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優しさに応えて

 城で働いていた二年の月日の中で研究メインの生活を繰り返していたフローラではあるが、武器を合成し各部隊に使用感を試してもらっていた経験から戦闘の知識もそれなりに持っている。


 元々の真面目な性格もあって、武器そのものの知識と扱い方の知識も学んで持ち合わせているフローラは、ブリューゼと兵器レーシュエンとの戦いをつぶさに観察していた。


 さらにドラゴンであるフラムと一体になったことで、本人が思っているよりも魔力可視、動体視力も大きく向上しており、素早い戦いでも動きを把握することが出来ていた。

 それ故にブリューゼの攻撃を受けた際、兵器レーシュエンの間接部が大きくズレるのを見抜く。


(今私が出来ること……フラムの炎の力と私の『合成』のスキル。それと……)


 フローラは自分の前に立つブリューゼの背中を見つめる。


「ブリューゼさん、レーシュエンとか言う兵器をバラバラにしたいと思います。思いっ切り攻撃してもらっていいですか」


 フローラの言葉に一瞬だけ目を大きくして驚きを見せるがすぐに口元を緩めふっと笑う。


「任せてくれ」


 一言残し地面を蹴って向かったブリューゼの手刀を避けた兵器レーシュエンに間髪入れずにブリューゼの回し蹴りが襲いかかる。

 腕でガードした兵器レーシュエンがよろけたところを逃さずブリューゼが足の裏で蹴って吹っ飛ばす。


 空中に浮いた鎧の体でバランスを取り地面に足をついた瞬間地面が破裂して火柱が上がる。


 爆発によって兵器レーシュエンが手足がバラバラになって地面に散らばる。


「ブリューゼさん! 下がってください!」


 バラバラになった兵器レーシュエンに追撃をしようとしたブリューゼを止めたフローラが掌に魔力を集め炎を生み出す。


 フローラが炎を放つ前に兵器レーシュエンの体から黒い光が伸び手足に引っ付き引き寄せると元の姿になる。


「爆発する前にわざとバラバラになりました。あの兵器レーシュエンの中身は魔力の塊。そしてそれを動かすのはあれです」


 フローラは兵器レーシュエンの手に持つ剣を指さす。


「剣が本体なのか?」


「正確には違います。あれは起動スイッチであり魔力を集め供給する装置、戦闘の思考は頭でやっていると思います」


「そんなことまで分かるのか?」


「なんなんでしょうね。魔力の流れがよく見えると言えばいいですかね」


 ほんのりと赤く輝く目で相手を見るフローラが言葉を続ける。


「全部とはいきませんけど、部分的になら物質を変化させることが可能かもしれません。そうすればあの硬い体を砕けるはずです。もう一度お願いします」


 フローラの言葉をきっかけにしてスタートを切ったブリューゼが、兵器レーシュエンの剣を飛び上って避けつつ踵落としを放つ。避けられてなおも体を回転させ右手で地面を捉え軸にして大きく体を回して足払いで兵器レーシュエンの左足を払う。


 バランスを崩したところに支える右足の太ももに左足でローキックを、そのまま引いた左足を軸にして回転し右足の裏で兵器レーシュエンの右足を後方から蹴り飛ばす。


 連続の衝撃に右足が外れ飛んで行く。回転しながら地面に転がった兵器レーシュエンの右足に駆け寄ったフローラが右手で触れ、左手に土を握る。


「私なら出来る!」


 緊張の色を隠せないフローラだが自分を奮起させる言葉を吐きながら右手と左手の魔力の線を結ぶ。


 兵器レーシュエンの右足が淡く光を放つと同時にフローラの手元から引っ張られ元の場所へと戻ってしまう。


「無駄だ! 無駄だ! 対魔族兵器のレーシュエンにお前らごときの攻撃は効かないのだ!」


 腕を組み自信満々に高笑いをするクリヒケイトに兵器レーシュエンは剣を力強く振って応える。それを見て益々調子に乗って笑うクリヒケイトの目の前で突然兵器レーシュエンの体がが大きく揺れ、そのままうつ伏せに倒れてしまう。


「なっ、なんだ? なにがあった! 小娘何をした‼」


 慌てふためくクリヒケイトに対して澄ました顔でフローラは笑みを浮かべる。


「鉄に土の要素を加えました」


「はぁ? なっ何を言っている」


 フローラの言葉の意味が理解できないクリヒケイトだが、引っ張られるようにして立ち上がった兵器レーシュエンを見て再びニヤリと笑う。

 片足でふらつく兵器レーシュエンは自分の右手を外して地面に落とすと右手は右足の元へと収まり、バランスが悪いながらも地面を踏みしめ立ってみせる。


 左手に剣を持ち構える兵器レーシュエンの左肩にブリューゼの鋭い手刀が落とされると、外れかけたところを蹴りによって吹き飛ばされる。


 フローラは自分の足下に滑ってきた剣を手に取ると一緒に飛んできた左手に触れる。


「魔力が供給される限り動き続ける兵器。逆を言えば供給のラインを断てば動かないわけですから」


 澄ました顔で剣と左手に間に糸を繋げ合成する。剣は消え一回り大きくなった鉄の腕が横たわると同時に兵器レーシュエン頭と手足が落ちて地面に転がる。


「なっ、なんなのだお前は! 何をしたっ!」


「魔力の流れを変えただけです。供給元である剣が持っていた魔力のラインを腕の中で循環するように合わせたんです」


 フローラの言葉の意味は相変わらず理解できないが兵器レーシュエンがなくなった今、自身の立場が危ないことは理解できたクリヒケイトが後ずさりをする。


「逃がすと思うか?」


 右手の鋭い爪を見せるブリューゼの前に歩いてきたフローラが立つ。


「伝えて欲しいことがあります」


「ひっ」


 静かに喋りかけるフローラの圧にクリヒケイトは思わず小さな悲鳴を上げてしまう。


「私はこれより北へと向かう予定です。私のことを罪人と言って追うのは勝手ですがそれ相応の覚悟はしてください……とお伝えください」


 そう言ってじろっとフローラが睨むと手を口に突っ込んで震えあがったクリヒケイトが走って馬車に飛び込んで馬を鞭打つ。


「走れ! 早くしろ‼」


 悲鳴にも聞こえるいななきと共に馬車は走り出し、さながら暴走車のように荒々しい動きであっという間に去っていく。


 それを見届けたフローラが恐る恐る隣にいるブリューゼを見上げる。


「あんなこと言ったら本当に追いかけてきますよね?」


 青ざめた顔で唇を波打たせて尋ねるフローラを見たブリューゼがふっと笑う。


「だろうな。それに向かってくるならそれ相応の覚悟はしてくるだろうしな」


「ですよね……」


 フローラはガックリと肩を落としてため息をつく。


「村を守るために挑発するようなことを言ったのだろう? その優しさに俺は応えよう。キミのことは俺が全力で守る」


 真っ直ぐな瞳で言うブリューゼに目を丸くして驚くフローラだがすぐに微笑むと頷く。


「はい、頼りにしています」


 屈託のない笑みに直視できなくなったブリューゼが顔を逸らしてしまう。ブリューゼの頬は分かりづらいがほんのりと赤かったりする。

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