力を流しグランドクラッシャーの魔力にぶつける。地面を走るヒビと炎がぶつかると、そのまま土の魔力をかき消し炎が走りトレントに襲いかかる。


「魔法を押し返す! そんなバカな⁉」


 慌てて枝でガードし風をまとい放たれた炎に耐えるトレントを睨むフローラだが、地面から飛び出した無数の木の根っこに足を掴まれる。


「うははははは! 油断したな! グランドクラッシャーはおとりだ……あぁ……あ?」


 フローラの足を掴み一転高笑いをした巨大なトレントだが、違和感に気づき言葉が尻すぼみになる。


「なっなんだこの魔力の震動は……体の芯から響くこ、これは……」


 目を泳がせながらフローラを視界に捉える巨大なトレントは、自身の根っこで掴んだフローラから恐怖を感じ思わず後退りしてしまう。


「足に巻きつけているものを離さないと燃やしますよ。あなたにとって私との相性はよくないと思いますが」


 睨みをきかせるフローラにとてつもない力を感じて巨大なトレントは固まってしまう。


 そぉ~っとフローラの足から根っこを離すと地面の下を伝って自身の体に引き寄せる。フローラの様子を伺いながら根っこを戻す巨大なトレントだったが突然体を大きく揺らして体から葉っぱを巻き散らす。


「ちっ違う。攻撃じゃない!」


 葉っぱを舞わせてしまったことで警戒したフローラに睨まれ、慌てて枝を振って巨大なトレントは攻撃の意志がないことをアピールする。


「さっきから感じていたがお前の炎はただの魔法じゃないな。この焼き具合は過去に一度だけ味わったことがある……そう、ドラゴンだ」


「焼き具合?」


 今までに聞いたことないドラゴン判別方法にフローラは首をかしげてしまう。


「そうだ! ドラゴンの炎で焼いたものは美味しくなる効果があるのだ。それは土も例外ではない! ってこらお前ら勝手に食べるな!」


 いつの間にかトレントたちがフローラの焼いた地面に根っこを刺したり、土を口に頬り込んだりしていた。気のせいか頬を赤くして喜んでいるように見えるトレントたちの隙間をぬって巨大なトレントが必死に土に根っこを刺す。


 一心不乱に土を食べようとわちゃわちゃするトレントたちを呆れた表情で見ていたフローラだが、すぐに目的を思いだし巨大なトレントを見上げる。


「あの、私たちの目的は森の奥にいるお医者さんに会いに行くことなんです。ここを通してもらえますか?」


「うっ? あぁそうだった」


 根っこを刺したまま恍惚な表情を見せていた巨大なトレントが我に返りフローラの方を見る。


「吾輩の名はエノルム、ドラゴンの力を持つ者よ名を教えてくれないだろうか?」


「フローラといいます」


 微笑んで自己紹介をするフローラと見つめ合っていたエノルムが口角を上げてふっと笑う。


「フローラ様! もう少しだけでいいので土を焼いて我らに恵んでいただけないでしょうか‼」


 巨大な体で器用に土下座するエノルムとトレントたちの行動に驚いたフローラは固まってしまう。


「えっ、えっと……私たち急いでるので」


「も、申し訳ございません! おっとそうです! よろしければ吾輩たちが案内いたしましょう! それがいい! ささっどうぞどうぞ!」


 エノルムが大きな枝をフローラに向かって伸ばす。ここに乗ってくれとふんわりと広がった木の掌を前にしてブリューゼとネーベ、コルサと目を合わせたフローラは頷きそっと掌に載る。


 全員が載るとゆっくりと持ち上げて自身の肩辺りにある大きな木でできた広場にフローラたちを下ろす。この葉からこぼれる程よい日の光と、柔らかい風とこの葉のせせらぎ。緑の深緑の香りとエノルムの上にいるとは思えない居心地のよい空間にエノルムの声が響く。


「椅子やテーブルが必要でしたら用意もできますよ。飲み物はご用意できませんが、木の実ならご用意します」


「そんなこともできるんですか。でも今日は急いでいるのでまた今度お願いします」


「はい、では移動しますので何か用事がありましたらお申し付けてください」


 そう言うと周囲の景色が動き始めるが、大きく揺れることもなく流れる景色でやっと自分たちが移動をしているのだと気付くほどである。


「なんだかおかしなことになったけど、トレントの件は一件落着ってことでいいかな?」


 苦笑い気味のフローラに話しかけられたコルサは驚き目を丸くするが、すぐに笑顔になって頷く。


「はい、最高の結果だと思います!」


 出会ってから初めてコルサが見せた満面の笑みにフローラもつられて笑顔になってしまう。

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