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レアスキルから始まる私の創生記〜私は私のために生きるので好きなものに囲まれて国を創ります〜  作者: 功野 涼し
人間だった私が魔王となるまでのお話

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故郷からの旅立ち

「ブリューゼさんはネーベおばさんが同行することに反対するかと思ってました」


「うむぅ……まあ賛成か反対かと聞かれれば反対なのだが……」


 支度をするネーベをリビングで待つフローラが隣に座るブリューゼに尋ねると、ブリューゼは歯切れ悪く答えつつ口元をかく。


「すごく個人的なことなんだが、昔俺の家の近所にもああいう感じのおばさんがいたんだ。凄く世話になっててだな、似ているゆえに断りづらいと言うか……それに」


「それに?」


 フローラが覗き込むとブリューゼは顔を逸らして上を向く。


「周りに流されず自分の信じたものを信じる、ああ言う感じの者は結構正しいことを言う」


「ふ~ん」


「なんだ?」


「いえ、ブリューゼさんって冷静に相手を見て判断しているんだなぁって思ったんです」


 ふふっと笑うフローラから更に顔を逸らしたブリューゼがわざとらしく咳ばらいをする。


「楽しそうに話しているとこ悪いけどそろそろ行こうかね」


 荷物を大量に持って現れたネーベがフローラとブリューゼを呆れた表情で見る。


「大荷物ですね」


「あ~鍋やらなんやら料理道具がほとんどだけどね。旅とはいえ少しは美味しいもの食くないかい? こう見えても腕に自信があるしあたしだって便利なスキル持ちだからね」


「え⁉ ネーベおばさんってスキルを持っていたんですか?」


 口を押えて驚くフローラを見てニヤリと自信たっぷりな笑顔を見せたネーベが自分の胸を叩く。


「秘密にしてたからね。『識別(毒)』ってやつなんだけど」


「識別、かっこ毒……」


 ネーベのスキルを聞いたフローラは少し考えたあとすぐに目を丸くして信じられないものを見る目でネーベを見る。


「毒を見分けれるそのスキルって貴族や王族から重宝されるスキルのはずですよね? なんでここに……」


「逃げたのさ」


 自信たっぷりに答えたネーベは言葉を続ける。


「あたしは王族や貴族って柄じゃないし、一生毒味係で生きていくなんてごめんだたからね。連れていかれる前に逃げてこの村に流れてきたってわけさ。で、じいさんと出会って今に至るってとこさね」


 ネーベはそこまで話してフローラに微笑みを向ける。


「そんなこともあってフローラを見ていると親近感を感じてしまうわけさ。内容は違うけど逃げるのは慣れているし、山や川で毒が見分けれて料理が作れる婆さんは役に立つと思わないかい?」


 ウインクをしたネーベに対してフローラは大きく頷いて返事をする。


「生きていくうえで食は大事だ。まして毒が避けれるのは心強い」


「そうだろそうだろ。あたしゃね単純な毒だけでなく痛んだ食材も見分けれるからね、連れて行って損はさせないよ。これで狼のお兄ちゃんもあたしの有用性が分かったかね?」


「十分に。俺のことはブリューゼと呼んでくれ」


「そうかい、じゃあブリューゼ。あたしのことはネーベと呼んでおくれよ」


「ネーベよろしく頼む」


 お互いに名乗り距離が近づいた二人を見て嬉しくなったフローラは微笑む。


「さて、それじゃあお別れを言って出発しようかね。フローラも行くよ」


「お別れ?」


 首をかしげるフローラと荷物を持ったブリューゼを連れたネーベは、フローラの家により馬のラピドに手綱を付け馬小屋から出す。


 嬉しそうに蹄を鳴らして歩くラピドに荷物を載せて出発する三人を村人たちは遠巻きに見ているが、目が合いそうになると慌てて顔を逸らしたり逃げ出してしまう。


「気にしなくてもいいさ。人の繋がりは強くもあり脆くもあるってことさね。結局は当人次第。もしも今の気持ちが嫌なら自分はああはなるまいと思っとけば良いんだよ」


 手をひらひらさせて言うネーベをフローラとブリューゼは感心した表情で見つめる。

 尊敬のまなざしを受けるネーベを先頭にして村の出入り口を通りがかったときブリューゼが、バラバラになって地面に転がっている兵器レーシュエンに目をやる。


「誰も回収しないんだな」


「ここは田舎だからね。今頃クリヒケイトが本国に連絡を取ってるだろうけどすぐすぐにこないだろうし、村人も関わりたくないから触りもしないだろうさ」


 ネーベの説明を聞きながらブリューゼが兵器レーシュエンの左腕を拾い上げる。


「この腕に剣を合成させて魔力の回路を循環させ供給を無力化させたと言ってたよな?」


「はい、剣が魔力を集め腕を通して全体に送っていたのでこの腕だけで循環を完結させたんです」


「合成とはそんなこともできるのだな」


 ブリューゼは感心した表情でフローラを見るが、当の本人は首を横に振る。


「たしかに合成をするためにはそれぞれの魔力の流れを見て組み合わせる必要があるんですけど合成させる私の力が必要なんです。簡単に言えば色の違う二種類の粘土があってぶつけても一つにはなりませんよね? それをこねて混ぜるための力と技術がいるんです」


 少し興奮気味に、そしてじょう舌に説明し始めたフローラに少し驚きながらブリューゼが頷くと、それを待っていたフローラは説明を続ける。


「フラムと一つになってから前よりもはっきりと魔力の流れが見えて、混ぜる力が増したんです。おそらくドラゴンの力が関係していると思います」


「この世で一番ドラゴンは魔力の保有量が多いと言われている。それゆえ魔力感知とかは苦手種だが、そこはフローラの力が関係しているというわけか」


「たぶんそうだと思います」


 フローラは自分の胸に手を当て顔にどこか寂しそうな影を落とす。


「すまない」


「いいえ、大丈夫です。それよりもその腕ですけど」


 首を横に振ったフローラがブリューゼの手にある兵器レーシュエンの左腕を指さす。


「今の私では自信ないですけど、もしかしたらブリューゼさんの腕として使えるかもしれません。ですから一応持って行きましょうか」


「それを俺も聞こうと思っていた。前向きに考えてもらえると助かる」


「ええ、詳しく調べてみたいので少し時間をください」


「わかった。よろしく頼む」


「難しい話はまとまったかい? 本国の追手に追いつく時間を与えるのもよくないだろうしさっさと出発しようかね。」


 二人のやり取りをラピトと見ていたネーベに急かされた二人は駆け寄ると、ネーベの案内で村から離れた場所にある共同墓地へと向かう。


 雑に加工された不格好な石が並ぶ墓地の中からフローラは懐かしい名前を見つめると目に溜まった涙を拭う。


「お母さん、私もう帰って来れないかもしれない。本当は生きているうちに会いたかったけどこうして挨拶できて良かった」


 墓石に優しく触れて撫でたフローラの背後では、姿勢を正したブリューゼが胸に手を当て墓石を見つめる。


(消えゆく俺の命はフラムとフローラに救われた。この恩に報いるためにもフローラを守ることを誓う)


 心の中で誓いを立てるブリューゼの背中にネーベがそっと手を置く。ブリューゼと目があったネーベが頷くと祈りを捧げるフローラに声をかける。


「さて、行こうかね」


「はい。行きましょう」


 立ち上がったフローラは歩き出すがすぐに足を止めると振り返る。そしてもう一度だけ墓石をまっすぐ見ると微笑む。


「行ってきます」


 小さく呟いたフローラの髪をそよ風がそっと撫でる。

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