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兵器

 にじみよるブリューゼから逃げようと地面を這いずるクリヒケイトにブリューゼの踵が落とされる。

 反射的に手をクロスして身を守るクリヒケイトだが衝撃に耐えられずに背中から地面に叩きつけられる。それでも起き上がって四つん這いで逃げるクリヒケイトをブリューゼが追う。


「追い払うことができれば、無理に追う必要なんてないんじゃないですか?」


「いや、あのようなヤツは追い詰めらると何をするか分からない」


 追いついたフローラが尋ねるとブリューゼが前を向いたまま応える。四つん這いで逃げるクリヒケイトに追いつくのはわけがないが、入り口に止めた馬車に控えていた二人の兵が走り割り込んで来る。


「邪魔だ!」


 ブリューゼが右手で払い、その際傾けた体を利用し左足の裏でもう一人の兵を蹴り飛ばす。ブリューゼの流れるような動きに驚き感心していたフローラだが、馬車の荷台に頭を突っ込んで足をばたつかせるクリヒケイトに嫌な予感を感じ顔をしかめる。


 体重をかけて荷台から引っ張り出した勢いで地面に背中から倒れたクリヒケイトが抱きかかえていたのは布と鎖に巻かれた物体。

 剣の持ち手であるグリップとガードが見えていることからそれが剣であるとは推測できるが、大事そうに抱えてニンマリと笑みを浮かべるクリヒケイトの意図が読めずフローラとブリューゼが身構える。


「さぁこの生意気な小娘と魔族を倒すがいい!」


 そう言ってクリヒケイトが剣に巻かれている鎖を手で引っ張り解く。それにつられて解かれる布の下から現れた剣は細身の両刃の剣。シンプルな装いながらもどこか禍々しい雰囲気を持つ。


 そして剣に反応するかのように馬車が大きく揺れると、突然馬車が内部から破裂して辺りに木片が飛び散る。


「くはははっ、いいぞ! いいぞ! その勢いでこいつらをやってしまえ!」


 爆風に巻き込まれ地面に転がったクリヒケイトが上半身を起こし、自分の前に凛と立つ全身鎧のフルアーマー兵を見て手を叩き喜ぶ。


 フローラの前に立ち守っていたブリューゼが右腕を下ろすと手に力を込める。そして走り出し剣を握ったフルアーマー兵の攻撃を手で払い避け、わき腹に蹴りを喰らわせる。


 見事に決まった回し蹴りだが驚きの表情を浮かべたのはブリューゼの方である。傷一つつかない鎧はさることながら、びくりともしないフルアーマー兵が兜の奥にある目をゆっくりと向ける。


 危険を感じたブリューゼが地面を蹴って大きく後ろに下がると同時にフローラが掌から火球を放つ。


 炎を真正面にして動じることなく我が身で受けたフルアーマー兵は、鎧に火が付いているのも構わず剣を持つ手に力を入れゆくっりと走り出す。


 素早い動きに反応できないフローラを抱えたブリューゼがフルアーマー兵の剣を避ける。


「あの人、熱さを感じていない?」


「やせ我慢ってわけじゃなさそうだな」


 今も鎧に燻る炎を気にすることなく歩いてくるフルアーマー兵に驚くフローラたちとは対照的にクリヒケイトが手を叩いて喜ぶ。


「うわっはははっ! 凄いぞこいつは! ごくつぶしの兵どもと違って飯もいらんし休憩もいらん。その上こんなに強いとは! 最新の兵器を回してくれたサマトリア様に感謝せねば!」


「サマトリア⁉」


 クリヒケイトの口から出た聞き覚えのある名前に驚くフローラだが、確かめる間もなくフルアーマー兵が剣を振り下ろしてくる。


「速いな」


 間一髪で避けたブリューゼの足から血がにじんでいるのを見たフローラが、ブリューゼの肩に触れ自分を下ろすように促す。


「ブリューゼさんのさっきの発言といい、聞きたいことはありますけど、今はこのピンチをどうするかが先です」


 そう言って目の前にいるフルアーマー兵を睨むフローラに続きブリューゼも睨みつける。


「うはははは! 対魔族兵器レーシュエンの前にしては手も足も出まい!」


 つい先程まで怯えていたクリヒケイトの姿はそこにはなく、攻めあぐねるフローラたちを見て愉快そうに笑っている。


「全力で炎を放てば倒せるかもしれませんけど、そんなことをしたら村にも被害がでそうですし何よりも当てる技術が私にはありません」


 フローラは笑うクリヒケイトと兵器レーシュエンを視界に捉えたまま、ブリューゼに話しかける。


「なるほど、力押しいくか」


「力押しが通用するならそれでも構いませんけど、私なりに解決の糸口を探したいと思います。だからもう少しだけ時間をください」


「むぅ……」


 真剣な表情で相手を見据えるフローラの横顔を見て唸ったブリューゼだがすぐにふっと笑う。


「フローラ様の仰せのままに」


「その言い方あんまり好きじゃありません」


 顔を向けないがムッとした表情になるフローラを見て浮かべた笑みを消したブリューゼが姿勢を低く構えると、地面が抉れ土が飛び散るほどのスタートを決める。


 一瞬で間合いを詰めたブリューゼが兵器レーシュエン目がけ放った蹴りは腕でガードされてしまうが、構わずはじかれた反動を生かして体を捻って地面に足をつけると同時に回転しながら右手で裏拳を放つ。


 裏拳の軌道状に剣先が見えたブリューゼが拳を止めると、回転した体を下へ沈め足払いへと切り替える。足をすくわれた兵器レーシュエンはよろけるが、足さばきでバランスを取ってみせる。


 だが崩れた体勢を逃さずブリューゼが放った掌底が胴体に決まり兵器レーシュエンは大きく吹き飛ばされる。

 鈍い音をたてて倒れ地面を滑った兵器レーシュエンを見て驚愕の表情を見せるクリヒケイトだが、頭を糸で引っ張られるように直立不動で立ち上がる姿を見てニンマリと笑う。


「うははははっ! 兵器レーシュエンは無敵だ! お前の攻撃なんぞ痛くも痒くもないわ!」


 大きな声で笑うクリヒケイトに犬歯を見せてブリューゼは苛立つ。その背後に立つフローラは小さな声で呟く。


「なんとかいけるかも」


 フローラの小さな声を拾ったブリューゼの耳がピクっと動きそしてニヤリと笑みを浮かべる。


「さすがだ。あとは頼む」


 ブリューゼの絶賛の言葉に顔を向けはしないが、少し頬を赤らめそれを隠すようにその頬を膨らませるフローラの姿があった。

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