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荷物の中には

「フローラくんはスキルとはなんだと思う?」


「なんだと言われましても……」


追いついてすぐにサマトリアからの質問を受け、フローラは言葉に詰まってしまうが必死に自分の思うところを言葉にする。


「不思議な力? 自分や人を助けることができる力でしょうか? 逆を言えば傷つける力にもなるかもしれないですけど」


「ふむ」


フローラの答えに腕を組んで考え込みながらサマトリアは廊下を歩く。


「なるほど夢見がちな少女の答えじゃないのが気に入った」


そう言いながらふっと笑うサマトリアを見てフローラは、ほっと安堵のため息をつく。


そんな会話を交わしつつ、道すがらにある部屋に何があるのかを説明される。そしてたどり着いたのは大きなテーブルが設置されおり、周囲には大量の本が詰まった本棚が所狭しと並んでいた。


「少し前まで資料室だったからちょっと狭いが、ここがフローラが主に働く場所となる。マリアージュくん」


説明しながらサマトリアが名前を呼ぶと本棚の影からひょこっと女の人が顔を覗かせる。


「呼びました? ってもしかしてこの子が例の⁉」


フローラを見るなりマリアージュと呼ばれた女の人が本棚の影から飛び出してくる。


赤みがかった髪にそばかすが特徴的なマリアージュが見せる笑顔が可愛い人だと思いながらぐいぐいくる圧にフローラは後ずさってしまう。


「マリアージュくん。フローラが困っているだろう」


「えへへごめんねぇ。レアなスキルを発言させた人ってだけでも興味があったんだけど、こんなに可愛い子だとは思わなかったからテンションあがっちゃって」


舌を出して頭をかいて謝るマリアージュが手を差し出す。フローラも手を伸ばして二人は握手をする。


「フローラです。よろしくお願いします」


「マリアージュよ。よろしくね」


挨拶をするマリアージュの明るさにフローラは、少しだけ緊張が和らぐのを感じる。


「マリアージュくんは若いけどもスキル専門学のエキスパートとして我が国で活躍している。フローラくんの『合成』のスキルをより良い方向に導いてくれるはずだ」


握手をする二人に表情を変えないままサマトリアがマリアージュを褒めると、眼鏡の位置を直す。


「それじゃあ私は仕事があるのでこれで失礼させてもらうよ。マリアージュくんから今後の仕事内容と住む場所、インフラの説明なんかは聞いてくれ」


それだけ言うとサマトリアは背中を向けて去っていく。その姿を見ていたマリアージュが口を開く。


「サマトリアさん忙しそうでしょ。あの態度を冷たいって言う人もいるけど、結構他人のこと考えてるのよ」


マリアージュの言葉にフローラも彼女と同じくサマトリアが去っていた方を見る。


「気難しい感じだけど結構イケメンでしょ?」


「えっ、え~とまあ、はい」


「あらら、フローラには刺さらない?」


フローラの曖昧な返事にクスっと笑ったマリアージュがフローラの背中をポンと叩く。


「それじゃあ、先ずは住むところから説明しようか」


元気よく歩き出すマリアージュに引っ張られるようにフローラはついていく。


***


ベッドに寝転んだフローラは天井にかざした自分の手を見つめる。


「スキルは内なる力。奥にある……か」


フローラは呟くとじっと手を見つめる。


「あぁ分からないよぉ」


昼にマリアージュと軽く練習したことを思い出したフローラは頭を抱えて悶える。しばらく体を左右に揺らしていたがとまると腕で目を押える。


「お父さんとお母さん夕ご飯食べたかな? ラピドは元気にしてるかな? フラムは言うこと聞いてるかな? 心配だな……」


そこまで言ったフローラは目を押えたまま鼻をすする。


「皆に会いたい。帰りたいよ……」


城に住み込みになるために別れた両親と動物たちを思い出したフローラは、寂しさからぐすぐすと泣き始める。


「あぁだめだめ、初日からこんなんじゃ。頑張ってくるって言ったのにこんなことじゃ」


しばらくの間涙を流していたフローラは目を擦ると上半身を起こす。そのまま腫れぼったい目でボーっと壁を見つめていたフローラが視線を下に向け、自分の荷物を見るとベッドから降りて荷物の前でしゃがむ。


そこそこ大きな鞄の紐を解きゆっくりと開けると綺麗に畳んだ着替えが並んでいる。一番上の服を一枚手に取ると顔を埋める。


服が運んでくれた懐かしい匂いを確かめたフローラは実家を思いだし、再び肩を揺らして鼻をすすり始めてしまう。


ぴぃ!


くぐもってはいるが聞こえてきた音に聞き覚えがあったフローラは、服から顔を離して辺りを見回す。


ぴっ


再び聞こえた音に心当たりがあったフローラが自分の服が入った鞄の中に手を入れると、次々と服を取り出していく。何枚目かの服を取り出したときフローラは目を丸くして服の間から出て来た見慣れた顔を見つめる。


「フラム⁉ なっなんでここに」


小さなドラゴンの子供であるフラムはフローラの顔を見ると嬉しそうに飛び出し頭を擦りつけてくる。


「ちょっと、えっ、いつの間に入ったの? 勝手について来たらダメでしょ」


驚き注意しながらも、どこか嬉しそうなフローラは頭を擦り甘えるフラムを抱きしめる。


「あぁでもどうしよう。ドラゴンを連れているなんてバレたら怒られるよね」


懐かしい顔に嬉しくなったのも束の間、すぐに現実を思いフラムをどうしようかと考えるフローラが周囲を見回す丁度そのときだった、フローラの部屋の扉がノックされる。


「フローラちょっといい?」


ドアの向こうから聞こえてくるマリアージュの声に肩をビクッと震わせて驚いたフローラはフラムを鞄に詰め込むと、服の間から顔を覗かせるフラムに小声で声をかける。


「ここにいて大人しくしておくの。いい?」


コクコクと頷くフラムを見たフローラはベッドの下に鞄を滑り込ませる。


「ど、どうかしました?」


慌ててドアを開けたフローラはフラムを隠したことをバレないかとドキドキしていたが、マリアージュはまだ目が赤く腫れぼったいフローラの顔を見て泣いていたことを察する。


「ううん、ご飯食べる場所を教えようかなと思ったけど今日は疲れたよね。もう寝る?」


「あ、いえ、お腹空いたんで食べに行きたいです」


本当はお腹は空いていなかったが、フラムのことを思い食べに行くと言ったフローラを見てマリアージュは微笑む。


「ここの食堂美味しいものが沢山あるから食べたら疲れも癒やされるってものよ。スペシャルなご飯があるから案内したげる」


まぶしいくらいにニコッと笑ったマリアージュに連れられフローラは食堂へと向かう。

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