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目的の向こうを

うなだれる二人に、求婚のことなどをこれ以上追及しても面倒なことになりそうだと判断したフローラは冷静を装いヴァイツに尋ねる。


「私たちは訳あって人の手から逃げています。当面の目的としてブリューゼさんが住んでいた故郷へと向かうつもりです。ヴァイツさんはトルークと言う村の名前を聞いたことありませんか?」


フローラに尋ねられ思い出し考えこむヴァイツをフローラたち三人は見守る。


「我はこの辺り一帯の水を司る者、ゆえに水の精霊たちの言葉を聞くことができる。噂好きな妖精たちに聞いた方が早いだろう。ついて来てくれるか」


そう言って歩き出すヴァイツにフローラたちもついていき、やがて静かに水が湧き上がる場所へとたどり着く。

ヴァイツがしゃがみ水に手をつけると何やら話しかける。すると水面が震え始め数個の波紋が発生すると青い球が勢いよく三つ飛び出してくる。


それらがフローラの周りを飛び回り始める。


「ねえねえ、ヴァイツ様がお気に入りの子よ~」

「きゃ~可愛い」

「やーん、お似合いよ~」


軽い口調で騒ぐ青い球体を呆けて見るフローラは、それらが球体ではなく背中に羽の生えた小さな少女たちであることに気付く。


「妖精? 私よりもあなたたちの方が可愛いと思うんですけど」


「私たちが見えてるー⁉」

「すごーい! そして可愛いをありがとー!」

「やーん、可愛いって言われちゃった~」


羽の生えた少女たちは等しく同じ顔でロングのメイド服に、頭に大きな青いリボンを携えている。そんな三人が頬を押えたり宙返りしたり、その場でくるくる回ったりとせわしなくフローラの周りを飛び回る。


「我を称えるのはあとにして、今はフローラが知りたいことを教えてもらえぬか」


「はーい」

「かしこまりー」

「教えちゃうよー」


騒がしい三人の妖精は横に並んで手を繋ぐと顔を見合わせて頷き合う。


「「「せーの」」」


大きく息を吸って小さな声でタイミングを計り同時に話し始める。


「「「トルークの村はねぇ~。今は誰も住んでいないよ~。でもね~」」」


息ピッタリに重なった三重の声は不思議と聞き取りやすく、そして何よりも同時に話す意味はないのに聞いているだけで楽しく感じるのは妖精のせいなのかもしれないと思いながら、フローラは続く言葉を待っている。


「「「村から離れた場所に少ないけど狼の獣人たちが住んでるよ~」」」


「ど、どこだそれは‼」


「あーびっくりしたぁ~」

「あわてないで~」

「やーん、あわてんぼうさんの登場だー」


我慢できずに声を上げたブリューゼに驚いた妖精たちがバラバラになり空中に散ってしまう。


「村に行ってみて~。村はここから西へまっすぐ~」

「ヒントあるかもー。見つかるかな~」

「やーん、難易度たかそー。でも獣人ならわかっちゃう~?」


バラバラに答えた妖精たちはそのまま青い光をまとい水へと飛び込んでしまう。広がった三つの波紋がゆるやかに消えていくのを見て喧騒が過ぎさったのだと気付く。


「希望が持てそうですね」


「ああ」


フローラに話しかけられどこか嬉しそうなブリューゼは大きく頷き応える。そんな姿を見て微笑んだフローラはヴァイツの方に目を向ける。


「ヴァイツさんありがとうございました」


「礼には及ばん。それよりもフローラはそこの狼男の目的を果たしたあとはどうするつもりだ?」


ヴァイツの問いに少し困った顔をしたフローラは寂しく微笑む。


「実はまだ決まっていません。ブリューゼさんの帰る場所を見つけたら……そうですね、誰も私のことを知らない場所にでも行くのもいいかもしれません」


「俺の村にっ━━」


「ふむ、それも一つの道だが、それよりもどうだろうか。フローラが住める場所を作ってみるというのは?」


睨むブリューゼを無視してヴァイツがフローラを真っ直ぐ見つめる。


「私の住める場所を作る?」


「追われる立場なのであろう。逃げるのも限界がくるやもしれん。何よりも隠れ住むのは辛いであろうし、フローラがそのような思いをすることを我は望まない」


思ってもいなかった提案に困惑するフローラにヴァイツは話しを続ける。


「逃げ隠れするのではなく堂々と迎え撃つのも良いと思わないか?」


ヴァイツの話に考え込むフローラにヴァイツはさらに言葉を投げかける。


「そこでだ。我をだな━━」


「結局そこか。お前のようなニョロニョロしたヤツはいらん。居場所を作る話は面白いと思うが、迎え撃つのならそれなりの力がいるだろう。お前にその資格はないな」


先ほどのお返しとばかりに話を遮ったブリューゼがヴァイツを睨む。


「今の我が弱いのは認める。そもそも我は水源を司る者であり祀り上げられることで力を得る。それは人も魔族も関係なく感謝され力を得るわけなのだが、今は忘れられた存在ゆえに仕方ないのだ。お前だって水に感謝はすれども(みなもと)を守る存在まで気に掛けてはいないだろう?」


ヴァイツの言葉に思う所のあるブリューゼは黙って小さく頷く。


「とは言うものの力を取り戻す意図はなく、フローラの助けとなるならば力を貸そうというわけだ。我としてはフローラに想われた方がいいわけだからな」


「えっえっと……一つ聞いてもいいですか?」


ストレートに気持ちをぶつけてくるヴァイツに戸惑いながらも尋ねるフローラにヴァイツは笑顔で頷く。


「ブリューゼさんの助けがあって勝てた私が強いとは思いません。ヴァイツさんに気に入られるほどのことをしていないと思うんででうけど」


「我に勝ったのはもちろんだが、炎の力を使ったとき手加減したであろう? 我だけでなく木々にも被害が及ばないようにと。我を討つだけならあんな回りくどいやり方でなくともやりようはあったはずだ」


「あのっ、すごく言いづらいんですけど周囲を焼き払うことも考えましたよ。その力がなかっただけで、その選択もしたかもしれませんよ」


「戦闘に置いて様々な選択肢を考えるのは普通だ。たとえ力があってもフローラはやってはないと我は思う。それにだ、今こうして近づけたことでフローラから感じ取れるドラゴンの力は、まだ幼いだけで凄まじい力の鼓動を感じさせる。おそらく今のフローラでも周囲の木々を焼き払うことはできると思うぞ」


ヴァイツの言葉に驚いたフローラは視線はヴァイツに向けたまま自分の胸元の服をぎゅっと握る。


「フローラは間違いなく強き者であり優しさを兼ね備えている。ゆえに我はそこに惹かれた。これが質問の答えだ」


「私の中にある力まで感じ取れるんですね……」


「これでも神に近しい存在だからな。だたこうして近づいてようやくわかったのわけだがな。力を感じ取れずに攻撃したこと、申しわけなかった」


謝罪するヴァイツに対してフローラは首を横に振る。


「いいえ、私の方こそ何も考えずにヴァイツさんの領域に侵入してごめんなさい」


「ふむ、我の目に狂いはない。フローラほどの者を見過ごすのは愚かな行為だ。一緒について行きたいところであるが我は水源を司るゆえに簡単には離れられない。そこでだ」


謝るフローラを見たヴァイツは大きく頷き、手を広げると掌が輝き始める。


「これを持って行ってくれないか」


ヴァイツは自分の掌の上に載る小さなヘビの像をフローラに差し出す。


「これはなんですか?」


「我の依り代だ。もしもフローラが自分の居場所を構えるのであればそれを置いてほしい。我は水を司るゆえ、その居場所に豊かな水をもたらすことを約束しよう。豊かな水は生活に潤いをもたらすはずだ」


そう言って渡されたヘビの像をしばらく見つめたフローラは顔を上げるとヴァイツに笑顔を向ける。


「ありがとうございます。もしもそのときがきたら頼らせてもらうかもしれません」


「うむ、存分に頼ってくれ。フローラであれば我は尽力しよう」


言い切るヴァイツにちょっと困惑して苦笑いになるフローラの横では、むすっとした表情の拗ねたブリューゼがいたりする。

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