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レアスキルから始まる私の創生記〜私は私のために生きるので好きなものに囲まれて国を創ります〜  作者: 功野 涼し
人間だった私が魔王となるまでのお話

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心境を吐き誓いは立つ

 人に見つからないよう念のため、夜更けに川へとたどり着いたフローラたちは交代で身を清める。


 先に終えたフローラが焚火に体を当て髪を乾かしていると静かな足取りでブリューゼがやって来る。

 どこかぎこちない動きのブリューゼは、一般的な村人の男性が着るズボンとシャツを着ている。


「似合ってますよ」


「そ、そうか。それにしてもよく服まで譲ってもらえたな」


「ええ、たまたまポケットに金貨があったので服と布を交換してもらったんです。ついでに針と糸ももらったのでお昼の間に縫ってみました」


 そう言って近くに畳んであった布を手に取るとブリューゼに手渡す。手に取ったブリューゼが布を広げるとフード付きのローブの形へと変わる。


「そっちの方が着やすいと思って縫ってみました」


「ああ、確かに」


 おもむろにローブを羽織り、フードを被ってみせたブリューゼを見てフローラは微笑む。


「そのなんだ……ありがとう」


「どういたしまして」


 恥ずかしげにお礼を言うブリューゼにフローラは微笑み応える。


「ところでそのなんだ、俺のことは恐れないのか? 魔族といえば人間が忌み嫌う存在だろう?」


「今さらな質問ですね」


 フードを脱ぎながら焚き火を挟んでフローラの向かいに座ったブリューゼの質問に、一瞬キョトンとしたフローラはすぐに可笑しそうに笑う。

 その姿にブリューゼも口元を掻きながら照れてしまう。


「何と言えばいいですかね。えーっとそうですね、フラムの記憶にある妹さんがしてくれた不器用だけど優しい兄の話を知っているから……とか?」


 フローラがはにかみ気味に笑うと、ブリューゼも恥ずかしそうに笑みをこぼす。


「俺のことをそんな風に話していたのか……」


「手先が器用で花の冠を作るのが村一番上手だって自慢してましたよ。そんな魔族だからこそ怖くないのかもしれません」


 そこまで微笑みながら喋っていたフローラだが、ふと表情に暗い影を落とし胸に手を当てる。


「それと私自身が人ではなくなったからなのもあるかもしれません……」


 胸を押さえるフローラの呟きにブリューゼがハッとした表情をする。


「すまない」


「いいえ、あのときフラムが命をかけて守ってくれなければ、こうしてここにいることはできませんから。それにあのとき選択したのは私ですしブリューゼさんが謝る必要はありません」


 静かに語ったフローラはふと笑うと自身の髪を手でとき毛先を指で絡めると瞳をブリューゼに向ける。


「もう寝ましょうか。近くにドライスと言う大きな町がありますから、明日はそこに行って食料調達や疫病など近隣の状況を探ってみたいと思います」


「ああそうだな。俺が火の番をやるから先に寝てくれ」


 自分がやると言おうとしたとき、タイミングよく出そうになったあくびを慌てて手で押し殺したフローラがブリューゼと目が合うと恥ずかしそうに笑う。


「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」


 微笑んだフローラは髪を軽く束ねて敷いた布の上に横になる。しばらくごそごそと動いていたフローラだがすぐに小さな寝息をたてる。その様子を見たブリューゼは静かに揺らぐ炎を見つめ、そして自身の左肩に触れ強く握る。


「俺はどうするべきなのか……」


 ブリューゼは顔をしかめ苦しみのこもった声と共に木の枝を火の中へとくべる。


 ***


 大きな町ともなれば人も多くなる。ゆえに人同士の関心が薄くなり少し変わった格好をしていても、訳ありの人間と関わりたくないと見て見ぬふりをして流してくれる。


 フードを深く被って顔を隠したフローラは、残った金貨を使って日持ちする燻製肉と果物を買いつつ周辺の情報を得るべく探りを入れる。

 短めの滞在を経て山の中へと戻ったフローラの前にブリューゼが現れると、その姿を見てフードを取りローブを脱いだフローラはローブを手渡す。


 ローブを受け取ると同時に手に持っていた燻製肉や果物が入ったかごを受け取ったブリューゼにフローラが笑みを浮かべる。


「ありがとうございます。もっと色々と買おうと思ったんですけど、人目が気になって」


「いやそれは仕方ない。注意を払って悪いことはないはずだ」


「そうですね。ブリューゼさんが忠告してくれなかったら深く考えずにお買い物に没頭していたと思います」


 そこまで喋ってふっと笑ったフローラが真面目な顔でブリューゼを見つめる。


「そう言えば疫病のことについてお店の人たちに話を聞いてみたんですけど、疫病が流行っているなんて話なんて誰も知らないですし、ここ何十年とこの国で疫病は流行ってないと言われました」


「つまり、城の人間が嘘をついたということか」


「そう考えるのが妥当だと思います。ただなぜ嘘をつく必要があったかと言う疑問が生まれますけど」


「……そのなんだ」


「気を遣わなくても大丈夫ですよ」


 言いづらいのか口ごもるブリューゼにフローラは微笑み口を開く。


「私に隠しておきたいことがあったと考えるのが自然です。嫌な予感がします」


 フローラは顔に暗い影を落としながらも赤くなった瞳に強い光を宿す。


「君は強いんだな」


「いいえ、そんなことはありません。フラムがこの世から消えてしまったことも今でも信じられませんし、受け止めれていません。それにどんなことが待ち受けているのか考えるだけでも不安で押しつぶされそうです。何か目標を持って動いていないと動けなくなりそうで怖いんです」


 首を横に振って応えるフローラに対してブリューゼもまた首を横に振る。


「いいや、そう思って動ける君は間違いなく強い」


「ブリューゼさんにそう言ってもらえると自信が持てます」


 そう言って笑みを見せるフローラにブリューゼは自身の左肩に触れ微笑み返す。


「何があろうとも君を守ろう」


 思いもよらないブリューゼの言葉に目を丸くして驚いたフローラだったがすぐにクスッと笑う。


「じゃあ安心ですね」


 笑顔で言われたフローラの言葉にブリューゼは左肩を強く握り、心の中でフローラを必ず守ろうと誓いを立てる。

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