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変わり果てたもの

 二人はドライスの町から三日かけてフローラの故郷であるヌルの村へとたどり着く。


 木の影から村の様子を覗いていたフローラが自分の後方に控えているブリューゼに目を向ける。


「疫病が流行っている感じはありませんけど、なんとなく私の家の雰囲気が違う気がします」


「違う?」


「なんと言えばいいですかね。人気(ひとけ)がないというか熱を感じられない。そんな感じです」


 フローラの言葉を受けて口元を押えてブリューゼは考え込む。


「一人で行くのは危険じゃないか?」


「私のことが知れていて家族が連れられたと考えれば罠の可能性もあります。だからこそ後ろにいてくれると心強いです」


「分かった。くれぐれも気を付けてくれ」


「はい」


 ブリューゼと言葉を交わしたフローラは足早に森を抜けると村の中へと侵入する。なるべく人に見つからないように慎重に隠れながら、かつて歩き慣れた道を懐かしむ余裕もなく家へとたどり着く。


 家を囲む柵の扉を押すとぐにゃりと傾き倒れそうになる。傾いた柵を見て怪訝そうな表情を浮かべながらもすぐ近くにあった鶏小屋の並ぶ広場を見て口を押える。


 かつては早朝から賑やかだった鶏小屋は、小屋と変わらぬ背の草が生え生き物の気配はない。小屋もどこかくすんでいて所々にコケが生えているのが目に入る。

 奥にある馬小屋が気になるフローラだったが、先に家の方へと向かい玄関のドアノブを引く。


「開かない……」


 ドアが開かないのは外から板が打ち付けられているからだとすぐに気付く。正面から入れないと悟り、別の場所から入る方法と中の様子を探るため家の周りを歩くが、窓には内側から板が打ち付けられていて中が見えなくなっていた。


 不安が満ちてあふれそうな心を押えるように唇を噛み、馬小屋を抜けた先にある裏の扉から入ろうと歩みを進める。馬小屋に入ったフローラはすぐに匂いがあることに気付き鼻を小さく動かす。


 そして視線の先に見慣れた顔があることに気付き駆け寄る。


「ラピド!」


 馬小屋に一頭だけいた馬のラピドはフローラを見ると一瞬戸惑いの表情を見せるがすぐにフローラだと気付くと鼻を鳴らして顔をすり寄せてくる。


「何で誰もいないの? どうしてラピドだけここにいるの?」


 鼻の筋を撫でながらラピドに尋ねるが、馬であるラピドが答えれるわけはなく辺りを見渡したフローラは小屋の中に餌である干し草とラピドの前にある水が綺麗であることに気付く。


「誰かが世話をしている……もしかして別の場所に住んでいるとか?」


 家には住んでいなくて離れた場所からラピドの世話をしている。例えば自分が仕送りした家を建て替えるため別の場所に住んでいる、鶏たちもそこにいて馬小屋は確保できなかったからラピドだけここにいて……そんな前向きな想像をフローラはする。


「誰だい?」


 突然の声に振り向いたフローラは声の主を見て目を丸くして驚く。それは相手である老婆も同じで幽霊でも見たかのように指をさして体を震わせている。


「フ、フローラなのかい?」


「はい、さっき帰ったんです。ネーベおばさん、お父さんとお母さんがどこにいるか知りませんか?」


 フローラからネーベおばさんと呼ばれた老婆は驚きの表情からすぐに顔を曇らせ、バツの悪そうな表情で目を逸らしてしまう。


「言いづらいんだがね……」


「教えてもらえませんか? 私もここに滞在できる時間があまりないので」


 フローラの言葉にハッとした表情で見返したネーベは喉を鳴らして唾を飲み込むとフローラを見つめる。


「つい先日フローラが城で暴れ負傷者を出して逃走しているから、見つけたら知らせるようにって役人からお達しがあったんだけど本当なのかい?」


「え、えっと……はい、暴れたのは嘘じゃないですけど……」


 言い訳をするよりもガクッと肩を落として落ち込むフローラを見たネーベは、緊張していた表情を和らげ微笑む。


「あの優しいフローラが意味もなく暴れるわけないのは知ってるから安心おし。何か事情があったんだろう?」


「ネーベおばさん⁉……ありがとうございます」


 優しい言葉をかけられ涙ぐんだフローラを見てネーベおばさんは頷き口を開く。


「フローラがお城で働き出してしばらくはいつも通りの様子だったんだよ。段々とお父さんが仕事をしなくなって町へ遊びに行くようになってね。家を空けることが多くなったんだよ、お母さんが一人で家畜の世話をしてたんだけど一人じゃ限界だったんだろうね、ある日倒れてしまってね」


「あたしも手伝ったり看病したんだけど、あたしじゃ力になれなくて……そのままお母さんは亡くなってしまってね……ごめんなさいね」


 謝るネーベに対してフローラはあふれ出した涙を拭いながら首を横に振る。


「教えてくれてありがとうございます。おかげで現状を知ることができました。ところでなぜネーベおばさんがラピドの世話をしているんですか?」


「フローラが帰ってきたとき誰もいないと悲しむってね、お母さんからこの馬の世話をお願いされたのさ」


 そう言ってネーベがラピドを撫でるとラピドも顔をすり寄せ応える。その様子を涙ぐんだ目で見ていたフローラが深々と頭を下げる。


「本当にありがとうございます」


「いいさ、いいさ。あたしもフローラの両親にはお世話になったからね。恩を返せる機会をもらえて感謝したいくらいさ」


 その言葉を聞いて目を押えて涙をこらえるフローラをネーベは優しく見つめる。


「本当に、本当にありがとうございます……」


 フローラは涙を拭って再び感謝の気持ちを伝える。


「あの、それとお父さんは……」


 父親の居場所を尋ねようとしたとき遠くで大きな声が聞こえ一気に騒がしくなる。突然の出来事に嫌な予感を感じ言葉を止めたフローラは、騒ぎの方へと意識を向ける。

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